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自由を愛する転生者!  作者: かっつん
8/12

入学試験(物理)とルームメイト

戦闘シーンって書くの難しい。

 会場内は異様な雰囲気に包まれていた。


 いつの間にか他の舞台で行われていた試験は終わり、教師も生徒もこちらを見ている。もちろん観客席にいた人達もだ。この中に誘拐犯がいる可能性を考え、全方位を警戒する。


 そして観客席には“いない”二人の視線には特に注意する。


 ルティ先生と俺の間には十メートルほどの距離があり、その中間には体育教師みたいな男性審判がいる。


 多数の視線の中審判が口を開く。

 

 「ルール等は知っていると思うので簡単に。今の自分ができる最大で試験に臨むこと。結界の中では怪我の代わりに魔力そのものが削られるので、思い切りやっても怪我等はしないので心配しなくていい。また実践を想定しての試験だ。どちらかが降参するか審判の俺が続行不能と判断するまで続けること。他に聞きたいことは?」

 「いえ、大丈夫です」


 では、と続ける審判から視線を外し十メートル先にいるルティ先生に集中する。しかし冷静な判断ができる臨戦態勢に入ったところで気づく。


 ここで先生倒したら、めっちゃ注目浴びるやん………と


 このままでは数々の小説の主人公のようになってしまう……と


 それだけはごめんである。なにが悲しくていろんなものに縛られなくてはいけないのだ。

 頭で何が最善でなにが悪手かを冷静に判断する。最低条件は相手に一撃も与えず負けること、合格しても問題ないくらいの実力を示すことの二つ。

 

 メチャクチャムズカシクナイ?


 いやまて。“偶然”勝ってしまったと周りに思い込ませればいい。負けたと自覚させるのは先生だけで十分だ。

 バレなきゃ犯罪じゃない。


 審判の先生が手を振り下ろすと同時に大声で一言。


 「始め!」


 その声が聞こえると同時に、全身に身体強化を施し床を蹴り、十メートルを一瞬で駆け抜けルティ先生に接近する。


 「なっ!?」


 いきなりの急接近に驚き、脳が事態の処理に追い付いてないルティ先生を見ながら二つの仕込みを完了させる。一つは右手で大きく殴る体制に入り、左手には極小の魔法弾を生成。

 そこでやっと事態の処理が追い付いたルティ先生が、大きく振りかぶられた右腕を見て回避は不可能と見るや腕をクロスし、重心を右足に置き受け流す体制に入る。


 「それを待ってましたよ」


 上手く事が運んだことに安堵しつつ、小声でつぶやきながらルティ先生の全体重の乗った右足の脛を外側から魔法弾で打ち抜く。貫通こそしないが衝撃は相当のものだ。

 結果、予想できないところからの衝撃を右足にくらい、態勢を維持できず後ろに倒れるルティ先生。それに畳みかけるように倒れたルティ先生の首ぎりぎり位置に手刀を置く。

 五秒にも満たない戦闘。しかし試す側である教師が一方的にやられるというあまりの出来事に、審判の男性が目を白黒させている。


 ルティ先生のその言葉に審判の男性が我に返る。


 「そ、そこまで!」


 男性審判の声は先ほどまで騒がしかった練武場に異様に大きく響いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 練武場二階にある観客席の一角にこの学園の制服を着た生徒が二人。


 一人は眼鏡を掛け髪を肩までに切りそろえた女性、もう一人は彼女に負けず劣らずの美貌を持つイケメンの男性である。

 下の階では女性試験管が受験生の男の子に組み敷かれている。


 「………会長、今の攻防どこまで見えました?」

 「ええ~、それを僕に聞くのかい?僕もなにがなんだかさっぱりだよ~」

 「…………」

 「わ、わかったわかったよ。だからそんなに睨まないで~」


 ごほん、と咳ばらいし“会長”と呼ばれた男は下の階にいる一人の受験生に目を向けた。


 「実際のところ、あの受験生がしたことが一体何だったのかか検討すらつかない。だが、ルティ先生ほどの手練れがあの突進だけで態勢を崩すとも思えない」

 「では、あの一瞬に受験生の彼が他になにかしたと?」

 「確かに速度はおおよそ学生が出せるものではなかったが、それでもなにかあるのは間違いない」


 その問いに苦虫をかみつぶしたような苦痛の表情を浮かべる会長。そんな姿は入学以来いつも隣にいた彼女でさえも知らない顔だった。


 「……わからない。ただルティ先生の態勢の崩れ方は、見る者が見れば不自然なのはまるわかりだ。正直悔しいよ。年下に出し抜かれるのは」

 「あなたがそこまで言いますか………。どうします“声”かけてみますか?」

 「もちろん!もしかしたら未知の“スキル持ち”かもしれないしね」

 「了解です。では、会長は書類の整理をしに戻ってください。私はあの受験者に声をかけてきます」


 といい、一階への階段を下りていく彼女をみながらこの後の書類整理にため息をつく。


 「まだ合格できるかわからないのに………ま、教師に勝っちゃったし入学は確定かな?じゃ、“副会長”に怒られる前に帰りますか」


 その一言と共に椅子から立ち上がり大きく伸びをする。


 次の瞬間には、そこにいたはずの青年はいなくなっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 


白で埋め尽くされたとある一室の円卓には、老人と老婆が向かい合って座っていた。


 「ほっほっほッほぉぉぉッッげッッッほッ!!げッほッッッッ!!おぇぇぇぇぇぇえッッッ!!」

  

