やっぱり貴族はどこの世界でも横暴でした
アリスの友達であるあの人は、次話に登場します
あと今回より新しく、タグにご都合主義が参戦することになりました!
差し出された手を見る。
決して油断していい相手ではないと直感が言っている。しかし、俺とどこか似ている気もする。
敵というより、味方や同類といった感じがした。
不思議な奴、それがレオを見た俺の最初の感想だった。
ルームメイトであるレオと握手を交わし、私物をあらかた整理し終えるころにはすっかり陽は落ちていた。そのころには相手を呼び捨てにできるくらい仲良くなっていた。
リビングにある自前のソファに座り疲れた体を癒していると、風呂を掃除し終えたレオが手を腹に当て隣に座ってきた。
「イサ~飯食いに行こうぜ~」
「いいぞ~でも学食空いてないぞ~」
「そこは大丈夫だ~俺の知り合いが町にある店予約しておいてくれたらしい~たぶん今も待ってるはずだ~」
「そっか~じゃあ準備するか~」
全くと言っていいほどのやる気のなさ。当然だ、リビングからキッチン、自室、風呂を二人だけで掃除したのだから。今はこうしてふかふかのソファで癒されていたい。
それから三十分後、とある店で怒り狂う少女のことなど露知らず、談笑しながら部屋を出ていく二人の少年がいた。既に約束の時間に二時間も遅刻していた。
「おーここ、ここ」
「………なにかの間違いだろレオ。ここは俺たち平民が来ていい場所じゃないぞ」
立ち止まり、レオが指さした店は上品なセレブ達が通いそうな高級感あふれる店だった。かなりの賑わいを見せており場違い感がハンパではない。身なりとかもろもろ……あとなんか笑われてるし。
「イサよ、それは俺もわからんではない……やっぱ帰るか」
「いやいや、お前の友達はどうするんだよ?」
「あいつはほっといても大丈夫だ。……たぶん。今回はちゃんとした理由があるし~。さ、帰りに屋台でも寄りながら帰ろうぜ~」
そういい、来た道を帰ろうとするレオを止めようとしたその時だった。
その声は、さっきまで騒がしかったその場を黙らせるだけの殺気を含んでいた。
「どこへ帰るのかしら? 天国?それとも地獄?ねぇ、レ・オ?」
その声に勢いよく振り向き青ざめるレオ。まるで死を悟ったかのような……。
ゆっくりとこちらに歩いてくる少女の顔は笑ってこそいたが、その顔は怒りで染まっていた。
五分後……。そこにいたのは、生死を彷徨うレオとそれを光のない目で見下ろす美少女……………と五分間に渡って行われた制裁を傍観に徹しまったが故に、何とも言えない表情になってしまった俺、というなんともシュールな光景だった。
「これだから男は…………。なんで約束の時間も守れないの?ねぇなんとか言ったらどうなのレオ?」
「………すみません…でした」
この言葉を聞くのは何度目だろう。もう一時間は言い合っている気がする。
場所は先ほどの店の中。今何をしているかというと、レオは知り合いであろう美少女に言葉攻めにあっている。いや、正しくは説教されている。
俺はというと、そんな二人の痴話喧嘩せいで集まる視線に居心地の悪さを感じ、早くも撤退の算段を立てていた。
来店から三十分経過
「昔から約束をまともに守ったことなんてなかったけど、そろそろ卒業してもいいと思うんだけど?そこらへんはどうなの?」
「…はい。すみません」
「(まずはどう逃げるかだな。トイレ、用事………いまいちパッとしないな)」
来店から一時間経過
「だいたい、こんな可愛い彼女を二時間も待たせるなんてどういうことなの?ちゃんとした理由があるのよね?彼女を二時間も待たせられるような理由が」
「え、いや部屋の掃除が…「部屋?私より部屋ほうが大事なの?」……いえ、すみません」
「(よし、大まかな撤退プランは完成したな。細かいところは臨機応変に………)」
来店から一時間半経過
「そんなんだから何時までたっても婚約すら認めて貰えないのよ!」
「え?おじさんは婚約認めてくれてるじゃ…「なに?」………はい、すいません」
「……………」
来店からニ時間経過
コノバカドモ、ドウシテクレヨウカシラ~ン?
