入学式
約2か月半ぶりの投稿です!
更新待っていてくれた方はお待たせしました!
入学試験合格発表とイサの暗殺計画失敗から早二日、入学式当日。イサは学生寮に訪れていた。
本来ならば、学生寮ではなく式場である練武場に向かうところだが、自分の部屋にこの学園の生徒であることを証明する生徒手帳を置き忘れてしまったからだ。
そのためいつもより早く起き、清々しい気分で町を歩きながら学生としての楽しみをあれやこれやと考えながら学生寮に向かった。
そう、ここまではよかった。もう一度言おう、ここまでは本当に良かったのだ。
学生寮の三階にある自分の部屋のドアが見えてくると、そこには学生服に身を包んだ少年と少女があたかもイサがこの部屋に来るのがわかっていたかのように、壁に背を預け佇んでいた。
そしてイサが二人の顔を視認できる位置までくると、二人も待ってましたと言わんばかりにニヤニヤしながら壁から背を離しイサに向き合う。
「ドヤ顔してるとこ悪いけど、牢屋にいるはずの二人が俺の部屋の前でなにしてんの?」
イサを部屋の前で待っていたのは、独房生活を強いられているはずの新入生次席であるアリスと、その婚約者レオであった。
そんなドヤ顔にイサがこめかみをヒクつかせると、二人は声を合わせて……
「「遅い!」」
と開口一番に謝るでもなく、挨拶でもなく“罵倒”を口にした。
イサの中にあるなにかが切れた。
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「いくら自分の命を狙った相手だからって、か弱い女の子に手を上げるなんて…この外道!」
「そうだそうだー!アリスの言う通りだ!暴力反対!今すぐ謝r……ちょッ!絞まってるッッ絞まってるからッッ!!?それ以上絞めたらぁぁぁぁぁあッッッッ!!」
はて?屈指の名門校であるこの学園に次席として入学し、家の力で平民一人を“従わない”を理由に暗殺者六人を差し向け殺そうとしてきた女の子は、はたしてか弱いのだろうか?否であろう?そしてレオに関して言えばそもそも女性ですらないので論外だ。
「なんとでも言え。それよりなんでここにいる?…………だんまりか?早く喋らないと頭に新しいたんこぶが増えるぞ?」
「ひぃッッ!来るなぁぁこの外道!鬼畜!変態!強姦魔!むっつり!ロリコン!」
………プチッッ
「ああぁぁぁぁぁぁぁ頭がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ぐりぐりしないでぇぇぇぇぇぇぇぇ………!!?」
「もっと力入れて欲しいって?そうかそうか………これでどうだ?」
「いぎゃああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!?」
「イサ君よ、流石にやりすぎじゃね?」
イサの絞め技から意識を取り戻したレオが、あまりの激痛に頭を抱え、広いとは言えない廊下の端で悶える苦しむアリスを見て呟く。
「やりすぎたとも思ってないし、反省もしてない」
「うわぁ、まさに鬼畜の代弁者だなこりゃあ…………っと、そろそろ練武場に行かねぇとヤバそうだし、この前の話がどうなったかは道すがらに話すけどいいか?」
実行犯であるイサの悪びれるどころかむしろ自分が正しいと言わんばかりの態度と返答に、レオは戦慄しながらながら意識があるのかも怪しいアリスを抱え上げる。お姫様抱っこで………。
「それはいいが…………お前にはおんぶって選択肢はなかったのか?」
「あるわけないだろ、俺はアリスを抱えるときは基本はこれだ(キリッ)」
このバカップルは……いやこのバカ夫婦は、と言うべきだろう。
こんどはイサが呆れる番だった。
イサは、アリスを抱えたレオと練武場へと続く道を歩いていた。
その間、レオから聞いた学園長との話を簡潔にまとめてみるとこうだ。
学園は学ぶ場であって犯罪者ホイホイじゃないんだから牢屋なんてあるわけないじゃ~ん♪そんなことにも気づかないなんてイサ君もまだまだ子供ね~♪
でもでも~、そのままアリスちゃんとレオ君を放置するのはイサ君が怒るから~♪
私ィ~いいこと考えたの~♪