 高笑いから盛大にむせ、床に手をつきモザイク処理が必要な状態の老人。


 「あんたはもうちょい自分の歳を考えな」


 そんな痴態をさらす老人に、老婆は冷ややかな視線と共に軽蔑を込めた一言。


 「あほう!あやつを見たら高笑いもしたくなるわい!あいつの孫じゃぞ!」

 

 二人の前には鏡のような物が浮いており、そこには教師を圧倒したイサが写っていた。


 「血はつながってないから最初は期待してなかったけど、流石と言うべきかねぇ。私の魔法にもちゃんと反応してたねぇ」

 

 その言葉を聞いた老人が目を細める。その眼は好奇と畏怖で染まっていた。


 「お前の魔法に気づくか……。今までこの魔法で気づかれたことあったかのぉ?」

 「この九十年間で一度だってありゃしないよ。もちろんあんたにもバレたことはないさね。私が何度あんたの浮気を未然に阻止したと思ってるんだい?」

 「…………」

 「それはもういいよ。それより私の魔法に……いや、魔法を通したあんたのことも警戒してたから“二人の視線”に気づいていた、と言うべきかねぇ。あの人の孫じゃなかったら危険過ぎてすぐにでも“始末”するつもりだったけど……ほんとに末恐ろしい子さね」


 その言葉にギョっとする老人。


 「やめとけやめとけ。あいつには二人でも勝てんじゃろうて。十歳の時にはミアを瞬殺できるくらい強かったそうじゃ。あれからもう五年も経っておる。」

 「ミアちゃんを瞬殺……それどこからの情報なんだい?」

 「他ならぬミア本人からの情報じゃ。あいつが自分から負ける、なんて言うくらいじゃ。嘘ではあるまい」


 実際、ミアが負けるとなると裏のほうもかなり騒がしくなる。それも“国”が動くレベルで……。

 そんな怪物に加え自分の“娘”も、となると今年度の他の新入生が可哀相になってくる。

 国が動く事態を想像し、未来のイサに手を合わせる老人の向かいの席では、顎に手を当てなにかを考える老婆。

 

 「敵になった時のことを考えると胃が痛くなるねぇ………でも顔は良いほう…実力は申し分ない……あとは性格か……」


 そう呟いた老婆の顔は笑ってこそいたが、その笑みは邪で染まっていた。

 その顔を見た老人は直観で悟る。これはイカン……と。


 「待て、なにを考えておる……?」

 「なぁにそんな大層なことじゃないさね。“シエル”にあの男を落として貰うだけさね」


 と、とんでもないことを言ってのけた。


 そこからは「わし以外の男にシエルはやらん!」という老人の娘を敵に回しかねない反発と「いつまでそんなこといってんだい!」という老婆の怒りが、白で埋め尽くされた一室に虚しく響き渡っていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 


 実技試験から四日後、筆記試験も無事終わり、今日が合格発表日だ。

 既に肛も……失礼。校門前にある大きなボードの周りはかなりの人で溢れ返っている。手を掲げ合格を喜ぶ者、涙しながら走り去る者などなど。

 豪勢な身なりのぼっちゃんが呆然と立ち尽くす姿もあった。おそらく自分の不合格を受け入れられないのだろう。………ざまぁ(笑)

 

 俺の番号は、合格者五百人中、四百九十七位の位置にあった。順位の横にはご丁寧にも、平民を表す印である銅の花。ちなみに中級貴族は銀の花、上級貴族や国お抱えの生徒は金の花である。

 やっぱり金の生徒は少ないなー、銀の貴族が新入生全体の七割以上占めるってどうなの?などと思いながら自分の近くの合格者の印を見ていると、最下位に位置する生徒の順位の横には、俺と同じ平民を表す印である銅の花が付いていた。


 (あれ?平民でこの学園に入学しようと思ったら結構大変なはずなんだけどな……主に金銭面で。ま、別にどうでもいいや)

  

 ちなみに俺は五年間、毎日のように受け続けた依頼の報酬を貯め続けていたため、そこらにいる貴族より持つべきものは持っている。あえてなにがとは言わないが。

 

 合格発表が落ち着いてくると、本校舎がある方から教員数十名ほどが辞書のように厚い本を持って現れた。その中には実技試験でお世話になったルティ先生や、審判の男性教師もいた。


