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落ちこぼれ召喚士はチャラめな精霊に愛される

作者: 立川梨里杏

お久しぶりです

紅が散る。

ゴポリ。

錆びた鉄の味が酷く不快で吐き出す。

“リシェ!!”

まるでこの世の終わりかのように悲壮な顔をしているのは愛しい貴方。

貴方のそんな顔を見たのは

これが初めてかしら。

視界と共に意識が少しずつ薄くなっていく。

「……ぃ…て……る」

絞り出した声は届いたかしら。

声と共にもう一度紅を吐き出して

私の意識はそこで途絶えたーー。



「はーい、君が僕の召喚士?よろしくね!」

何とも軽い口調で言ったのは目も眩むような美貌の精霊。

クリーム色の柔らかそうな髪に、抜けるような青。柔和な笑顔は見ているだけで癒されそうだ。まさに眼福である。

魔術学園、卒業試験。

これまでの成果が如実に現れ、またこの結果によってこれからの未来もほぼ確定する大事な試験。

今更実力が変わるというわけでもないが、皆必死になって少しでも上位の精霊と契約しようと集中力を高めている。

そんな中、私、リシェール・ブランは

全く期待していなかった。

何故なら、私は学園きっての落ちこぼれ代表だったからだ。

召喚士は精霊と契約して、魔獣を倒すのが使命だが、私は攻撃魔法が全く使えなかった。

魔獣相手とはいえ、何かを攻撃すると思うと、身が竦んでしまうのだ。

攻撃魔法が出来ない、落ちこぼれの私にはきっと下位精霊しか来ないんだろうな……。

せめて優しい精霊が来てくれたらいいな。

それでのんびりD級任務をこなして、ゆったりと余生を過ごそう。

そんなまったり老後計画をたてていたのに。

私の元へやって来てくれたのは見るからに上位の精霊。

先程からキラキラと煌めいていらっしゃるがもしかして光の精霊なのだろうか。

召喚士は火、水、土、雷、光いずれかの属性を持つ精霊と契約する。

魔獣は闇属性を持つため、光属性が魔獣を倒すのに最も有効な属性であるとされている。

精霊には下位、中位、上位精霊がいて、力が強いほど美しい。

どの精霊と契約できるかは召喚士の力に比例する。つまり、こんなポンコツの私が契約できるような精霊ではないのだ。

教師も、生徒も皆騒然となっている中、私もだいぶ混乱していたのだろう。

「相手、間違ってますよー!」

叫んだ私精霊はきょとん、とした顔をして

「え、間違ってないよ!

だって俺、君に一目惚れしたんだもん!」

どうやら精霊の方がトチ狂っていたようだ。



やはり精霊ーーリュメールは上位精霊だったらしい。

学園始まって以来のポンコツ召喚士の私には不釣合いだと、皆の目が突き刺さった。

実際面と向かって言われたこともある。

その度にリュメールは凄絶な気を放って返り討ちにしていたのだが。

そんな力のある精霊と契約していても、召喚士の私が攻撃魔術を使えないため、リュメールは力を発揮できずに、ショボいD級任務でうさぎを追っかけたり、畑を耕したりしている。もはや魔獣もクソもない。

本来の力を発揮出来ずに申し訳ないとリュメールに謝ったら、

「リシェはそんなことを気にしていたの?

僕はどんな形であれ君といられるならそれが一番だよ」

そういって笑う美貌の精霊。

ほっかむり被ってるけど。

それでも申し訳なくしていると、考えがあるといってリュメールが設立したのは治療師。

治療師は、攻撃を行わずに味方の治療、補助を徹底する。

これまでも上位の任務になると複数の召喚士がチームになっていたが、そこに役割分担はなかった。

回復、補助役が加わることによって、任務の遂行の効率は格段に上がった。

攻撃を行わない治療師など、と最初は侮られたりもしたが、治療師の入ったチームの任務成功率が結果として現れると誰も文句を言う者はいなくなった。

私はというと、治療師の設立者、そして最も優れた治療師として、ヒーラーの称号を新たにもらい、数々のS級任務に引っ張り出されることになった。

全部リュメールの功績ですけどね!!