もういいだろう?俺は良く頑張ったと思う。ただ晩御飯を食べに来ただけなのに、目の前で繰り広げられる痴話喧嘩に二時間も付き合ったのだ。多少の怒りくらい許容されるべきだ。
時刻はすでに十時を回っており、あんなにも賑わっていた店内はもう数えるくらいしか人がいない。
「そんなんだと私、新しい彼氏作りますから!それでもいいんですね?」
「作る気なんか毛ほども無いくせn……「なに?」これから精一杯頑張らせていただきます!」
「………もう帰っていい?」
もうプランとか知らん、さっさと帰らせてくれ。
まだまだ続きそうな二人の喧嘩に、俺は頭を抱えるのだった。
「………先ほどは申し訳ありませんでした」
「……流石に長い。あと、敬語はなくていいよ、俺は平民だから」
頭を下げる美少女、いつもなら女性に頭を下げさせるなど間違ってもさせないが今回は別だ。
あの後、ラストオーダーの時間まで説教は続き、結局何も食べることなく帰宅となった。晩御飯抜きは流石にきついので夜もやってる酒場でいろいろ調達し、寮の部屋で食べることになった。
寮には何人かの気配があった。おそらく部屋の下見に来たのだろう。
「そうだそうだ~三時間は長s…「あんたは黙ってなさい!」…ガハッッ!」
元はと言えばお前のせいだ。その思いを込め、俺も一発殴ることにする。
「いたっ!なんでお前も殴るんだよイサ!」
「遅刻したお前が悪い、ってそんなことより……「そんなことってなんだ!」……あなたは誰です?平民であるはずのレオの婚約者にしてはおかしな点が多すぎる。身なりもそうですけど、あんな高価な店を予約するなんて平民じゃ無理でしょう?」
身なりだが、合格発表に来ていた外面貴族のような派手な格好ではではないが、俺やレオが来ている無字の服と比べると細かな刺繍など、平民が買えるような服ではないことは一目瞭然だった。
「そういえばまだ自己紹介してなっかたわね。私は、アリス・ガラハッド。今年度の新入生次席よ!」
いや、そんな次席のところを強調されても………あと、次席とか金の花じゃん、知り合いになったら間違いなく他の貴族に絡まれるやん、もう関わりたくないわ。
…………ん?ガラハッド?なんかの本で読んだな。確か、王家を支える五大貴族と呼ばれ、その中で最も武力に長けた家がそんな家名だった…………
「まさか、ガラハッドってあの五大貴族とかって呼ばれてるガラハッド………なの?」
「そ、あのガラハッドよ!他にガラハッドなんて家名あるわけないじゃない」
………
………………
…………………………
『平穏な学園生活がログアウトしました』
「もう、好きにシテクレタマエヨ」
「なんで死んだ魚みたいな目してるのよ。他の貴族なら涙しながら握手を求めてくるわよ?でも、好きにしていいのよね?じゃあ…………」
「私の家で傭兵として働かない?」
一瞬、このお嬢様がなにを言ったのか分からなかった。
平民である俺を雇ってもメリットは少ない、いやデメリットしかない。それに加え、ガラハッド家のような大貴族ともなると平民を雇ったというだけで家名に傷が付きかねない。
「………なんでまたそんな利益にもならないことを?」
「あなたがそれを言うの?まあいいわ、あなた実技試験でルティ先生に勝っちゃったでしょ?」
「ああ、勝っちゃったけど………なんかまずかったのか?」
やっぱり分かってなかったか~、と額に手を当て大きくため息を吐くお嬢様、その隣ではレオが悲しい者を見るような目でこちらを見ていた。………どうやらなにかやらかしたようだ。
「いい?これまでに学園の実技試験で試験管に勝利した新入生は何人いた?」
「え?確か三にn…………あ」
「わかった?新入生が試験官に勝つのは何百年と伝統ある学院でも三人しか成しえなかった偉業よ。しかもそれを成し遂げたのが平民で相手があのルティ先生だもん、聞いたときはびっくりしたわよ」
確かにやらかした。よく考えれば、惜しくも一歩及ばなかった、くらいにすればよかったのだ。
だが、なぜルティ先生に勝てたからなのだろうか。正直なところそこまで強くなかったし、昔の俺でもなんとかなる気がする。
「………なあ、ずっと気になってたんだが………ルティ先生ってどれくらいすごいの?」