 「合格者の皆さんは、実技試験で担当になった教師の前に並んでください」


 と先頭にいた教師が大声で呼びかける。あり得ないくらいに“反響”して。

 その声を聴いた新入生達は、ぞろぞろと各教師の前に並び始める。俺もそれにならいルティ先生の列の最後に並ぶ。どうやらなにかを渡されているらしく、すれ違う生徒はみな自分の持つ手提げ袋をチラチラ見ては笑顔になりな、歩いていく。


 数十分後、やっと俺の番が来た。後ろには生徒がいない、どうやら俺はルティ先生の列で一番最後まで残った者のようだ。


 「合格おめでとうございます、イサ君」

 「ありがとうございます、ルティ先生」


 にっこりとほほ笑むルティ先生に礼を言い頭を下げる。隣では、男性教師がルティ先生のほほ笑む姿に顔を赤くし体をくねくねさせていた。正直きm……。


 「とりあえず配布物から渡しますね」

 

 隣からの視線を完全に無視し、ルティ先生はストレージから白と緑を基調とした制服の上下と、小さな手帳を取り出し手渡してきた。


 「制服は明後日の入学式に着て来てください。こっちの手帳は生徒手帳です。図書室や練習室の使用許可を取るときに必要なのでくれぐれも無くさないように。」

 

 その言葉に頷き、制服と生徒手帳を自分のストレージに収納する。隣のいた男性教師は、目を見開き唖然としている。特にすごいことはしてないはずだが。


 「やっぱり使えたんですね、ストレージ」

 「ええ、便利ですし習得するまでにそこまで時間かからないと言われたので。…………どうしました?」


 露骨に嫌な顔をするルティ先生。実際、じいちゃん曰く『無属性すら使えんような奴が、属性魔法など使えるわけがない』らしい。


 「………なんでもありません。…………少しあなたのカリキュラムを変更しないといけませんね」


 カリキュラムから後の言葉が聞こえなかったが、少し不貞腐れた顔になったルティ先生を見ることができたので気にしないことにした。


 「それと寮ですが、二人部屋になりましたが大丈夫ですか?」

 「偉そうな貴族とか、見下してくる偉そうな貴族とか、いちいち絡んでくる偉そうな貴族とかじゃなかったら大丈夫ですよ」

 「…………取り合えずルームメイトは“イサ君と同じ平民”なので心配いりませよ」

 「貴族じゃないなら大丈夫です」

 「とことん嫌いますね……」


 当り前だ~。なにを好き好んであんな自己中どもと付き合わねばならんのだ。俺は空気になると決めたのだ。俺を数々の主人公達のような優男だと思うなよ~。


 その後、寮生活における簡単な注意と部屋の鍵を貰い、本校舎から見て西にある寮へと向かった。

 寮のルールは意外にもそこまで厳しくなかった。

 

 一つ、寮内での戦闘禁止。

 二つ、割り当てられた部屋の交換禁止。ただし両者の同意と、担任教師の許可があれば交換してもよい。

 三つ、故意、事故問わず部屋の窓や扉の破壊は、自己負担で修繕すること。故意に破壊され明確な犯人がいる場合は破壊したものが修繕する。


 たったこれだけだった。もっと〇〇時起床!遅れたら罰則!みたいな感じを想像していた俺はすこしほっとしていた。おまけに寮には学食まであり、朝から晩まで学食が空いている時間ならいつでも使用可能らしい。

 また、寮には管理人は一人存在せずなにからなにまで自分でしなければならない。あ、お金持ちの貴族は使用人を連れてくることも可能だとか。


 と、ルティ先生に聞いた注意事項をおさらいし終えるころには寮に着いた。

 俺の新しい生活拠点となる寮の部屋は、A棟の当たり部屋とも言える他の部屋よりすこし大きい一番端の部屋だった。ちなみに寮はA~Dまであり、今年の新入生は全員A棟である。それを卒業までの三年間で使用する。

 

 寮のエントランスには人がいなかった。それも当然と言えば当然である。合格の報告や、明後日の入学式までに生活用品などをそろえる必要がある。当然、俺はストレージに全部詰め込んでいるが。

 しかし、誰もいないであろう寮に一人の気配を感じた。しかもその気配は俺の部屋にあった。


 (ルームメイトかな?確か平民だったよな?なら、真っ先に合格を親に知らせに帰ると思うんだけど………)


 自室のある三階に上がるため階段を上る。

 自室と思われる部屋の前で、ルティ先生に渡されたカギと部屋の木製プレートに彫られたナンバーを確認する。間違ってはない。

 大きく息を吸ってドアを開ける。


 そこにはこちらを背にし、佇む一人の男がいた。その男からは歴戦の、それも英雄と呼ばれてもおかしくない、なにかを感じた。


 その男は振り返り……


 「おっ?お前が俺のルームメイトか?俺はレオ、三年間よろしくな!」


 と、笑顔で手を差し出してきた。




次回はあの人と、その友達が出てきます

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