村娘の勇者と庶民な魔王
今回は、リハビリで書いた物を投稿しました。
魔王城に、私は足を進めた。
自国の王に言われて、魔王を倒すために来た。
仲間は、いない。私一人だけで行って魔王を倒せと言われた。
ほんの少し前まで、普通の村娘として生きてきたのに突然伝説の勇者と言われて、攫われるように、自国の王様に意味が分からないまま、旅に出された。
剣だって、持った事なんてなかった。
魔物だって、倒したこと無かった。
なのに、伝説の勇者にならされてから、魔法が掛かったように自然と出来た。
国王様も、城の人達も凄いと言っていたけれど…
私は、凄く怖かった。
魔物も倒すことも怖かったし、剣を持つことも怖かった。でも、それよりも、なによりも…
突然、そんな事が出来るようになった自分が、凄く怖かった。
皆は、これなら魔王を倒せると喜んでいたけれど、私は、そんな魔の頂点にいる王と戦わないといけないと言われて、怖くて無理だと言ったけれど、私の言葉に
『何を弱気なことを言っている』
『魔王を倒せる力を持っているのだから、君が行くのが当たり前だ』
『その力なら、君は勝てる』
根拠のない自信なのか、私の言葉に誰も耳を貸してくれなくて、1ヶ月だけ訓練した後、私は一人だけで旅に出された。
旅の途中は、一人だけの心細さといつ襲ってくるか分からない魔物に怯えて、いつも、恐怖と戦っていた。
宿に入って寝るときは、村にいた頃を思い出して、心細さをなんとか埋めた。
村にいるときは幸せで、お互いを助けたりして暮らしていた。
喧嘩もしたり、村だけのお祭りをしたり。たまに、旅人が来たりして、その人の話を聞いたりして、そんな変哲のない毎日を送っていて、私はただそれだけで、幸せだったのに……
「…勇者なんかに、なりたくなかった…」
瞼の裏には、私が兵士に連れて行かれるのを心配そうに見ている友達や、村の人達…村長…。
それが、私が覚えている最後の村の様子だった。
そして、やっと魔王城についた。
国王様が、言っていた。
『魔王を倒せば、そなたを元の生活に戻してやろう』
だから、魔王を倒して私は村に帰って、また元の暮らしに戻りたい。
そして、踏み入れようとして…扉を開けようとした。
その時、
「魔王様!!貴方は、またそんな格好をして!!」
「やっべ!ばれた!!」
扉を、少し開けると、そこには
長身の長い白髪で、顔にはモノクルを付けた男性と……
私よりも、少し年上の…黒髪の短い男の子がいた。
「まったく!いい加減、市井を頻繁に行くのは控えて下さい!貴方は、もう魔王なのですよ?!」
「いや…だって、今日…狩りに行くって騎士隊長と約束したし…」
「彼ですか?!彼ですね!まったく、貴方の身に何かあれば、困るのは貴方と我々ですよ!!」
白髪の人に叱られて、黒髪の人はそのまま、胡座をかいてうなだれるように落ち込んだ様子だった。
その様子は、昔、村にいたおばさんに叱られる、二人の兄弟を思い出す。
そんな二人の様子を、私は…意を決して、扉を開けた。
「誰ですか?」
「?見ない顔だな?」
二人の視線に、少し怖じ気ついたけど、私は言った。
「私は……勇者です…魔王と、戦うために来ました…」
その言葉をなんとか言うのに、とても時間が掛かった。
そして、暫く時が流れた…。
「…勇者、ですか……随分と、我々も舐められたものだ…こんな、小娘を寄越すとは…」
白髪の人からは、鋭い目で睨まれたけれど、私は真っ直ぐ見た。
「…良いぜ、勇者。戦おう。」
先ほど、胡座をかいていた魔王が、いつの間にか立って、大きな大剣を持っていた。
「…魔王様、このような小娘の相手をする必要はありません。私で充分…」
「いや、やる。とりあえず、掛かってこい。」
魔王を庇った、白髪の人を押し退けて、魔王が私に向かって言った。その言葉に私も剣を構えて、魔王に向かって倒そうと、走った。
結果は私の負けだった。息が切れてる私と、涼しい顔をした魔王。そして、
