一話
意識がはっきりとしない、脳細胞もまだ寝ているのだろうか。目の前に広がるのはただひたすらの闇、闇、闇。
「痛ってて・・」
腰の辺りを思い切り打ち付けたらしく、ジンジンと痛みが広がっていた。辺りを確認しようと手を伸ばそうとすると、突然パッと明かりが灯った。それは、とても眩しくてとてもじゃないが目を開けていることはできず、しばらく目をつぶっていた。
するとどこからともなく高く透き通るような声が聞こえてきた。
「ようこそ、異世界への入口へ、私の名前はラミエル。復活を待つ魂の管理者です。」
胸に手をあてそう言った。最初は光でよく見えなかったが、よく見ると綺麗な顔立ちをしている。
目はクリクリとしていて、大きく鼻も高い。外見から判断するに僕たちと同じぐらいの年齢だろうか。
「復活を待つって・・僕たちは一度死んだのか!?」
そこで、僕はカナの姿が見えないことを思い出した。周りをよく見ても姿は見当たらない。
「あ、彼女のことなら心配いらないです。今のあなたと同じように、説明されている頃でしょう。」
「そっか、ならよかった・・」
ホッと胸をなでおろし、緊張が解けた僕はその場に座り込んでしまった。
「それで、説明って?」
ラミエルの言葉の中で引っかかった言葉だ。よくよく考えてみれば、僕はまだ大した説明をまだ受けていない。。
「それについては、少々お待ちください。このグランプリの優勝者の方が来られてからになりなすので・・」
そう言われてみれば、あのなな・・七音とかいう奴もせいで今、僕ここにいるのだ。そう思うと、また怒りの感情が起こりそおうになったが、なんとか押さえ込み、しばらく彼女の到着を待った。
「そういえばさ、あの竜巻みたいなやつもお前が起こしたの?」
ふと、思い出して彼女に訪ねてみた。今時、竜巻なんて小説でも見ない。
「はい。あれは私が起こしたものです。他にも、雷を落としたりと、色々なことができますよ?」
彼女はニッコリと微笑みそういった。さっきから、彼女と少し会話を交わしているが彼女の僕に対して敬語を使ったりとやけに他人行儀なのが妙に鼻につく。天使というのは、もう少し人間に対してキツく当たるものではなかっただろうか。
「なぁ、どうしてそんなにキツ・・優しく接してくれんの?」
危うく、本音が出てしまいそうになったが、目をそらして誤魔化し尋ねた。しかし考えてみたが、そこまで優しく接されたわけでもなくないか・・?そんなことを考えていると、彼女は口を開いた。
「やっぱり、覚えていらっしゃらないんですね・・それなら準備は万端です。」
彼女は、軽く下を向きながら、悲しそうに言った。準備・・覚えてない・・僕は慌てて記憶のページを捲ったがそのようなことは思い当たらなかった。しばらく彼女の発言に頭をひねらせ、辺りをぐるぐると歩き回っていると、コツコツと甲高い足音が響いた。ラミエルも僕の方を向き微笑んでいた。彼女が「七音」らしい。遠くから、見る限り身長はそれほど高くなさそうだった。彼女をじっと眺めているうちに、体の中が熱くなってくるのを感じた。今までほとんど出会ったことのない、自分たちを上回るゲーマーに会えるという興奮と、二番手にクリアした自分たちを巻き込んで行われるゲームに対する恐怖。それらの感情が体のなかで暴れまわっているみたいだ。呼吸が早くなり、手が震える。そして、彼女の足音がだんだん大きくなりついに「七音」の姿を捉える。この人がナンバーワンのゲーマー・・!!光の反射で顔は上手く見えないが、近くで見ると僕より身長は低いように見えた。
「今日は、来てくれてありがとう。私が、グランプリ一位のものです。」
鳥の声の様に綺麗で、でも力強い声だった。光の反射がなくなり顔を見ると、そこに立っていたのは制服姿の女子高生だった。
「・・お前が「ななおん」?」
息を呑み、目を輝かせながら聞いた。もし彼女が本当にグランプリ一位の少女ならば、自分とほとんど同い年の奴で自分より上手いゲーマーがいる。その事実に胸を高められずにはいられなかった。しばらくの沈黙が続いた。彼女の方を見ると、彼女は口を半開きにして、ポカーンとした顔でこちらを見ていた。
「おい・・なんで無視するんだよっ」
彼女があまりにも黙っているので、思わずこちらから沈黙を破ってしまった。すると彼女は体を震わせ、両手でお腹を抑えながら倒れ込んでしまった。僕は驚きのあまり、つい彼女の方に近寄ってしまっていた。すると、彼女の大きな笑い声が耳を貫いた。なんなんだよこの女・・そこから、しばらく彼女は笑い転げていた。
「なあ・・会話しよーぜー?な?」
両膝に手をつき、肩を落とし、彼女に尋ねた。すると、ようやく彼女から返答が得られた。
「ごめん・・ごめん。グランプリ二位の人が自分と同い年位っていうのが嬉しかったのと、私の名前読み間違えたのがツボにはまっちゃって。」
彼女は指で、目を擦りながら言った。涙が出るほど笑うことではないような気しかしないが、そこには触れないでおいた。
