チートの片鱗
登場人物の名前がなかなか思いつかない……。
この世界には20歳までに2回の魔力成長期間がある。1回目は10歳、2回目が15歳である。
魔力成長期間とは、体内にある魔力が爆発的に増え、身体がそれになれるためになにかしらの異状が発生する。保有する魔力が大きいほど症状は大きく酷いものになり、症状は早くても1週間は続く。また、その魔力成長は、保有する魔力量の倍近くまで膨れ上がる。
その1回目の成長期間をイサはわずか5歳で発現させた。
-じいちゃんside-
イサが1回目の成長期間を迎え、額に大量の汗を流しながら苦しんでいる様子を、ベッドの横に置いた椅子に座り頭を抱えていた。
この子はいったいなんなのじゃ………
本来であれば10歳になってから始まる成長が5歳の子供に発現。あまりにも早すぎる成長にそれと同時に魔力測定器で測ってみたところありえない数値を叩き出した。
200万……………
数値がでた瞬間にまずはこの測定器の故障を疑った。自分の魔力量を測定したところでそれが故障ではなく事実だということに呆然とした。
これだけの魔力があれば、あの一撃も納得できるのぉ……
魔法は個人の保有する魔力量で一撃一撃の強さが変わってくる。それは属性魔法はもちろんのこと、無属性魔法も個人の魔力量で威力が変化する。
雷帝の称号を持つファルトも、そこらへんの2級冒険者などとは比べものにならない魔力を持っているが、イサはそれ以上だった。
わしでさえ120万、それなのに、この子にはもう一回魔力成長があるんじゃぞ……しかもまだ5歳じゃ。これからも魔力成長以外でも魔力量が増えていくじゃろう………。
未来のイサを想像して額に手を当てるが、その口は笑っていた。
この子はわしの孫じゃ、『捨て子』であっても血のつながりがなくてもじゃ…………さてこれから少し忙しくなるのぉ、じゃが孫のためじゃ。久しぶりに会いにいってみるかのぉ。
孫の未来を壊させないために一肌脱ぐ覚悟を決め、いまだ苦しそうにベッド眠るイサを撫で、部屋を出ようとすると玄関のほうから扉をたたく音が聞こえてきた。
誰じゃろう…。ここの場所を知っとる奴なんぞ数えるくらいしかおらんはずじゃが……
こんな山奥に尋ねに来そうなやつらを思い出しながら一階に降り、玄関を開けると、そこにはファルトより少し小さい赤髪の50歳くらいの男がいた。
「お久しぶりです、老師」
赤いマントに金で装飾された一見して高そうなマントを着た男は笑みを浮かべながら片手を差し出してきた。その笑みはなにか安心したような笑みだった。
「………………なにようじゃ、『炎帝』ナダロス・フラム」
そう呟いたファルトの顔はさっさと帰ってくれオーラで溢れていた。差し出された手をはたいてやると炎帝もといナダロスは残念そうな顔になり手を引っ込めた。
「そう邪見にしないでくださいよ」
「……………それで『国王』がこんな山奥になんのようじゃ?」
あえて国王の部分を強調し話を戻そうとするとナダロスは真剣な顔になり話を続けた。その一言に目を見開いた。
「『光帝』クララ・ブレスクがお亡くなりになりました」
「なっ!?それは本当か!?」
クララ・ブレスクはファルトと同じ年齢だ。だが自分がこんなにピンピンしてるのにクララが先に逝ったのにはわけがあると踏んだファルトは、ナダロスに顔を近づける。
「誰がやった?」
言葉に少し殺気を乗せ問う。
「寿命…だそうです。お亡くなりになる先日までは元気に食事をし、唯一の弟子と鍛錬に励んでいたそうです。」
呟くように発せられた言葉が、重くのしかかる。
寿命、か。それならばナダロスが家に来たことも頷ける。じゃがそれならと話しを変える。
「ならわしは何時死んでもおかしくないわけじゃな」
「縁起でもないことをおっしゃらないでください」
「わかっておる、そう簡単にはくたばらんよ。じゃがもしもの時は……わしの孫を頼むぞ。」
瞬間、ナダロスの顔が驚愕に染まった。
「孫ですか………?」
「もちろん血のつながりはないがの。じゃが赤子の時から育てた、わしの大切な孫じゃ」
「……………捨て子ですか?」
「うむ、名前はイサ。捨て子じゃが才能がある。わしらをも圧倒できるような才能じゃ。当然、貴族やらの手が伸びてこよう、それをできる限りでかまわん、助けてやってくれんか?もちろん一人でも生きていけるようにはするつもりじゃ」
「それくらいなら構いませんが…………老師は………いえ、最後に顔が見れて嬉しかったです。そろそろ帰らないと妻に怒られそうなので今日はこれでお暇します」
そういってなにかを考えながら席を立ち、玄関のほうに向かって歩いていくナダロス、その姿を黙ったまま見送った。
ナダロスの気配が家周辺から消えたところで大きく息を吐き椅子に背中を預ける。
「寿命のことくらいわしが一番わかっとるわい。………それにしてもタイミングが良すぎるのぉ。まるであの子を中心に世界が動いてるようじゃ」
会いに行こうと思ってた相手がわざわざ来てくれたのは予測できんかったが、結果的には王族の協力を得ることができるやもしれん。これはかなり大きい。
「わしももって6年じゃろうなぁ。」
じゃがあの子なら6年も経たないうちに自分を超える、その確信がなぜかあった。なんせ体術だけならすでに、自分をこえているのだから。
「あの子には自由でいてほしいからのぉ。昔のわしみたく『利用される』のは我慢ならん」
さて、症状が治まったらどんな訓練をさせようか?と悩みつつ暗くなりつつある外を眺め、蠟燭に火を灯すのであった。
次回はかなり飛びます