「…俺の勝ち。だな。さて…じゃあ…」
多分、殺されるのだろう…目を閉じて、覚悟を決めた。
「今から、狩りに行ってくるなー!!!」
なのに、彼はそういって、私を置いて何処かに行った。
「油断した……!!そこの者!!この娘を牢に入れよ!!…あぁ、もう!魔王様!!お待ち下さい!!」
白髪の人は、追いかけてしまい、私は、先ほどの戦いで動けないまま、大柄な竜人に抱えられ、牢に入れられた。
そして、その夜…自分が殺されないことを疑問に思いながら、考えた。
何故、命を狙った私を、殺さないで魔王はそのまま何処かに行ったんだろう。
もしかしたら、明日…殺されるのかな…。
……殺されるのなら、最期は…皆に会いたかったな…
そう思って、目を閉じた。だけど、足音がして目を開けた。
「よう、勇者。さっきぶりだな!」
そこには、私と戦った、魔王がいた。
「…魔…王…?」
私が小さく呟くと、魔王は私の牢屋に近付いた。
今の私は、伝説の勇者が着るとされる鎧も、剣も捕られていて、丸腰のままだった。だから、少し魔王から牢屋越しに離れた。
その様子に、魔王は、
「なんもしないって。ただ、聞きに来ただけだ。」
そう言うと、私に笑いかけた、でも、目は何処か真剣だった。
「なあ、なんで命を狙いに来たんだ?」
その言葉に、私は黙った。その様子に、彼は…
「…なんか、事情があるって顔してんな…ま、とりあえず、今日は此処で我慢してくれ。じゃな!」
特に深く聞くことなく、そう言って去ろうとした彼は、思い出したように言った。
「そうだ、俺の名前は…ラース。じゃな」
今度こそ、彼は何処かに行った。
そして、翌朝…私は、牢屋から出されて、こう言われた。
「貴方は、これから…魔王に会って貰います。着いてきなさい」
昨日の白髪の人に言われて、魔王がいる部屋に連れて行かされた。そして部屋に入ると、
「とりあえず、昨日俺を狙った理由と、名前を教えてくれ」
私は、魔王の言葉に、素直に従った。
「私の名前は、ルルです…貴方を、狙った理由は…私が…勇者、だからです…」
名前と、それらしい理由を言った。だけど、
「それだけじゃないだろ?」
魔王は、納得していないような様子だった。でも、言葉には何処か優しさを感じた…
「…私が、勇者で…国を守るためで……国王様に、魔王を倒せと言われたから…です…」
だから、もう少しそれらしく話した。
魔王は、
「…そうか…」
それでも納得していなかった。そして、私は勇者の一式が無いことで、只の娘と判断した、白髪の人が言って
「そのような力の無い娘を、外に追い出すなどこの国の外聞の恥。ですので貴方には、この国で魔王の為に働くように」
白髪の人の言葉に、耳を疑い、魔王を見ると……
「よろしくな!ルル!!」
と、なんてことないように、笑いかけながら言った。
「どう…して…」
私は、貴方の命を狙ったのに……。
そんな疑問を抱きながら、私は白髪の人……ニルコンさんから、魔王の城で働くことを命じられた。
最初は、私が魔王の命を狙った勇者と言うことで、周りからの風当たりが強かった。でも、それは仕方ないと思って、飲み込みに文句を何一つ言わずにやり遂げた。
辛いとは、自然と思えなかった。大変だと、忙しいとは思ったけど、この城に働き始めてからは、苦しいと辛いと思うことがまるでなかった。
風当たりが強かったときでさえも、それは仕方ないと思っていたから、きつい言葉も受けたけど…悲嘆には、くれなかった。
自国の城で、剣を持って、魔物と戦って…旅をしていた頃の方が何よりも辛くて苦しくて…悲しかったから。
私が、そうして働いているのを見た皆さんが、次第に優しく接してきてくれたり、手伝ってくれることが多くなった。
後から聞くと、最初は横柄な態度や偉そうにしてたら、今より厳しくキツくしてやろうと思っていたらしいけど、私が何も言わず、言われたことを…例え、遅れても時間が遅くなっても、夜になっても、必死にやり遂げているのを毎日見ていて、次第に皆の態度が軟化していったらしい。
