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シェル・フレーム'ズ  作者: 雨蔦
1話 函館戦
11/16

順次更新予定

 もし、理性の(たが)が外れて、湧き上がる怒りの感情に身を委ねていれば、アリスは目の前に立ち尽くす男の眉間に銃口を突き付け、人差し指を引いていたかもしれない。

 彼女は拳に力を()ぎ込むことで、その感情を落ち着けようと努める。

「もう一度訊くけど…何であの場から逃げたの?」

 自分でも感情を抑え切れずに、口調が荒れていることには気が付いていた。

 しかし、機動兵装の頭部を外し、顔を(あらわ)にしている彼は口を閉じたまま、反応はなかった。

「何か答えなさいよ、小宮!」

 アリスが小宮の肩を軽く押す。すると、彼は脱力したように後ろへと倒れ、尻餅をついた。俯いたその表情は読み取れない。

 その態度が余計にアリスの腹を立たせた。

「下なんか向いてないで、大久保の腕を見なさいよ!あんたが一人で逃げた結果があれよ!目を逸らすな!」

 頑なに下を向き続ける小宮の髪を掴み、強引に引っ張り上げる。怒りに任せて機動兵装を動かしたため、彼の髪の毛が数本抜ける音がした。

 痛みから逃れるように顔を上げた小宮は、涙を流していた。鼻水を垂らし、目を赤く染めている。頬を伝う涙は止まらない。幼い子供のように。

『アリス、()めなよ』

 電波障害の範囲から出ていたため、今の状況は舞香にも伝わっていた。

「でも、舞香…こいつは…」

「アリス」

 声と共に、小宮の髪を掴んでいたアリスの腕に、神河原の手が置かれた。

「…っ」

「いいから、その手を放すんだ」

 不服の表情を浮かべたアリスだったが、渋々その手を放す。

 解放されたことで、再び俯いた小宮の前に、神河原が静かに腰を下げた。小宮の目の前にしゃがみ込んだ彼は、平坦な口調で語りかける。

「明弘。お前が敵を目の前にして逃げ出したのは、怖かったからか?」

 彼の声は静かだったが、小宮には言葉の中に圧迫感が含まれていることに気が付いていただろう。この問いに対して、小宮は視線を逸らしてしばらく黙り込んだ後、小さく頷いた。

 怖い。

 戦うことが_怖い。

 殺すことが_怖い。

 死ぬことが_怖い。

(そんなの…誰だって思っているのに…)

 アリス自身でさえ、訓練中にも戦場に対する恐怖を抱くことがある。しかし、それでも尚、彼女は戦うことを選んでいる。決して義務や強制があったからではなく、自分の意志で戦っているのだ。

「怖い…か。確かに、恐怖と言う感情は抑えようと思っても、出来ないものだ。生き残るための本能に従って逃げることは、人間らしいことなんだろうな」

 まるで逃げたことを正当化しているようにも思える言葉に、アリスは少しばかり不快感を覚える。

「アリス、お前はどうして戦っている?」

「へっ?」

 突然に振られた質問に、アリスは慌てた。

「どうして…ですか?」

「そう。アリスの、恐怖に勝る程の理由、目的であるものは何だ?」

(私の戦う理由は、)

「復讐です」

 迷うことなく、アリスは断言した。そして、次に神河原の視線が向けられたのは、揚陸艇の傍らで手当てを終え、座り込みながらこちらの会話を聞いていた大久保だった。

「桂。お前は?」

「お、俺ですか?まあ、その…何て言うか…守りたい、人がいるんで…」

「…」

「ちょ、ノーコメントはキツイですよ!は、恥ずかしぃ…」

 大久保の理由があまりにも意外で、アリスは思わずへぇ、と言葉を漏らしていた。それが一体誰なのか、彼女は少しばかし気になった。

 顔の前で両手を振るって恥ずかしがる大久保を見て、神河原は小さく笑った。

「何でそんなに恥ずかしがるんだ。立派な理由じゃないか」

「えっ、あ、ありがとう…ございます?」

 神河原の真っ直ぐな態度と言葉は、とてもお世辞に聞こえない。

 大久保もその言葉に頭を下げる。

「さて、明弘。今度はお前の番だ。お前は、自分が戦うための理由を持っているか?」

 相変わらず口を開かない小宮だったが、その首を小さく横に振った。

 戦う理由がないまま、この戦場にまで来てしまった…その後悔が表情に滲み出ていた。

「それが俺達とお前の違いだ。戦う理由の有無…人は理由がなくても戦える、と思っている人がいるようだが、死の間際では通用しない話だ。戦場では人の命を奪い、自分達の命が奪われる可能性もある。戦う理由とは、それらに対する覚悟でもあるんだよ」

