表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自由を愛する転生者!  作者: かっつん
10/12

甘々な考えは捨てるべきである

入学式と言ったな

あれは嘘だ



 これは、どういうことだ?



 なぜこんなことになった?



 この少年は本当に学生なのか?

 


 私は何か悪い夢でも見ているのだろうか?




 そう思わずにはいられない。

 

 目の前には床に転がる暗殺者六人と、その暗殺者六人を息一つ切らさず一撃の下に叩き伏せたイサがいた。


 最初、お父様からの任務はイサの暗殺、もといイサを油断させガラハッド家の隠密部隊がイサを始末するの見届けるだけのものだった。しかしその暗殺内容は、ガラハッド家が持つ最高の暗殺者六人全員を使うという、平民相手にはいささか出過ぎた内容だった。

 平民が貴族や騎士に勝ててしまう戦術は確かな脅威になるだろう。しかし、ただの平民がこの学園に入学するにまで至った戦術があれ一つだけとはどうしても思えなかった。

 そこで考えてしまった。一つでこれほどまでになる平民の戦術をガラハッド家で、いや人類国で独占できれば、身体能力や魔力量で劣る私たちでも魔族やエルフに勝てるのではないか……と。


 今思えば、そんなことを思いつき、勧誘などと甘いことを考えなければこんなことにならなかったのだろうか?

 いや、違う。そもそも暗殺という敵対行動自体が間違っていたのだろう。

 それ以前にこの少年が学生?身体強化魔法だけで腕利き暗殺者六人を無傷で仕留めるような化け物が?そんなもの笑い話にすらならない。

 なら、この少年は一体………



       「あなたは何者………なの?」

 

 なんとか絞り出せた震える声で、問う。その問いに、いまさら?とでも言うように少年は答える。


       「ただの平民だけど?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 足元には白目を剥き倒れる、黒装束を着た六人の暗殺者もどき。


 「これがガラハッド家の隠密部隊………?」


 正直に言おう。いくら下っ端とは言えこの暗殺者もどき達は弱すぎる。こんな奴らにビビっていた数分前の自分を殴りたい。

 六人の連携は見事の一言だったが、リーダーらしき先頭にいた暗殺者を倒した後は連携は崩れるわ、明らかな動揺で動きは鈍るわで散々な有様だった。

 

      「あなたは何者………なの?」


 暗殺者もどき六人をどうしたものかと考えていると、先ほどまでとは違い、明らかに怯えた声でアリスが聞いてくる。


 「ただの平民だけど?」


 嘘は言っていないしこう答えるしかないだろう。事実、捨て子である自分を育てたのはじいちゃんだが、血のつながりはもちろんないし養子になったわけでもない。ギルドにある俺の戸籍もちゃんと天涯孤独の平民として登録されている。

 

 「そんな訳ないじゃない!ただの平民がこんなことできるわけない!」

 「じゃあ、ギルドにでも連絡して俺が貴族か平民かどうか確かめるといい」

 「そんなのいくらでも偽装できるわよ!」


 どうやらこのお嬢様は俺を平民にしたくないらしい。なんか一周回ってめんどくさくなってきた。

 俺は平民がどうのこうのより、さっきからアリスの隣で腕を組んでるやつのほうが気になって仕方ないのだが。


 しかしさっきから思うがこのバカ(アリス)、なにか勘違いしてないか?当然のように突っかかってくるが気づいてないのだろうか?


 「なあアリス・ガラハッド、今の状況下で質問できるのは俺だけのはずだが?」

 「ッッ!?」

 「今は俺の出自が平民どうこうよりもっと大事なことがあるだろ……」


 あえてフルネームで呼び威圧する。

 アリスから視線を外しその横で腕を組み、こちらを見てなにかを考えているアリスの婚約者を見る。


 「………レオ、お前はどうする?」


 この場において俺が最も危険視する存在、それがレオだ。暗殺者もどきとは比べ物にならない“なにか”がレオにはあると思えてしまう。

 レオは動かない。だがそれまで完全に忘れていたのかアリスが隣の婚約者を見るや勝ち誇った顔でこちらに向き直る。


 「そうよまだレオがいるわッ!さあレオ、この平民をやっちゃいなさい!」


 薄々そんな気はしていたが、やはりレオはガラハッド家の“物”のようだ。

 初めて会ったあの日、俺はなにかをレオに感じた。それはただの“人間”が持ち合わせないようななにかである。

 そんな未知の化け物と戦うのだ、身体強化魔法だけでは心もとない。最悪、あの魔法も使う可能性がある。あまり自分の手の内をさらすのは好きではないがこればっかりは仕方ない。