私からしたら、みんなの使えている王様を殺そうとした自分を、そんな風にするのは当たり前だし、注意や例え厳しくても皆が皆、正しいことを言っているのを知っていたし、分かっていたから…特に嫌な気持ちにはならなくて、そんな自分を置いてもらえるだけで、良かったと、ある日、尋ねてきた同僚の人に言った。そしたら……
「……あんた、分かっていたけど…凄い素直な子だね…」
「…なんで、あんたみたいな良い子がラース様を倒そうとしたのか…分からないな…」
それからというもの、私は段々と魔王城の人と打ち解けてきた。
「ルル、今日はどうだった?」
「あ、ラースさん…」
私が、仕事を終えると、魔王…ラースさんがいつものように、様子を見て、私に声を掛けてくれた。
私が、魔王城で働き始めたときから、こうして様子を聞いたり、見に来てくれたりした。最初は、やっぱり警戒したけれど、彼が無邪気に自分のことを話したり、私を気に掛けたりしてくれて、段々と彼がどういう人か、分かってきた。
彼は、なんというか…村にいた頃に良くいた…年頃の男の子みたいだった。
城で働いているときに、何度も脱走しては、ニルコンさんに叱られ、捕まればふてくされたり、ションボリしたりするのに、
他の同世代だと思う人達が来ると、楽しそうに話したり、時には気に入らない大臣に子供みたいな悪戯をしたり…城下の街に行くと、お土産を買ってきたり…そして、城の中の人達には、同年代の人には友達みたいに接したり、年上の人からは可愛がられたり年下の人からは、兄のように慕われたり…まるで、何処にいても人気者の、男の子だった。
そんな、彼を見て…私は…段々と彼に対する警戒を解いた。
自国の城では、王様はラースさんみたいな感じではなく、皆、通る度にかしずいて、そして…畏まっていた。
大臣の人も、色んな人からは尊敬はされていたけれど、同時にいつも、怖がられていた。
「今日は、古い使われていない屋敷を掃除しました…埃まみれで、直ぐに雑巾が黒くなるけれど、なんとか終わらせて…今は、とても綺麗になりました」
「お疲れ!悪いな…なんか、急遽使うから、明日までに掃除して欲しいなんて無茶頼んで…ありがとうな!」
その言葉に、私はラースさんに笑いかけた。
私や他の人も、その屋敷を掃除したけど、幸いにも少し小さめの屋敷みたいだったから、少し早めに終わった。
時刻は、もう夜になった。食事も済ませたし、後は少しお風呂に入って、寝るだけになった。
だから、ラースさんに挨拶して、用意された所に戻ろうとしたけれど…
「…なぁ、そろそろ聞かせてもらえないか?」
「……え?」
ラースさん。言葉に、思わず聞き返すと……
「あの時、なんで……俺の命を狙ったんだ?」
その言葉は、とても真剣で…私は、話した。
「…私は、貴方を倒せば…国王様に、元の生活に戻してやろうって言われたんです…」
その言葉を、静かに聞いていたラースさんは、
「そっか…やっと、ちゃんとした理由を聞けて良かった。」
見守るような、優しい目で…私を見た後、汚れている髪に気にせずに、撫でると…
「帰りたかったんだな…自分の家に…自分の暮らしに…だから、俺を狙ったんだな…」
その言葉に、涙が出て来て撫でられながら、自分の本当の気持ちをすべて言った。
「…本当はっ…勇者になんて…なりたくなかったっ…村の中で、ずっとっ…暮らしたかったっ…!魔物もっ…倒したくなかった…怖かったし…何より、痛かったっ…!体もっ…心もっ…!剣なんて、持ったことないのに…戦えって言われてっ…!嫌だった!私、怖くて、無理だってっ…言ったのに!なのに、貴方は勇者だから、何の理由もないのに、そう言われてっ…魔王城に、行かされた……!」
涙が出てきて言葉がぐちゃぐちゃで、言っている事がめちゃくちゃなのに、次々と、思い付いたように出て来るまま話した。