そんなこんなでエリート治療師(笑)と呼ばれるようになって数年が経った今、魔獣との戦いが激化している。

どうやら魔獣は自然発生的に現れるのではなく、魔族の召喚獣らしい。

魔族とは、人の形を取っているが、人では禁忌とされている闇を扱う。

魔術にも長けていて、正直言って強敵だ。

闇を扱うのだから光には弱いだろうと、攻撃に光の加護を付加しているが、やはり付け焼き刃の光属性では通用しない。

魔術学園も、優秀な生徒は卒業を早めて早速実戦に駆り出す。

戦況はかなり厳しいものになっていた。



ドゴオオオオオオーーーーン!!!

突然おぞましい轟音が鳴った。

窓から外を覗くと、夥しい数の魔獣がいる。

遂に魔獣は、魔術本部にまで攻め入って来たらしい。

けたたましく鳴り響く警報。

『緊急事態、緊急事態。

只今魔獣の襲撃。飛行型、およそ1000体、

地上型、およそ10000体。

4時の方向に魔族と思われる

力の強い個体が1体。

C級以下の召喚士は棟内で結界強化の補助、

B級召喚士は棟外にて遠距離攻撃、

または補助。

A級、S級召喚士は前線に出撃。

治療師は集まり、前線隊の補助、治療に専念せよ』


外に出ると、まさに惨状。

そんな言葉がぴったりと当てはまった。

何しろ魔獣の数が多すぎる。

厄介でS級警戒種に値する飛行型が1000体もいる時点でもう規格外だ。

“あれは……まさか。なぜ……。”

リュメールの方へと目をやると、顔が青ざめている。

いつも飄々としているこの精霊がこんな顔をしているのを見るのはこれが初めてだ。

“リシェ。あいつは魔族の長だ”

きっと上空で高みの見物をしている個体だろう。遠目で姿は見えないが、その周りを取り巻く圧倒的な禍々しい力から痛いほど伝わってくる。

告げられた事実は余りにも残酷で。

こんなの無理だ。

そう呟いたのは誰だったか。

どんなにこちらの力を集結しても

負けるビジョンしか思い浮かばない。

ああ、これを絶望っていうのかな。

“リシェ。

君が望むならこのままここから連れ去ってあげる。

それで二人でずっと一緒に暮らそう”

リュメールを見つめる。

なんて甘美な響きなんだろう。

リュメールとずっと一緒にいられる。

いつも明るくて、私が落ち込んでたら励ましてくれた。

失敗をしたら優しく慰めてくれた。

無力な私に力をくれた。

リュメールがいてくれるなら何もいらない。

それでも

私はそれ以上に、

貴方に恥じない私になりたかった。

「ありがとう、リュメール。」

真っ直ぐに目の前の精霊を見る。

最期ぐらい、貴方の召喚士であることを胸を張って主張できる自分でありたい。

「私を、あそこへ連れてって」

目指すのは強大な闇。



《愚かな人間が妾と同じ目線にいるとは何と不愉快な》

リュメールに連れられて辿り着いた上空は、呼吸もままならないほどに濃密な負の魔力。

その中心にいたのは。

ぬばたまの黒髪にすべてを吸い込むような漆黒の瞳。

言葉に言い表せない程の美貌を放つ彼女は、リュメールに視線を向け、蠱惑的に微笑む。

《お前ほどのものが何故このように脆弱な人間についておるのだ。全くもって理解が出来ぬ。

どうだ、光の。この女を捨て妾の眷属になるのならここは其方は救ってやるぞ》

リュメールは助かる、その事に少しの迷いが生じる。

繋いでいた手に力が込められる。

ハッとリュメールの方を見ると、優しく微笑まれる。

“僕が君を離すことは絶対にない。

この先ずっと、何があっても”

その言葉で覚悟は決まった。

「リュメール。

貴方の全力の力を私に注いで」

例えこの身が粉々に砕けても、私は私を貫いてみせる。

“そんなことしたら、君が….…!!”