いっそのこと~“この学園を牢屋にしちゃえば解決☆”みたいな~ etc………
「ふむふむ。………取り敢えず学園長は俺と一戦交えたい、とそういうことだな?」
学園長の明らかな“煽り”にこめかみをぴくぴくさせ、ふつふつと湧き出る怒りにイサは次学園長と会ったら“あの夜の痴態”を在校生に拡散することを心の中で決意する。
そんなイサの怒りを知ってか知らずか、レオは呑気に話を続ける。
「それは知らんけど……っと、あと俺とアリスは基本的に学園内では自由だけど外出許可は今のところ降りることはないんだとさ。俺とアリスにとってこの学園は、勉学とちょっと自由ができる監獄になったわけだ。」
「……………」
かなり軽ーく話をしているが、レオはともかくアリスは時代の国家を担うほどの重要人物だ。この要求にガラハッド家に加え、他の貴族が異を唱えなかったとは考えられないし、今まで令嬢として生きてきたアリスの顔を三年は見ることができないとなれば、アリスの安否云々で学園とガラハッド家でいざこざの一つや二つあったのは間違いないだろう。下手をすればそのまま帰ってこない、なんてことがあるかもしれないのだ。国家にしてみればかなり深刻な問題になったであろう。
対してイサの心情は、貴族達とは全く違い深刻でもなんでもなかった。
結局のところ、敵対さえしなければ特に問題はない、というのがイサの本音であり、アリスとレオが学園から逃げだし、反逆者として国からのお尋ね者になろうと魔法を使えば逃げ切れる確信がイサにはある。その後の食料に関しても、狩りも畑を耕やし野菜を育てることもこの十年の間にできるようになったため、生きていくことに関して言えばそこまで苦労はしないだろう。
故にイサの結論は、
(どうでもいいけど、お尋ね者になるのは勘弁だなー。それに貸しにでもすれば後々面倒ごと(課題等々)押しつけることもできそうだし………うん貸しにしよう)
考えれば考えるほど悪い顔になっていくイサの顔を、レオは訝しそうに見ていた。
そんな悪い顔になっていたイサの顔が突然素に戻る。
「待遇についてはそれでいいが、流石に俺にメリットがなさすぎる。そこで穏便に済ますために二つ条件を出す」
「条件?まあ、やったことがやったことなだけに一応聞くつもりだけど………無茶なことは勘弁してくれよ」
金?それとも地位?どんな要求をされて簡単にはも断れない立場上びくびくするレオ。
「無茶じゃない。一つ目は今回の件で俺に迷惑をかけたとういうことで、レオに三つ、アリスに六つ貸しという形で償ってもらう」
命を狙われた代償としてはあまりにも軽いそうに見える償いにびっくりするレオだが、その後に続いた貸しの差に頭を悩ませる。
「パシリくらいなら別にいいけど………なんで俺とアリスで倍の貸しになるんだ?」
「そんなの“主犯”と“巻き添え”だからに決まってるだろ」
当然だ、とでもいうようなイサの言葉になるほどと頷くレオと、レオに抱えられたままビクッと体を震わせるアリス。
「けど、それだとアリスもパシリにするってことか?こういっちゃなんだがアリスってかなり有名人だしそんなことしたらかなりの騒ぎになると思うぞ?」
「いや、アリスには金銭的な“アレ”だったり証拠の“ソレ”だったりの裏事情をしてもらうつもりだし、バレたらその分の貸しは返済してないことにするから問題ない」
「………………イサって敵には容赦ないな………ドSか?」
「どっちかっていうならSだろうな、………そういうレオはMか?」
まさか、と首を横に振るレオ。その視線は抱えられたアリスに向けられていた。
「俺もどっちかっていうならSだが、いつもはSを気取ってるこのお嬢様は“ある部屋”に入った途端Mになるぞ?」
「なッッッ!?!?!?!?」「ほう………?」
レオの言葉に顔を湯気が出そうなほど真っ赤にし、口を金魚みたいにパクパクしているアリスをイサは意味ありげに見る。
「つまり“ナニ”を、とは言わないがレオは既に卒業済み、と?」
「イサの言う“ナニ”が何のことかわからないが、この人生で三つはすでに卒業してるぞ。………たぶんイサはまだだろ?」