「弱音を吐いたらっ…情けないって!旅も、一人で行って…いつ魔物に襲われるか、分からなくてっ…!怖くてっ…仕方なかった…!!ごめんなさい…!ごめんなさい!!貴方の、命を狙って、殺そうとしてっ…ごめんなさい!こんなに、良くしてくれたのに、ごめんなさい……!」
最後は、彼に対しての、謝罪だった。ずっと、彼のことを知る度に自分がどれだけ酷いことをしたのか…自分の身勝手で、殺そうとしたことを…後悔していた。
私の言葉を聞いた、ラースさんは……
「許す」
一言、そう言った。なんでと、言おうとしたけれど……
「理由も、ワケも、分かったし。何より、ちゃんと謝罪をしてくれた…だから、許す。」
その言葉に、私はまた、涙を流した。
そんな、私をラースさんは、頭を撫でてくれたまま、笑いかけてくれた。
そして、更に時が経って、私はすっかり魔王城の一員になった。
朝起きて準備して、仕事をして…でも、偶に休みもあって…とても、楽しく暮らしていた。私を受け入れてくれる人が日々多くなった。
ラースさんとは、あれから益々仲良くなった。
偶にラースさんを見かけると、声を掛けてくれて、私も笑いかけて挨拶したりした。
ラースさんがニルコンさんに捕まって、説教をしているのを見ると、私に気づいて手を振るけど、その度にニルコンさんに魔王様!と怒られて、シュンとうなだれて、
仕事が終わると、ラースさんが駆け寄ってきて、お互いに今日のことを話したりした。
ラースさんの事を知る度に、皆から聞く度に、教えてくれるうちに私はいつの間にか、ラースさんの事を好きになっていた。
優しくて、明るくて…やんちゃだけど、時々王様らしいラースさん…対する私は、村娘で、彼の命を狙った元勇者で、今は只のお城の下働き。
身分もなにもかも違うのに、こんな気持ちを持ってしまったけれど…伝えなければ…良いと思った。
ただ、黙っていれば良いと思った。それなら、許されると思った。
ラースさんは時々、私に贈り物をくれた。
時には、美味しいお菓子だったり、
時には、綺麗なお花だったり、
昨日は、可愛い髪飾りをくれた。
でも、他の皆にもあげたりしているから、きっと私ばかり特別じゃないのは分かっているけど、とても嬉しくて…今日はくれた髪飾りを着けて、仕事を始めた。
「あれ?その髪飾り、どうしたの?似合ってるね?」
「あ、これ…魔王様…ラース様がくれたんです」
ラースさんの前以外では、私は魔王様やラース様と言っている。でも、最近は、ラースさんは呼び捨てで呼んで欲しいと言っていたけれど、私が、断ると少し、残念そうにしていたことを思い出した。
その様子に、くすりと笑って同僚の人に言うと……
「……ルル、それ大切にしなよ?」
「勿論です。大事にします!」
力強く頷くと、同僚の人はよし!と言ってくれた。
「あ、そういえば、今日買い出しに行くんでした。私、今から行ってきますね!」
「うん、気を付けてね?いってらっしゃい!」
同僚の人と別れて、買い出しに行くために、私は城下町に行くために走り出した。
城下町に行って明日のために使う物を買って、そろそろ戻ろうと城に足を向けながら、街の周りを見た。
色んな種族の人達、魔族や獣人や…中には、エルフもいたり、私と同じ人間が楽しそうに暮らしていた。
魔族と人の夫婦がいたり、エルフと獣人の恋人や、人とエルフの友人が楽しそうに歩いているのを見て、私は微笑ましく思いながらも、何故、国王様がこの国のラース様を倒せと言ったのか、ますます分からなかった…。
この国に来たときは、頭が村に帰ることでいっぱいになって、自分のことで精一杯だったから、考えることが出来なかったけど…
「…こんなに、平和で皆笑顔なのに……どうして?」
此処の国は、こんなに平和なのに、どうして国王様はこの国を狙ったんだろう?少なくとも、私には分からなかった。
そんな事を、ぼんやりと考えていたのが悪かったのか、目の前の人とぶつかってしまい、慌てて謝った。