渋るリュメールに絶対的に言い放つ。

「命令よ」

契約した精霊にとって、召喚士の命令は絶対的なものである。

リュメールは自分の意思とは反して私に力を注ぎ始めた。

“やめろ……やめるんだっ!!リシェ!!”

熱いエネルギーが私の中に入り、身体を内側から焼き尽くす。

私は無理やり治療術を使い、その力を更に増幅させる。

その繰り返しで更に力を強大化させていく。

魔族の長が何度も闇の波動を投げつけてくるが、ものともせずに浄化する。

その闇ごと全て浄化してみせよう。

《おのれ、小娘ごときが……!!》

今までで一番大きな闇の魔球が向かってきたとき、私は一気に魔力を放出した。

全ては白。白に染まっていた。


雨が降っている。

けぶる視界に目を凝らすと、貴方が泣いていた。

“リシェ!!”

まるでこの世の終わりかのように悲壮な顔をしているのは愛しい貴方。

貴方のそんな顔を見たのは

これが初めてかしら。

視界と共に意識が少しずつ薄くなっていく。

あの魔族は倒せたのかしら。

ごめんね、こんな召喚士で。

ごめんね、貴方とずっと一緒にいるって約束、守れそうにないや。

ああ、それでもこれだけは言っておかなくちゃ。

ーあいしてるー

絞り出した声は届いたかしら。


こぽり。たゆたう。

ゆらり。ゆらめく。

こぽり。こぽり。こぽり。

泡沫が生まれては消える。

消えては生まれる。


“……。…シェ。リシェ。”

私を呼ぶひどく懐かしく、安心する声が聞こえて目を開ける。

目の前には目も眩むような美貌の精霊。

クリーム色の柔らかそうな髪に、抜けるような青。柔和な笑顔は見ているだけで癒されそうだ。まさに眼福である。

ああ、出会った時と一緒だ。

ただあの時と違うのはきっと私が人間でなくなったこと。

“私……人間じゃなくなったの?”

そう問うと、リュメールは申し訳なさそうに眉を下げる。

“ごめん……。あの時、君は今にも魂ごと消えてしまいそうだったから、修復不可能な身体から魂を取り出して、精霊の力を与えたんだ”

……何という荒業。

見たことも聞いたこともない。

そんなことが出来るのはきっとーー。

“生を与えてくださり、ありがとうございます。光の精霊王”

あの泡沫に見せられた夢からは様々な情報があった。それで目の前の精霊様が光の精霊王だと知った時は腰を抜かしたのだ。

(寝てたけど)

精霊になったからこそわかる。

この溢れ出る光の魔力は間違いなく頂点に君臨するものだ。

私が跪くと、

“ちょいちょいちょい!ストーーップ!!

そんなのいいから!やめて!!”

その慌てっぷりに逆に唖然とする。

本来、精霊王とは強大な力を持つもので、私みたいな平の精霊(自分でもちょっと違和感)なんてそうそう会えないのだ。

そんなこんなで私が戸惑っていると、今度はリュメールが跪く。

精霊王が跪いていいのかっ!?

そんな訴える間も無く、リュメールは微笑んみ、私の手を取る。

“我が愛しき伴侶。悠久を側で魂を共にすることを請い願う”

泡沫で見せられたから分かる。

これは精霊流のプロポーズだ。

しかし、精霊は人間よりずっと寿命が長いので(というか不滅?)本当にずっと一緒にいるということなのだ。

あろうことか、リュメールは私の手にキスまでし始めたので、私はもう真っ赤になって固まってしまう。

“……返事は?くれないの?”

リュメールは立ち上がって囲い込むように私を抱きしめ、耳元で囁くと、もう正常な判断はできなくなる。

“あの時は言ってくれたのになあ。

愛してる、って”

“〜〜〜〜っ!!”

聞こえていたのか。やっぱり。

目の前でニヤニヤと笑うその顔が、憎たらしくて、なんだか負けた気になって悔しかったから私は勢いよく唇を重ねてみたのだ。

読んでいただき、ありがとうございました!

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