確かこの世界には、これから通う高等部の下に初等部と中等部と呼ばれる、元の世界でいうところの小学校と中学校があり、貴族に匿われているレオなら、そこにアリスと一緒に通い卒業した可能性は大いにありうる話だが………………しかしそれでも“一つ足りない”。
ニヤニヤしながら勝ち誇ったように答えるレオに、イサの目から光が消える。
それも仕方ないことだろう。いくら早期結婚が求められるこの世界であっても、十五にも満たない“思春期真っ只中の男女”が夜な夜な甘いひと時を過ごしているとなれば、前世を合わせ約三十年何もなかったイサからすれば完全敗北である。
「………オレ、オマエ、キライ。リア充、コロス。」
「おい待てッ!そんな殺意と憎悪で染まった目をしながらこっちに来るな!それと、なんでアリスも俺のこと睨んでんだよ!お前はこっち側だろッ!?」
ゆらゆらと光を失った目でレオに一歩一歩と近づいてくるイサと、夜のあれやこれやを暴露され顔を真っ赤にしながらレオを睨むアリスの二人に、いつの間にか挟まれたレオはその場で固まる。
後にその場には、頬に綺麗な紅葉を付け体をくの字に曲げ腹の痛みに耐えるように腕を交差する少年と、それをやり切った表情で見下ろす男女がいた。
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練武場についた俺とレオは、特に順番もなくクラスごとに並べられている椅子に座り、静かに開式を待つ中、レオを中心とした二メートル範囲内の生徒はレオの顔を見るたびに『ぷっ』『クスクス』といった感じに、堪えてる様で堪えられてない笑い声をあげる。
ちなみにアリスは違うクラスのため途中でわかれた。
「なあ、なんで俺がこんな目に合うんだ?俺、別に悪いことしてないよな……?」
「…………」
「不幸だぁぁぁぁぁぁ………」
俺のとなりの隣の席に座り、どこぞの最弱主人公みたいなことを呟くレオ。
もちろんレオが笑われている理由は、道のりで起きた暴露大会の名残でもあるレオの頬に付けられた綺麗なビンタの跡だ。
そして、そんなものを付けた男子生徒がいれば、周りの生徒に笑われるのは至極同然であって………
しかも、そんな奴が話しかけている俺にも、当然好奇の目線が集まるわけで………
「失礼ですが、あなたは誰ですか?」
俺は全力で他人のふりをすることにした。
入学式からおかしな奴とつるんでた、なんて変な噂立てられた日には、数多の主人公達のようにめんどくさい奴らに絡まれること間違いなしだろう。
そんな主人公になるくらいなら、俺とレオの関係をしっかり周りに伝えるのが一番効果的だ。
「いやいや、さっき一緒に話しながら会場入ったのみんな見てたからな?イサは他人のふりとかしないよな?俺たち友達だよな?な?」
「……………」
黙ったまま前を向く俺は、レオからしてみればただの白状なやつだろう。
こういった空気で一人になる気持ちはわからんでもないが、本来の依頼の成功と俺の暗殺を黙ってみていたやつなど天秤にかけるまでもないだろう。慈悲はない。
それからレオに話しかけられては無視を繰り返えすこと早数分後、おそらく司会者であろう眼鏡をかけた女子生徒が拡音器のような物に近づく。
「これより王立ヴィクタート魔法学園第百期生入学式を始めます」
マイクのようなものが拾った女子生徒の声が会場全体に響き渡る。その声が珍しかったのか、平民の生徒と少数ではあったが貴族の生徒が周りををキョロキョロと見回していた。
「始めに、学校長より挨拶を承ります。では学園長お願いします」
間髪入れずに続いた女子生徒の声と共にコツッ、コツッと足音を立てながらあの忌まわしきロリ学園長が舞台の真ん中に設置されているマイクに近づく。
「まず新入生の皆さん、入学おめでとう」
新入生全体を見ながら笑顔で挨拶をするロリ学園長。胡散臭さプラス50ポイント。
「この記念すべき第百回目となる入学式を開式出来たこと、大変素晴らしく思います」
大人感を無駄に出している言葉を使うロリ学園長。胡散臭さプラス50ポイント。
ここで胡散臭さポイントが百ポイントに届き、特技聞き流しを発動!