 しかしそんな俺の考えは杞憂に終わった。


 「いや、やっちゃいなさいとか言われても………だいたい、こんな化け物とやり合うって正気の沙汰じゃねぇぞ」

 「そ、そんなのやってみなきゃわからないでしょ!いいからやりなさい!!」


 その無茶苦茶な命令にレオは心底うんざりした顔になる。

 これがわがままお嬢様とその使用人か……。こんな主従関係死んでもお断りだぁ~……と思い、そんなお嬢様に常日頃から振り回されるであろうレオに心の中でご愁傷様と手を合わせる。

 

「はあ、無茶言うなよ………俺の勘だが『魔槍』使ってもイサには勝てねぇ、たぶんガラハッド家の戦力全部使っても勝てるかわかんねぇってぐらいイサはヤバい」

 

 流石にそれは盛りすぎだと思う。さっきの奴らが何人来ようが負ける気はしないが、じいちゃんはミアさんのような奴はこの世に吐いて捨てるほどいると言っていた。

 ミアさん一人に負けることはなくとも、それが複数になってくると物量で押し切られる可能性は十分にあると考えていい。

 塵も積もれば山となる。相手は天下のガラハッド家だ、こんな歩兵くらいなら吐いて捨てるほど囲っていても不思議はない。

 それに加え、歩兵をまとめる幹部が出てくるとなると本当に命の危機だ。せっかく女神から与えられた第二の人生なのだ。こんなところでゲームオーバー(打ち切り)なんぞ死んでもごめんである。

 

 そこまで考え、この学園からおさらばすることも考えていると、レオがアリスから視線を外しこちらに向き直る。

 

 「なあイサ、俺たちの知ってることならなんでも話す。そのかわり命だけは勘弁してくれ。頼む、このとうりだ」


 そういい頭を下げるレオに不覚にもカッコイイと思ってしまうのは仕方のないことだろう?

 俺も同級生の命を取るつもりはない。そしてその提案に乗りいろいろ聞き出す……はずだった。


 「冗談じゃないわ!そんなことしたらガラハッド家が内情が丸裸になるじゃない!どこの家の手先かもわからない奴に教えるなんて絶対にダメよ!!」


 さっきまで黙っていたアリスが声を張り上げ叫ぶようにレオを止める。やはり、と言うべきかこのお嬢様、筋金入りの貴族脳のようだ。ここまで自己中だといっそ清々しく思えてくる。

 しかし、レオはアリスの言葉に耳を貸さず話を続ける。


 「……なにから話せばいい?戦力か?それとも裏金か?だいたいのことなら知ってるぞ」


 無視されたアリスは顔を真っ赤にしギャーギャーと喚いているがレオは全く相手にせずこちらから視線をはずさない。

 戦力はぜひとも知っておきたい。それがこの国の有力家ともなれば尚更だ。

 しかしその前に誤解を解いておくべきだろう。このまま他家の刺客だと思われたままなのは後々めんどうなことになりかねない。


 「その前に誤解を解いておく。俺は別に他の貴族からの刺客じゃない。もちろん他の国の刺客でもない、だからガラハッド家の内情が他の貴族に露見することは絶対にないよ」

 

 これで誤解から生まれる不信感はある程度解消できるはずだ。これからいろいろ聴き出す以上、不信感はないほうがいい。

 とそんな旨いこと行くはずもないのがこの世界である。


 「そんな言葉信じられないわ!いいレオ、絶対に話しちゃだめよ!」

 

 はいはいお約束。このお嬢様は今の自分の立場を理解していないのであろう。運がいいのかこれが他の腹黒貴族の手下なら今頃アリスは奴隷になっていてもおかしくないところを。レオは己のプライドを折ってまでアリスを守ろうとしているのだ。

 そんなレオの意志をわからないのか敢えて無視しているのか定かではないが……


 もうこのお嬢様縛り上げて廊下に放り出してしまおうか。その方がいろいろ早く行きそうだし……と考えた時だった。

 部屋の隅が突然光り出し、そこには二人の人影。一人は幼女、もう一人はつい数時間前に会ったルティ先生だった。


 「呼ばれて飛び出てどどどどーん!みんなの学園長だぞーーー!!」

 「学園長、少し静かにして下さい。………魔力の気配がしたので来てみればなにごとですか?」


 体を大の字にして高らかに自分を誇示する学園長と、転がっている暗殺者もどきに視線をやりながら現状確認に努めるルティ先生、どっちが学園長なのかわからなくなってくる。

 二人の突然の登場にアリスとレオは固まっているが━━


 「おお~ここがイサ坊の部屋か~いいところを引いたわね~~」


 学園長はあっちこっちの部屋に入っては出るを繰り返し『おお~!』と奇声を発しながら子供のようにはしゃいでいた。

 少し冷静になろう。ルティ先生はいいとしても、しかし学園長、いやこの幼女は一体何をしに来たんだろうか。

 あと、イサ坊って俺のこと…?





