↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界 x(クロス)  作者: 快速
PR
11/21

第十章 敵の証明



 魔力研究所(鑑識)からの報告は、案外早く届いた。研究所の職員が昼頃、書類をまとめて届けに来たのだ。ホワイトはそれを受け取り、上司と相談した後、会議を開くことにした。

 

 トニーはまたもや食堂でシェフをやっていた。償いの気持ちもあるだろうが、シェフをしているトニーは生き生きとしている。フロードはそれが嬉しくて、皿洗いを手伝う事を買って出た。

 今日も大盛況で忙しかったが、カレーしかメニューがなかったのが幸いし、客のさばきはスムーズだった。フロードは人生分の皿を洗ったと豪語し、客足が落ち着いた頃、エプロンをとり、カウンターに座った。

 そこへ、狙ったかのようにティムがやって来た。実際に狙ったのだろう。先程、混み合う食堂を見て引き返していた(皿を洗うフロードを見てニヤリとした)。ティムはフロードの隣に座った。


「皿洗いお疲れさん」ティムはフロードの肩を叩き、トニーにカレーを注文した。


 フロードは腰に手を当て、背筋を伸ばし、唸り声をあげた。


「一生分の皿を洗った気分だ」フロードはまた言った。「皿洗いくらいはバイトに任せるべきかもな」


「フロード、トニー、3時に会議だってよ。眠くならないように食いすぎるなってさ」

「3時か、後1時間あるな。コーヒー飲んどくか」フロードは立ち上がり、食堂の中央に置いてある、コーヒーポットに向かって行った。

「俺のも頼むよ」ティムが笑いかける。


 フロードは「しょうがないな」と言いながら、二人分コーヒーを注いだ。二人分のコーヒーをカウンターに持って行き、置いた後、「トニー、お前コーヒーは?」と聞いた。


 トニーは首を横に振り、氷の入ったコップを持ち上げた。「水がいい。兄貴こそ飯は? カレーあるよ?」


「頼む」

「ああ、そうだ。会議はトニーも出るんだぞ? 全員だ。なんてったって、今地球にいる奴も参加するらしいからな」


 フロードとトニーは驚いた。全員参加なんて中々無い。トニーの記憶が、よほど重要な情報を握っていた、という期待が湧いて来た。

 いつもは会議などめんどくさがっているフロードだが、今回ばかりは、早く会議が始って欲しいと、気持ちが急いてしまった。トニーに出されたカレーも、「カレーは飲み物はじゃないよ」とトニーに言われるまで、フロードは勢いよく食べていた。




 場所はいつもの会議室。フロードたちを含め、十数人の警官たちが椅子に座っている。フロードは、空いていた一番前の列の椅子に座り、ティムとトニーに挟まれた。 

 3時ぴったりにホワイトとヒゲが会議室に入ってきた。ヒゲは窓側に歩いて行き、カーテンを閉め始め、ホワイトは電話で、地球の各拠点に連絡をしているようだった。

 すると、警官たちの後ろで、白く光る四角い板のような物が数個現れた。大きさはまちまちだ。光は一瞬で地球の警官たちと、その背景を映し出した。まるで、テレビの画面が宙に浮いているようだった。大勢映っているものもあれば、一人しか写っていないものもある。テレビに魔法をかけて、こちらとつながっているのだ。縦長なのはスマホだろうか? メリの顔も見えた。

 ホワイトはそれに向かって、「見えていますか? 音はどうですか?」と手を振った。

 フロードは振り返り、中に浮かぶ画面たちを見た。全員親指を立て、オッケーサインを出している。スマホのやつは手しか映っていない。スマホのやつはジンマ(人名)だとフロードは気付いた。


 ホワイトは黒板の前に立ち、ヒゲはその隣に立った。


「では会議を始めます。今回はかなり重要な話になりますので、心して聞くように」ホワイトはフロードを見て「居眠りは駄目ですよ」と付け加えた。フロードは居眠りなんてした覚えは無い(覚え、は無い)。なんで俺を? と思った。


「昨日、フロードの拠点が地球の兵器に攻撃を受け、破壊されました。まあ、それは皆さん知ってると思います」


 正式な発表では無く、噂で広まったものだ。警官の中には知らなかった者もいたようで、「え? そうなの?」という声が聞こえた。ホワイトは続ける。


「そして、地球人の心が具現化して我々を襲う現象。この二つは同一犯による犯行だと判明しました」


 会議室がどよめいた。フロードも驚いた。地球人がセカイトメントを襲う事は、全員が天災のようなものだと思っていたからだ。人的な要員なら、防ぐことが出来る筈だ。


 ホワイトは「続けます」と言い、会議室が静かになるのを待ってから話を再開した。


「犯人は地球人の心がセカイトメントに来たことを確認し、その心が強力な力を持っていた場合のみ、催眠術をかけるのです。人間や、建物、植物、視界に入る全てが、恐ろしい化け物に見える催眠です。地球人にしか効かない催眠だと思いましたが、地球の文化にある程度理解があれば、かかる催眠のようです。お陰でフロードも軽く催眠にかかりました」