「…覚悟」

 ようやく小宮が口を開いた。それは小さく呟かれた独り言だったが、神河原は受け止めた。

「そう、覚悟…お前にはないものだろ。それを持たない者に、こいつは重過ぎるし、使うべきじゃない」

 そう言って、神河原は腰にぶら下げたサブマシンガンを叩く。

「…じゃあ…どうすればいいんですか…」

 呟くように訊ねた小宮に、神河原は答える。

「まあ、恐怖に勝る理由なんて、簡単には見つけられないものだ。普通なら、人生かけたとしても見つけられるかどうか分からないものだ。お前がこの先、見つけられる保証なんてない」

 だから、と神河原は続ける。


「お前は(ここ)にいるべきじゃない」

 彼の言葉に驚いたアリスは、ポカンと口を開いたまま固まった。慌てて立ち上がった大久保は、困惑しながら言葉を並べる。

「隊長…いや、それって…えっ、分かんないな。何言ってるんすか?」

「今回の敵前逃亡は不問とするが、この作戦が終了次第、明弘には除隊してもらう」

 小宮は反論しない。それを見た大久保は、神河原と小宮の間に入る。

「待ってくださいよ、隊長。いや、おかしいですって。そんな、明弘を辞めさせるなんて…おかしいって…」

「敵を前にして逃げる行為は自身のみならず、他の隊員まで危険に晒すものだ。悪いが、俺はここにいる全員に死んでもらいたくない。仲間の命を無駄に失うのは御免だからな」

 突っ掛かっていた大久保も、その言葉には黙る他なかった。

「明弘、零隊からは抜けてもらうが、お前が軍に残るつもりなら道行さんに掛け合ってもらう。お前の本心に従って決めろ。ただ、言っておくが、お前の道は別に一つじゃないからな」

 小宮は俯いたまま、その反応はなかった。

「明弘は揚陸艇で大久保と中島を大間基地まで護送しろ。アリスは俺と共に、あのコンテナ付きを第二次奪還作戦開始前に片付ける」

 神河原の指示に小宮は黙って頷くと、ゆっくりと立ち上がる。

 ありがとうございます…

 小さく微かな声だったが、アリスはその言葉を聞き逃さなかった。





 アリスは自身が纏う機動兵装の損傷度を確認する。装甲の所々に弾丸の擦れた痕がいくつか残っているものの、目立って大きな損傷がある訳ではない。

視界に表示された時間は《27:30:00》を切っている。まだ時間に余裕はあるが、ゆっくり出来る訳でもない。

 弾倉の残弾を見て、再び元に戻す。手動装填(ボルトアクション)を行い、薬室へと弾丸を送った。

「意外だな」

 驚くことに、話し掛けて来たのは大久保だった。右腕を抑える彼は、まだ揚陸艇に乗り込んではいなかったようだ。

 しかし、

「意外って、何が?」

 アリスが訊ねると、大久保は笑いながら答える。

「お前が感情を剥き出しにするなんて、本当に珍しかったからさ」

 先程、小宮に対してアリスが怒鳴り付けていた時のことを言っているのだろう。

 事実、アリスがあれ程に激昂したのは、随分と久し振りのことだった。

「今まで、俺が冷やかしたりしても、お前はいっつも呆れた反応ばっかで、酷い時にはまるで他人事だっただろ。でも…いや、だからこそ、小宮を責めていた時のお前が…何て言うか…ありがとな」

「はっ?今の流れで、どうして私が感謝されるの?」

「いや…俺の腕のことであんなに怒ってくれたことの感謝だよ」

 大久保は右腕を上げる。その失われた肘から先は、血に汚れた包帯で隠されているが、改めて見ても痛々しい。

「それに、俺が負傷した時、お前は慌てて来てくれただろ」

「別に、怒ったのはあんたのためじゃない。ただ単に小宮がムカついたから。負傷した時も、そうした方が良いって判断して、それを行動に移しただけ」

「そんなに照れちゃって!もしかして、ツンデレなのか?」

「やっぱりあんた…はぁ…」

(一度殴っておいた方が良いかな…)

