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悪天候によって荒ぶった波が唸りを上げる。日中にも関わらず、黒雲に覆われた海は暗い色をしていた。降り注ぐ雨粒は次々と海面に吸い込まれて行く。
と、波同士の衝突で舞い上がった白い水飛沫を黒い『何か』が切り裂いた。
海上から一メートルの高さで飛ぶ『何か』は、横合いから吹き付ける強風をものともせず、高度を保ち続けていた。
その第一印象は、薄い…
まるで海を泳ぐエイのような姿から、名付けられた名前はRay Fighter_頭文字を取ってRFと呼ばれている。日本防衛軍の最新型ステルス戦闘機だ。左右に伸びた羽は上から見れば大きいが、正面からは線にも見える。緩やかな曲線の装甲で覆われた頭から腹にかけて、その中央部だけが大きく膨らんでいた。
『なあ、これ落ちたりしないよな?墜落とか嫌だからな…本当に大丈夫だよな?』
「うるさい、少し黙って」
不安を口にし続けていた大久保に、アリスが不機嫌そうに告げた。
二人は今、RFの中央にある膨らみの中、物を一つ挟んで向かい合っていた。
RFの中には機動兵装二機と専用の兵器を収容する空洞が存在する。体を横に寝かせ、二人の間に置かれた兵器に付いている取っ手を掴んだ姿勢で搭乗していた。
兵器の反対側では大久保も同じ姿勢を取っているのだが、正面の兵器で姿は見えない。まあ、彼女からすれば、大久保は見たくないものに分類されるので一向に構わないのだが…
『おいおい…結構揺れてないか?』
口を閉じようとしない大久保に、アリスは溜め息を漏らす。
(まあ、分からなくもないけど…)
アリス自身も、RFが無事に目的地まで届けてくれるのか、と言う不安を心に押し留めていた。
何故なら、このRF…今回が初の実戦投入なのだ。
零隊は開発されたばかりの兵器の実験台としての役割も押し付けられることがある。
当然、仮想訓練で何度もシミュレーションはされたらしいが、現実に乗る者としては気が気ではない。墜ちれば、たった一つの命が失われる危険性だってあるのだ。不安がるのは仕方ないのかもしれない。
『桂、大丈夫だ。RFの点検で舞香が確認したんだ。万が一にも墜落することはない』
聞こえて来た声は、アリス達の乗る機体と並行して飛んでいる、もう一機のRFに乗った神河原のものだった。
決して梶咲の腕を疑っている訳ではないのだが、神河原の言葉は過信である気もする。
『隊長は怖くないんすか?』
大久保の問いに割り込む形で、明るい声が耳に響く。
『へぇー!大久保って意外とビビりなんだ。クスクスクスッ、臆病者!チキン!童貞!』
『んだとぉ、落木!お前、喧嘩売ってんのか?てか、ど、童貞は関係ねぇだろ!』
落木に怒鳴る大久保の慌て様に、アリスは思わず笑いを堪えた。
小宮が部隊を抜け、仮の隊員として選ばれた落木が入って以来、零隊の雰囲気は明るくなった。主に落木と大久保の会話が場を和ませていた。
楽しげな会話の中、視界のディスプレイにRFの機首に取り付けられたカメラからの映像が表示される。
映し出されたのは、荒ぶる海上に浮かぶ二つの島だった。
大と小で区別出来る島を見据え、アリスは気を引き締める。ここからは笑うことが許されない世界になる。一瞬でも気を抜けば自分の命はもちろん、仲間まで危険に晒すこととなる。
アリスは掴んでいた取っ手を強く握り締めた。