「ご…ごめんなさい!怪我は、してませんか?」
「………………」
その人は、無言だったけれど、私のせいで何処か怪我をしてしまったのかもしれないと思い、もう一度尋ねると……
「あの、大丈夫…でしたか?すみません、前を見ていなくて…」
離れて、様子を見ようとしたけれど…腕を捕まれ…
「……見つけました…勇者…ルル…」
「!?」
腕を振り解こうとしたけれど、強い力で捕まれ、私の事を知っているこの人を見た。
フードは被っているけれど…懐から、水晶のような物を取り出して……
「…では、一度…国に、戻りましょう…国王様もお待ちしております…」
「いや…!帰りません!!私は、もうっ!勇者じゃない!!離して!!」
勇者の鎧を着ていれば、振り解けたのに、着ていなければただの非力な村娘なのは、分かっていたけれど…此処まで何も出来ないことに、悔しくなった。そして、抵抗虚しく、水晶が光る直前……
「ルル!!!」
ハッとして、声の方を向けばラースさんが駆け寄って来てくれたけれど…
「ラースさん……!!」
私と、ラースさんの手はすんでの所で、掴めなかった……。
そして、私は自国に連れ戻された……。目の前には腕を掴んでいる彼と、私……そして、目の前にはあの日以来の国王様がいた…。
国王様は、玉座に座ったまま、私を見ていた。そして、腕を掴んでいた彼は、離すと跪いたけれど私は、そのまま国王様を見た。
周りの人達は、眉を顰めたり、私の事を悪く言っていたけれど、そんな事は気にしなかった。
「……久しいな…勇者よ…」
「…………」
国王様の言葉に、敢えて黙って聞いた。
「…さて、勇者よ…魔王は、その様子では倒したのか?」
分かっていて言っているこの人を黙って見ている私に、
「例え、勇者といえど…国王様相手に無礼にも程があろう!」
大臣の言葉なんて聞こえていないように、私は言った。
「いいえ、魔王は…倒していません。倒す必要性すらない」
はっきりと国王様に言うと、国王様は何故だ?と言った。
「…私は、魔王と戦って、負けました…」
周りはざわめいていた。
「…でも、魔王は私の命を救ってくれた。自身の命を狙った私を…そして、魔王の元で暮らして、ある日気がつきました。城の街では、皆が種族を気にすることもない国でした。平和で、皆が笑っていられる、平和な国…そんな国の王を、私は倒せません。」
「………」
「何故、国王様は魔王を倒せと命令したのですか?魔王は、恐怖を人々に与える者と言っていましたよね?でも、実際は逆でした。恐怖所か、人々に笑顔と幸せを与えていました。…何故?」
私の質問に、国王様は黙って目を閉じた後……
「…勇者が、乱心した!!皆の者!!勇者は魔王に操られているようだ!!」
国王様の声に、兵士の人達は、私に槍や剣を向けてきた。
「心苦しいが…勇者は見たところ、手遅れのようだ…魔王に操られた勇者は、殺さねばならない…」
国王様は、そう言いながら私に近づいてきた。そして、身動きのとれない私にこう言った。
「……何故、魔王を倒せと言ったのか…それはな、私のためだ…私の国のために、魔王には死んで貰わないとならない…魔王を倒した暁には、私があの国の王となり、我が国の領地にするためだ…そして、あの国のすべてを手に入れ、私が世界の王となるための礎になって貰うためだ…勇者など、所詮はそのための道具だ…残念だ、魔王を倒せば、村に返してやったものを……」
その言葉に、私は怒りで叫んだ。
「貴方は!貴方は、最初から私を村に戻す気などなかったのでしょう?!!」
「……村には、帰すつもりだったさ……物言わぬ人としてな……」
つまり、私に利用がなくなれば、例えあの時魔王を倒しても、勇者の私を殺す気だったと言うこと…
その事に、私はいつの間にか涙を流して、言った。
「貴方はっ…貴方の方が!人々に、恐怖を与える人だ!!」