 ティムは「なるほど」と言いながらうなづいている。そして、フロードを見て、「かかったのか?」と聞いて来た。フロードは記憶解析室で見た幻覚を今思い出した。

 フロードはティムに向かってうなづき、「一度体験してみるといいぞ。かなり刺激的だ」と誘った。


 ホワイトの話は続く。


「この催眠の悪質なところは、夢が覚めたら全て忘れているという所です。地球人は悪夢を見ていた、という事すら自覚しません」


 ホワイトはそこまで話すと、書類を一枚ずつ警官たちに配り始めた。ヒゲもそれを手伝っている。その書類はフロードの家族と一般市民が石にされた事件の書類だった。


「こんな事件があったのか? なんの関係があるんだ?」ティムはその書類を見てフロードを見た。ティムは少し機嫌が悪くなっている。フロードはそれを感じ取り、無言でうなづいた。


 警官たちが読み終わり、今度はヒゲが話し始めた。


「フロードの拠点を襲った兵器は無人だった。自動操縦が暴走したって話だが……実は違う」


 書類を読んだ警官たちはもう次の話が予想できた。その予想が正解かどうかを聞くために、全員がヒゲの話に集中した。


「石にされた人の心を、兵器に取り憑かせ、操った。そして、フロードの拠点を襲った」


 それを聞いた途端、会議室は息を飲む音に溢れた。ため息も聞こえる。


「つまり、地球人が襲ってくるのも、フロードの拠点が襲われたのも……全て悪意があったってわけだな?」ティムがヒゲを睨みつけた。ヒゲはビクッと髭を震わせ、「ああ」と答えた。


 フロードはティムが怒るのを見たのは久しぶりだ。ティムだって地球人に家族を殺されている。天災だと思っていたのが、人災……いや、悪意のある犯行だとわかったのだ。フロードも両親を失っているのだから気持ちは分かる。

 フロードはティムの背を叩き、落ち着けと無言で伝えた。正直な話、フロードも怒りに満ちていた。しかし、ティムが怒っていることによって、フロードは冷静になれた。

 ヒゲは咳を一つして、気を取り直し、話を続けた。


「記憶解析からだが……。フロードを襲った兵器が、自衛隊に撃ち落とされた時、被害者が石の状態から解放されたことがわかった。つまりは、一度取り憑いたものを破壊すれば、石にされた人の心は、“シャイニング”の管理を離れる」

「つまり、フラッ……シャイニングに石にされた人たちを元に戻すには、何かに取り憑かせた後、取り憑かれている物を破壊する、という事になります」ホワイトはフラッシュと言いかけた。フロードだけがその事に気付いた。


「いや、一番簡単なのはシャイニング本人を殺す事だろう? しかも、それが最後の地球人殺しになる」フロードが口を挟んだ。

「はい、もちろんそれは最優先の任務です。しかし、簡単にはいかないかもしれません」


 ホワイトは手に持った書類をめくりながら話を続けた。


「シャイニングは、どういうわけか、私たちセカイトメント人の位置を、把握出来るようです。ヘリに取り付いていた人の記憶から、思考を読み取ったのですが……」


 ホワイトの書類をめくる手が止まった。


「フロードが帰って来た所を、一網打尽にしたかったようなのです。思考にははっきりとあなたとトニーの位置が意識されていました。まあ、マナを感知しているようなので、誰が誰かはわからないようですが……つまり……」

「つまり?」ティムが首を傾げた。

「石にされている人がまだ23人います。少なく見積もっても、後23回、いや……23台の兵器に襲われる可能性があります。今こうしている間にもです。一応、今地球にいる警官たちには、気をつけろとは言っていますが、対策が難しいです」


 確かに対策は難しい。場所によっては、いつでも飛行機が飛んでいるし、その辺の車が暴走する事もあり得る。だからといって、周辺にある乗り物や機械を、全て破壊しておく事も出来ない。全てが後手に回ってしまう。


「でも、対策が難しい犯人が見つかりました、お終い……って言う会議じゃないよな?」フロードがそう言うと、ホワイトは「当然です」と答えた。


「シャイニングの居場所を突き止めました」ホワイトはニコリと笑った。「セカイトメントでは手に負えない魔法を使えたとしても、地球ではただの人間です。処理自体は簡単にできる筈です」