 「………なるほど、それでこんなことになっていたのですね」


 ルティ先生に事の顛末を簡単にだが話し終えると、額に手を当てとてつもなく嫌そうな顔をされじろりと睨まれた。その横には部屋の探索に満足したのかほっくり顔な学園長が座っている。

 

 そんな睨まれても知らんがな、俺別になんもしてないし。むしろ被害者だし……。

 まあしかしだ、こうして先生という学園では逆らうことのできない人が来たのだ。いくらかの情報と今回の口止めくらいで穏便に済ませられる、と思っていた。

 いや、そうなればいいな~と思っていた━━━


 「それでどうします学園長?」

 「そうね~……。ねえアリスさん、合格が決まっちゃってる生徒に手を出したってことは学園とも殺り合うつもりってことでいいのかしら?」


 学園長のその言葉にこの部屋の空気が凍り付いた。

 アリスは顔を青ざめさせ、レオは微動だにしない。しかしのその顔には明かな動揺と葛藤が視える。

 それに引き換え学園長はさっきまでと同じ表情、ルティ先生の表情もさっきと変わっていない。

 だが、眼は笑っていなかった。

 そして学園長は続ける。


 「でもおかしいわね…。なんで貴方たちはまだ“立っていられてるのかしら”?」


 俺とアリスとレオは言葉の意味が分からず首を傾げるが、ルティ先生だけは学園長が言わんとすることに気づいたようだ。

 慌てて立ち上がると体のあちこちを触ってきた。かなりきわどいところまで触ってくるルティ先生を止めようとしたが、その顔は真剣そのものだった。

 アウトな部分以外をあらかた触ったルティ先生は大きく息を吐き安堵の表情だった。


 「学園長、イサ君の体にはなにもありませんでした」

 「なにも?本当になにもなかったの?」

 

 訝し気に聞き返す学園長にルティ先生は只々頷く。それからなにかを考えるような素振りを見せたと思うと「ああ~そういうこと」と呟き俺の目を見る。


 「ミアちゃんから言われてたけどあなたは聞いてた以上に甘いわ~、そんなんじゃいつか寝首かかれるわよ~」


 口調はあくまでおっとりと、しかしいつもなら幼女がなに言ってんだ、と笑い飛ばせるはずの言葉なのにそれができないほど学園長の言葉は重く感じた。

 だが一体どこら辺が甘いのだろうか。


 「甘い?どこらへ━━」

 「わからないの?いくら力があってもやっぱりまだ子供ね」


 俺の言葉を遮り、ソファから立ち上がる学園長の顔は“笑っていなかった”。

 学園長はゆっくりと右手をレオとアリスに向ける。


 「『バインド』」

 

 学園長の右手が光ると同時にアリスとレオに白い縄のような物がレオとアリスの体に巻き付いていく。

 その縄はもちろん足にも巻き付きアリスとレオはバランスを崩しその場に倒れる。

 アリスとレオは縄をほどこうと必死にもがくがびくともしない。縄の強度はそこそこあるようだ。


 「無駄よ。その縄はあなたたちじゃ絶対に切れないわ」


 レオは学園長の言葉を聞くとそうそうに脱出を諦めた。そして意外なことにアリスも動くのを止めた。


 「さ、ここからはあなたの授業ですよイサ君。」

 「は?どういうこと━━」

 「其の一、情報とは相手から“聞く”ものではなく“聴き出す”ものである。相手の言葉が真実とは限らない。ここまで言えばあなたならわかるでしょう?」

 

 そう言いこちらを見る学園長。その顔には「こんなこともわからなかったの?」と書いてあるようだった。

 つまり学園長が言いたいのは━━━


 「相手がなんであろうと敵なら容赦するなってことか」


 言ってしまえば拷問やらなんやらで嘘が言えない状況にしてから聞き出せ、ということだ。

 確かに甘かった。この世界に来て十五年、日本にいたころのような考え方じゃ甘いと何度も痛感させられその度に直し、もう大丈夫と思っていたがまだまだ甘かったようだ。


 しかしだ。数多の異世界転生小説を読んできた俺だがこんな世界は知らない。

 いきなり殺されかけられるは、拷問ができないだけで甘いと言われるは……

 どうやらこの世界は他の世界とは比べ物にならないほどにシビアなようだ。


 神様………転生させる世界間違えてませんか? 

 

 


下手に次話のこというと碌なことにならないので次回は未定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