「はっ…さて、では、勇者よ…死んで貰おうか…何、貴様が死んでも、新たな勇者が出てくる…安心したまえ…」
そして、取り押さえられた私は、一人の兵士の剣が大きく掲げ、
「さらばだ、勇者よ……では、やれ!」
冷酷な王の命令で、首を落とされる事を悟ったけれど、最期までこの国の王を睨み付けた。
そして、兵士の剣の一撃が私の首に向かって首を振り下ろされる……
直前
「うわ!!!」
私を掴んでいた兵士と、私の首を切り落とそうとした兵士が、後ろに投げ飛ばされるように、倒れ、持っていた剣は明後日の方に行ってしまった。
でも、私が驚いたのは、それだけじゃなかった……
黒い装いだけど、凛とした佇まいの背中
黒い髪に、自分の背と同じぐらいの大剣
そして、私よりも少し年が上の、少年……
「ギリギリだけど…間に合ったみたいだな!!」
そして、その明るさと太陽のような声は……
「ラース……さん……」
優しくて、暖かい…誰にも愛される、魔王…ラースさんだった。
「ルル…ごめんな…遅くなって…無事で良かった…」
心配そうに振り向いた、ラースさんに私は、安堵の涙を少し流した。それを見たラースさんは、まるで私を庇うために前に出てくれた。
「…さて、お前等が、ルルの国の連中か…それで何処か偉そうなお前が、王?」
声は、いつもより低く、そしてとても怒っている感じだった。
「……で、なんでこの国の奴らは、勇者だったルルをわざわざ連れ去って、挙げ句の果てには殺そうしたわけ?」
突然の登場に、周りが何も言えないことに、構わずラースさんは全てに問いかけるように言った。
「…何も言わないって事は、それだけヤバいって事なんだよな?なあ、そこの腑抜けの王様」
国王は、バカにした言葉を言われて顔を赤く染まらせた、
「…兵よ!!魔王だ!!魔王ラースだ!!倒せ!!倒したものは、褒美を与える!!」
叫ぶ、国王の命令で兵士達は一斉にラースさんに向かって来たけれど…
「……甘い!!」
大剣を、まるで身軽に使いこなして、兵士達を次々と倒してしまった。そして、
ラースさんは、向かってきた兵士を全て、地に伏せさせてしまった。そして、国王はラースさんを怯えた目で見ていた。
「何故!倒せぬのだ…!」
怯えた国王を見て、ラースさんは言った。
「さてと…片付いたな…で、なんでルルを攫って、殺そうとしたんだ?俺が聞きたいのはそれだけだ。」
その言葉に、国王は言った。
「この小娘に、使い道がまだあったからこそ、連れ戻したんだ!だが、この小娘はどうやら、既に役に立たない、ガラクタ以下に成り下がった!だから、処分しようとした!それのなにが悪い!?」
その言葉に、私は、この人は人を物としてしか…駒としてしか見ていないことを哀れに感じた…。
「…ま、お前はどっちにしろ、王の器じゃないな…お前みたいな、強欲すぎる奴は、今に滅びる……覚悟しておくんだな…後、」
「ひっ……!」
「……ルルを、ガラクタ呼ばわりするな…何も出来ずに、ただ、いいとこ取りをしようとする獣が、ルルを貶める資格なんざないんだよ……この、ボンクラ王が……」
大剣を国王の首に当てて、抑えた声で…だけど、怒りを全身に纏わせたラースさんは、そう言って脅すように言った。
その姿は、魔王の風格だった。周りにいた殆どの人が、怯えと恐ろしさで震えて、国王は、顔をひきつらせながら、ラースさんを見ていた。
暫く、睨み付けを終えると、国王は腰を抜かして、体を震わせていた。
私も、先程のラースさんを怖く思ったけど、目の前に来たラースさんは私を、横に抱き上げてくれて…
「じゃあ、ルル…帰ろうな」
いつものように、優しく言ってそのまま、この国の城を後にした……。
ラースさんは、私が浚われた時、直ぐに転移魔法を使って貰い、私の元に飛ばしてくれたらしい。
でも、少し妨害されたらしく、私がいた位置から少しずれてしまったらしい。
でも、城内だったから、なんとか私の位置を探して見つけてくれた…。