「そっか、なるどね。名前間違えてたのはごめん。それなら、お互い自己紹介から始めるっていうのはどう?」
「いいよ!私の名前はドレミね!七音と書いてドレミ。階名は七音あるでしょ?だからドレミね。高校2年生。よろしくね。」
彼女は笑顔でそう言った。七音と書いてドレミか・・さっき僕に言った感じだと、今まで名前間違えられることは少なかったみたいなんだけど、周りの人どんだけ脳トレしてたんだろう・・とそんなことはさておき僕は自己紹介を始めた。
「僕の名前はアキラ。本当はカナっていう奴と二人でゲームクリアしたんだけど・・」
「なるほど・・タッグプレーヤーなのか。」
考えるような仕草をとってしばらく七音は黙りこくった。よくよく考えてみると、あんなに偉そうな感じで登場したのにもう砕けて話している。そこまでさっきの間違いが面白かったのだろうか。
「まぁいい、それじゃあ今からゲームの内容を説明してもらおっか。」
彼女はラミエルの方を指差した。彼女はこくりと頷き、こちらに向かってきた。
「それでは、ルール説明です。」
そう始まり彼女はゆっくりと話始めた。
「まず、あなたたちは今から異世界―ボスメメという街に飛ばされます。そこからは、あなたたちがクリアなさったゲーム「初めての勇者」と同じようにいくつかの街をまたぎ、魔王のいるところへ向かってください。魔王を倒せたらクリアです。」
・・なるほど。通常のRPGゲームなら僕たち二人は問題なくクリアできるだろう。しかし・・
「僕たちが、実際に動いてプレーしなければならないんだよな?」
息を呑み彼女に尋ねる。おおよそ、返答の答えは予想がついていたが、聞かずにはいられなかった。
「はい。もちろん実際に動いていただきます。しかし、安心してください。ボスメメという街に行くに当たって、二人の運動神経、筋力などはすべて均一な値に統一されますのでご心配は無用です。」
彼女はニッコリと微笑みそういった。すべて均一。それならば、ほとんど全員がクリアできてしまう糞ゲーになりかねないがそこはどういう風に対処しているのだろうか。
「そうです。あなた達なら、それでは差がつかないとお考えでしょう。ですが、その事は一度置いておき、ゲームの内容に戻ります。今回のゲームはあなたたち二人でプレーしていただきます。二人で協力して魔王を倒すことができたらゲームクリア。元の世界に帰れます。しかし、途中でゲームオーバーとなられますと一生をゲーム内で過ごして頂くことになりますので慎重なプレーを心がけてください。」
え・・は?ゲームオーバーなら、元の世界に帰れない・・?その言葉の重みに汗が、手の震えが止まらない・・思わず放心状態になってしまっていた。しかし、首を横に振り、意識を覚醒させなんとか平静を装う。
「それなら・・それならせめてタッグを組むのはカナがいい!初対面の奴と組んでも上手くいく気がしない・・」
目線が自然と下に、下がってしまう。いつも、どんなゲームだって二人でクリアしてきたんだ。そんな僕が彼女以外とタッグを組むなんて考えられない。
「その要望には応じられません」
彼女は淡々と言い放った。
「どうして!?」
ラミエルにすがりつき、必死に頼み込む。しかし彼女の顔色は変化せず言葉が続けられた。
「あなたの幼馴染のカナさんには魔王になった頂くためです。」
は・・?カナがマオウ?・・マオウってあの魔王か・・?
「あなた達は魔王となった、カナさんを救うためにクリアしてもらう必要があります。そのために、異世界に行くに当たり、一人ずつに特別な力を授けております。この力こそが、差をつけるためのものです。」
突然の事態に何も言い返せなかった僕の代わりに七音が口を開いた。
「・・特別な力って?」
「それについては、お答えすることはできません。自分自身でなにを与えられたのか、見つけ出してください。」
七音の笑い声が聞こえた。僕もようやく状況が飲み込めてきた。そろそろ立ち直らなければ・・
「分かったわ。それなら早速異世界に飛ばして頂戴。さっきから、ゲーマーの血が騒いでしょうがないの・・
彼女は目を大きく開き、手にも力が入っているのか固く握られていた。
「了解しました。なお、ボスメメに渡る際、このゲームに関する記憶以外はすべて削除されますのでご気を付けください。」
彼女は両腕を大きく開き、天使らしく上空にゆっくりとっ飛び上がっりながら言った。
「それでは、いってらっしゃいませ!」
その言葉と同時に、僕たちの周りにまたもや大きな竜巻が巻き起こり、僕たちを飲み込んだー
こんにちは!うちだあかねです!
「幼馴染が魔王になっちゃった!?」一話を読んでいただきありがとうございます!
まだまだ、未熟者ですので感想、指摘などよろしくお願いします!
次話の掲載は9月20日の予定です!
*なお、この作品はカクヨムにも掲載しています。 うちだあかね