なんてバカみたいなことを頭の中で考えながら、俺はこの後の幼女の話を全て聞き流すことにした。
そしていつの間にかに特技、寝てないように見えるが実はしっかり寝ている!を発動していた。
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「おいイサ、起きろ。学園長の話終わったぞ。」
何分か何十分経ったのかはわからないが、隣から聞こえてくる小声と体を左右に揺らされる感覚に目を覚ますと、舞台の上では学園長が頭を下げ舞台から降りようとしていたところだった。
「いくら学園長の話がつまらないからって寝るなよ」
まだ半開きであろう俺の目を見て苦笑するレオ。
「だからあなた誰ですか?」
「そのネタまだ続いてたのかよ…………。あともうそのネタ飽きた」
俺の本気であなた誰ですかオーラをネタ呼ばわりし、ジト目を向けてくるレオ。意外とやりおる。
「で、なんで起こした?」
学園長の挨拶が終わったばかりならこの後にもお偉い方々の祝辞を長々と聞かされるはずだ。起こされる理由がわからない。
しかし俺への返答として帰ってきたレオに殺意を抱かざる負えなくなった。
「バカ野郎!次は新入生代表と次席のアリスが舞台に呼ばれて表彰されるんだよ!見なきゃ損だろ!」
こっちのセリフだバカ野郎!、と突っ込みたい(物理)気持ちを抑える。
どうやらこのバカは、自分の可愛い彼女の晴れ舞台を最近会ったばかりの奴にも見てもらいたいようだ。
爆ぜろリア充が!カマキリにでも生まれ変わってアリスに喰われろ!
そんなことを考えていると、開式を宣言した司会者と思わしき女子生徒の声が再び会場全体に響き渡る。
「ありがとうございました。続いて、今年度の入学試験における成績優秀者二名の紹介と表彰、並びに新入生代表挨拶を行います」
司会者の説明が終わると途端にざわざわしだす保護者達と新入生達(主に男子)。
まあ、主席様がどんな人か知らんが、アリスもなんだかんだでいいとこの令嬢だし顔もいいから多少はざわざわするのだろう。本当は頭のねじが数本飛んでるくらい何も考えてないお転婆お嬢様だが。(笑)
「では、新入生次席、アリス・ガラハッド」
名前を呼ばれたアリスが舞台袖から出てくる。
「並びに主席、シエル・グレイシア」
家名すら聞いたことのない名前だったが、アリスが呼ばれた時と違い明らかにざわざわしてるところ見ると、最初のざわざわはどうやら主席様のせいなのだろう。
そんなギャラリーの明らかな態度の違いに隣のレオは微妙な顔をしながら耐えていた。どうやらここで暴れ出すようなことにはならないくらいには理性を保っているようだ。
主席様には興味ないが、なにかの拍子に話すことになった時、主席様を知らなかったじゃ済まなさそうなので一応顔だけ確認すべく、レオから舞台に視線を移す。出来れば顔を覚える必要なんてなかったと依頼達成時に言いたい。
フラグでした。
新入生主席様は、実技試験の日に学園長室がある別館の前で痴漢容疑を立てられたかもしれない、もう絶対会いたくないと思っていたあの人だった。
しかし主席様の髪を見た途端、フラグはぽっきり折れた。
なぜなら、あの日は黒だった髪が“淡い水色”になっていたからだ。
次回は入学式終了から入ります