金木犀
はぁ…はぁ……
己の呼気のみが辺りに響いている。
夜の公園の灯りは、
ぼんやりと僕を照らしていた。
ベンチに腰を掛け、足元のソレを軽くつついた。
「お前がいけないんだッ」
お前が…“僕を殺した”からいけないんだ。
怒りに任せて蹴りつける、
と、生温かな液体が顔に飛び散った。
「最後まで厭な奴だな…」
家に帰ろう。元の生活に戻ろう。
そう思い、立ち上がる。
途端、丸いライトの光りが僕に突き刺さる。
自転車。
そんな、この時間に、ここに人なんて絶対来ない…
…そう、だよな。絶対なんて無い。
知っている。知っているよ。
まだ気づかれていない筈だ。
僕は歩き出した。
逃げる。いや、立ち去るだけ。
だって、悪いのは僕じゃない。
僕じゃない。絶対に僕じゃない…
公園からも、家からもどんどんと遠のいて行く。
日常から離れていく。
日常が僕から逃げていく。
不意に、“香り”が薫った。
歩みを止める。
己の汗の臭い…顔に付く鉄めいた臭い…
では無い。もっと、良い匂い。
「あ、」
金木犀か。
そう気づいた瞬間、
“何か”が僕の顔に纏わりついた。
“駄目だよぅ…逃げられやしないんだ”
「うわあああッ!」
叫び声を上げ、僕は走った。
厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ…
だって僕は、
“死んだ彼奴と同類だよ。莫迦”
……
深夜、車の前に男が飛び出し、轢かれて死んだ。
翌日、とある公園で女の死体が見つかった。
女は香水を付けていたようで、
死体からは仄かに花の匂いがしていたという。
終い。
中学時代に考えた話のアレンジです。
殆ど内容は同じかと。