そしたら、間一髪の所を助けてくれたとのことだった。
すっかり、夜も深くなり…ラースさんは、誰かに連絡した後、隠れるように私達は木の上にいた。
見つからないように、結界を張ってくれて暫くこうして側にいた。
「……間に合って、見つけられて良かった…無事で良かった…」
安心したように、ラースさんは私に言った。私は、
「ごめんなさい、迷惑をかけて…」
「ルルが悪いんじゃない、攫ったアイツ等が悪いんだ」
そう言って、頭を撫でてくれた。私は、
「でも…私、ラースさんに…」
「だから、迷惑じゃないって!それ以上は、禁止だ」
穏やかに言う、ラースさんに私は、涙が出てきたけれど、
「ごめんなさい…それから、ありがとう、ございました…」
お礼を言った、私の頭をずっと撫でてくれていた…。
そうして、暫くして泣き止んだ私は、ラースさんにあることを聞いた。
「ところで、ラースさん…ニルコンさんは?転移魔法で来たのなら、ニルコンさんも一緒ではないのですか?」
ラースさんの傍にいつもいる、ニルコンさんがラースさんを一人で行かせる訳ないと思い、質問するとラースさんは、少し気まずげに言った。
「えーっと…ニルコンは…置いてきた…」
「え?」
その言葉に、私は思わず聞き返してしまった。
「いや、ニルコンに実は黙って…て言うか、ルルが攫われて慌てたから、ニルコンに何も言わずに来たんだ…」
「あの…ラースさん……」
「…うん…戻ったら、説教だな…ま、仕方ないな。ルルの命とニルコンの長い説教なら、ルルの命を俺はとるよ」
そういって、いつものようにやんちゃな男の子を思わせる笑顔を見せて、言った。
「じゃ、行くか!!」
「何処に、行くんですか?」
ラースさんに、木の上から抱えられて降ろして貰った。そして、ラースさんの言葉に首を傾けて、
「とりあえず、…目的地まで行ったら、魔王城に直ぐに帰還できるところまで。ちょっと、旅になるけど…」
「旅、ですか?」
転移魔法は、大掛かりで複雑だから人一人を転移させたら、転移魔法が使えるまでに、三日間掛かる。それは私もあの国で教えて貰った。だけど、彼の言葉に私はまた、問い掛けた。
「そ、旅。此処の国で三日間待つのは、危険だしさ……それまで俺と目的地の所なら、安全だから其処まで、二人で一緒に旅しよう」
なんてことはなく、言った彼は間を置いて、私をしっかり見て手を伸ばしてくれた。
「ルル、一人旅は怖くて辛くて心細いって言ってたよな?勿論、二人になったところで、怖いのも辛いのもあるかもしれない…でも、俺がいるから…心細くはないと思う。だから、行こう」
真っ直ぐ私を見て話す彼は、月に照らされて…優しく微笑んでいるのが分かった。
私は、そんな彼の手を握り締めて…
「はい…ラースさん短いですが、旅の道中、どうかよろしくお願いします」
ラースさんの言うとおり、怖いけれど…二人なら…きっと、一人で旅をしていた頃よりも、怖さや辛さとは、違うモノがあると、思った。
手を取った後、歩くときに…ラースさんから頂いた髪飾りが、揺れた。
こうして、ラースさんと私の、目的地までの旅が始まった。
一人じゃない、今度は誰かが傍にいる旅に、少しだけの不安はあるけれど…それ以上に
ラースさんが傍にいる安心と、そして嬉しさを感じた。
もう、心細くはないと思った。
そして、夜の道を…手をつないで二人だけで歩いたのだった。
色々と突っ込みどころもあると思いますが、なにぶん、久しぶりの投稿なので、ご容赦を……(;´Д`)
とりあえず、個人的に甘酸っぱさを意識しました。(*´∀`*)
登場人物紹介
ルル
元勇者。歳は15歳くらい。肩まで長い茶色の髪に、青い瞳。性格は、優しく、大人しい。
ラース
現魔王。歳は16くらい。癖っ毛のある黒い髪に、銀の目。性格はやんちゃで悪戯好き。
ニルコン
ラースの側近。歳は28くらい。長い白髪に青紫の瞳。性格は生真面目で、世話焼き。そして苦労性。
それでは