「で? その場所は?」フロードは食い気味に聞いた。


 ホワイトは書類をめくり、それを見ながら答えた。


「アメリカのサンフランシスコにある、『有限責任会社カブリルアイ』という会社です」


 ホワイトの話によると、シャイニングはいつもその会社に居るようだ。フロードは不思議に思った。普通なら、自分の家から通勤する。しかし、会社の中に宿泊できる場所でもあるのだろうと、深く考えなかった。


「シャイニングを暗殺してもらうのは、フロードと、拠点が近いティムです。そのほかの皆さんは、後で指名する2人を覗き、いつも通り仕事をしてもらいます」

 

 ティムは「よし、やってやる」とやる気をみなぎらせていた。フロードも同じ気持ちだ。しかし、ホワイトは数人だけいつもとは違う仕事をしてもらうと言った。


「いつも通りの仕事をしない数人は、何をするんだ?」フロードは警官全員が気にしている事を聞いた。一番前に座って居るので自分が聞くべきだと思ったのだ。


 ホワイトはそれを聞くと、言いずらいのか、口に手を当て、「それはですね……」と言い淀んだ。


「もし……もしですよ? シャイニングが石にされた人たちの心を操り、あなたたちに攻撃を仕掛けて来た場合。その……それ以外に対処法がない場合のみ……」ホワイトは無理やり声を出すように話している。


「……あ……操られている本人を殺します」ホワイトは言い切り、そこでやっと息を吸った。平静を装おうとしているのがバレバレだ。


 警察官たちは全員、無言になった。


 シャイニングが、セカイトメント人の心を、兵器に取り憑かせる。その心を操る事によって、兵器はシャイニングの思う通りに動くようになり、フロードの拠点を破壊した。

 つまり、シャイニングの操る兵器を無力化するには、心の持ち主を殺害する事が一番楽なのだ。これは、心を具現化させた地球人に対してやっていた事とほぼ同じだ。


「そう言うことか……」フロードは、もし自分の家族が、自分を攻撃して来た場合を考えた。もし、自分か、家族か、どちらかの命しか選べない状況に陥ったら、どうするか? 考えるまでもなく、家族を助けるように言おうと、結論を出していた。もちろんそんな事態におちいらない事が一番だが……。


「ですので、フロード、ティム。シャイニングの殺害は、迅速かつ確実に行ってもらいたいのです」

 

 フロードとティムは立ち上がった。


「なら、今すぐ行くべきだ」

「俺の拠点から行くんだよな?」ティムが言い、出口へと歩き出した。

「あの、まだ会議は終わってませんよ」ホワイトはそう言いながらも、止めようとしない。おそらく、ほとんど終わりだったのだ。

「これ以上はいっぺんに言われても覚えられません。あとで通信を頼みます。俺たち、準備が必要なんで」ティムは出口に向かいながら、ホワイトの方を、見向きもせず言った。


 トニーはそれについていこうと立ち上がった。「俺もついていきます」


「待ってくださいトニー」ホワイトが慌ててトニーを呼び止めた。フロードとティムは、それに驚き、ホワイトを凝視した。


「トニーはこちらに残ってもらいます」

「ホワイト、まさか石にされた人を殺させるのか? トニーに⁈」フロードは信じられない、と言う表情でホワイトへ詰め寄った。


 ホワイトはフロードの剣幕を見て、銃を突きつけられたように、両手を挙げ、慌てて言葉を続けた。


「いえ、彼の知識が必要なだけです。石にされた人を殺すのは……基本的には……私とヒゲがやります……。指名される2人も、私たちに何かあった時のために、代わりに仕事をしてもらう為で、トニーとは別です」


 ホワイトの表情が暗くなるのを見て、フロードは「そうか……すまん」と言い、出口へ向き直し、トニーの肩を叩き、ティムと共に会議室を出て行った。


「あの〜会議の続きをお願いします」警官の一人が言った。


 ホワイトは我に返り、会議が途中だったことを思い出した。慌てて書類をめくり、説明を再開した。


 二、三分の説明が終わった後、


「え〜、ではカイルとアーノルドの二人は残って下さい。それ以外の皆さんは、シャイニングに気をつけながらも、いつも通りの任務をお願いします。解散!」


 やはり、会議はほとんど終わりだったらしい。損な役割を押し付けられた二人を残し、警察官達は去って言った。


 ホワイトは、残った二人をフロードに知られなくてよかったと思った。残った二人はもしかしたら、フロードの妻か娘、あるいは両方を殺害することになるかもしれないからだ。もしそんなことになったら、殺した二人も、フロードも普通ではいられないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。