「はあ!?ルティ先生のこと知らないなんて…あんた山で育った常識知らずの人なの?」
「山で育ったのは確かだが人並の常識は持っている………持ってるよね?」
なぜか途端に心配になった。この世界の通貨や礼儀作法、市場の相場価格などなどは、昔の家にあった本で大体知っているし読み書きもできる。常識はあるはず………
「ま、まあ常識云々は今は良いとして、ルティ先生は元っていっても二年前だけど、Aランク冒険者だったのよ?」
「Aランク!?」
ギルドで定められるランク制度はS~Fランクまであり、Cランクで一人前、Bランクで一流冒険者の仲間入りとされている。
また、BランクとAランクの間にも小さくない壁があり、それを超えられる者はこの世界に百人といないらしい。
ちなみにAランクとSランク冒険者には、決して超えることのできない壁が存在する。
「確かにやらかしたな………」
「やっと自覚できたみたいね、どう、私の家で働かない?あんな戦い方ができるならそれなりの待遇で迎えられるし、平民のあなたからしたら最高の働き口だと思うけど」
有力貴族の待遇だ、給料もかなりいいだろう。“普通の平民”なら喜んで行くだろう。
こんないい仕事場は日本にもなかった。………もちろんこの世界にもない。
『敵』
その言葉が頭に浮かんだ。頭が冷えていく感覚と同時に、周囲にばれないよう索敵魔法を展開する。
もう、対等でもなんでもない。目の前に座る二人が同級生から敵になったのだ。敵には容赦なく、これは日本にいた頃からの俺のスタンスだ。
「あんな……か。アリスが…いや、ガラハッド家が本当に欲しい物は俺じゃなくて、“平民でも勝てる戦術”だろ?それの流出が怖くて早めに声をかけた、ってところか?」
平民を懐に入れた、なんて話が広まれば貴族としての威厳を損なう恐れがある。それは統治する領民にも同じよことが言える。そんな代償を払ってでも一人の平民を迎え入れるということは、実力以外の物を確保するためと考えたほうが納得がいく。それがこの世界だ。
「あら、バレてたのね。」
なんの悪びれもなくそう答えたガラハッド家の“代理人”は、先ほどまで見せていた子供の表情がさっぱり消え、腹の底を窺うような視線をこちらに向けていた。
「で、答えを聞こうかしら。ちょっと贅沢な傭兵ライフを送るか、ガラハッド家を敵に回すか。どっちにする?」
この誘いを断ればすぐにでも“廊下でこの部屋の様子を窺っている人達”が俺を殺しにやってくるだろう。その前にどうしても聞いておかないといけないことがある。
「その前に一ついいか?」
「なにかしら?ちなみに待遇は三食おやつに小部屋付きよ」
「そこは昼寝………なんでもない。俺が聞きたいのは……二人とも、実技試験で俺が使った戦術わかったか?」
その問いにアリスはくやしそうに顔をしかめるが、レオからは予想外の言葉が出てきた。
「俺もわかんなかったぞ。てか、俺はイサをどうこうするなんて話すら聞いてないぞ?」
「……え?そうなのアリス?」
「当り前じゃない。レオになんか話したらボロしか出さないし」
「酷ぇ」
新しいやつ雇う前にレオの不遇を何とかしてやれよ。あとそろそろボロ出してくれると助かるんだけどなあ。
「まあいいや。で、二人とも分からなかったってことでいいな?…………ぷっ」
「笑うなぁぁぁ!言っとくけど家でも中途半端にしか調べられなかったからまだわからないだけで、本気だしたガラハッド家なら余裕よ!」
なるほどなるほど。家の人が中途半端といえど調べたのに分からなかった………と。
なんかいろいろ心配して損した気分だ。王家を支えるとかなんとか言っても、“その程度”なのがわかってしまった。
それなら盛大に挑発してやろう。人類の上位に位置し、国随一の武力を誇るガラハッド家にどこまで通用するかやってやろうじゃないか。
「これで質問は終わり。じゃあさっきの返事だけど………」
ソファから立ち上がり、口元に笑みを浮かべバカにしたように二人を見下ろす。
「やるんならかかってこい。返り討ちにしてやるよ」
「そう、残念だわ。じゃあさよならね。」
そういいアリスがソファから立ち上がると同時に部屋のドアと窓が突き破られ、黒で統一されたマントを羽織る六人の暗殺者もどきが俺を取り囲んだ。
次話は入学式です