 へらへらと笑っていた大久保だが、唐突に態度を一変させ、その表情は真剣な面持ちとなる。目を伏せ、唇を固く結ぶ。アリスが知る大久保の顔ではなかった。

「俺が負傷した時…正直言って、お前に見捨てられるんじゃないかと、めちゃくちゃ不安だった…」

 思いがけない言葉だった。あの大久保が、それもアリスに向かって弱音を吐いている。

(雪でも降りそう…って、もう降ってるか)

「今までお前にしてきた嫌がらせを考えたら、あのまま置いて行かれるかも、って思って…不安で…」

「あんた、馬鹿なの?どんなに嫌がらせをされても、あんたはもう同じ部隊の仲間。そんな下らない理由で仲間を見捨てる程、私も愚かじゃないから。それと、嫌がらせとか、もう止めなさいよ。面倒だから…って、何で泣いているの?」

「えっ?あれ?」

 アリスに言われて自分の頬に触れた大久保は、指先に水滴が付着していることに気が付く。何度か左手で拭うが、それでも涙は止まらない。最終的に、大久保は左掌で顔を覆い、その表情を隠す。

「はは…何泣いてんだろうな…恥ずかしいな…今日は恥ずかしいことばっかだ…」

 どこか痛むのか、と小首を傾げるアリスだが、大久保は無言で空を仰ぎ見たまま動かない。

 思えば、大久保とこんなに真面(まとも)な会話をしたのは、訓練学校の入学当初以来になるだろう。

 小さく嗚咽を漏らす大久保は何度か深呼吸を行い、アリスと向き直った。目は赤く腫れ、その頬には涙の伝った跡が残っている。

「お前は作戦を続行するんだろ?」

 アリスは首を縦に振った。既に神河原と共に、簡易のミーティングを終えていた。揚陸艇から降ろした装備の補充を済ませれば、また丘を登ることになる。

「やっぱり俺も残るよ」

「あんたが居ても足手纏いなだけ。さっさと大間基地に戻りなよ」

「だよな…」

 言葉とは裏腹に、納得のいかない表情を浮かべる大久保は、落ち込んだように肩を落とす。

「じゃあ、絶対に無理はするなよ。最悪、逃げてでも絶対に生き残れ」

「あんたの口からそんな言葉を聞くなんて…気持ち悪い」

 雪だけでなく、月まで降って来そうだ。

「まあ、こんな所で死ぬつもりはないよ」





『アリス、準備はいいか?』

「はい…いつでも行けます」

 丘の頂上で腹這いになったアリスは、展開した二脚(バイポッド)を雪が覆う地面に突き立て、一九径式狙撃銃のスコープを覗き込む。

 照準は函館基地の前に立つコンテナ付き機動兵装。

 引き金に指をかけ、システムの補助を受けながら、軌道予測に合わせて角度の調整を済ませる。

 弾倉には通常弾では威力が劣ると判断して、DA弾を込めている。しかし、DA弾は二度目の加速時に発光するため、外せばこちらの位置を特定されかねない。

 機体に降り積もった雪のおかげで、緑色のボディは上手い具合に隠れている。まだアリスの位置はバレていないようだ。

 呼吸を整えて、神河原の合図を待つ。

「大丈夫でしょうか…」

『何がだ?』

「もし私が失敗すれば、隊長が危険に…」

 自分の失敗で仲間を失うことが怖かった。

『お前なら出来る…と言う(いさ)めが必要か?』

「いえ…」

 そんなことをしてもらっても、恐らくアリスが抱く緊張は解れないだろう。敵を前にして失敗のイメージを浮かべるなど、緊張が増すだけだ。

 ふぅ、と息を吐いて気持ちを切り替えようとするアリスに、神河原の声が届いた。

『アリス、俺は今までのお前が行ってきた訓練のデータを考慮して、お前に頼んだ。お前の実力は確かだ。それを含めて、俺は出来ないことは言わない…護送車の中でも言ったろ。俺を信じろ』

(隊長を…信じる…)

『行くぞ!』

 アリスは意識を通信から、覗き混んでいるスコープへと移す。

 打ち合わせ通り、神河原はアリスの位置から離れた丘の起伏から飛び出したのが、視界に表示された周辺情報を示す地図で分かった。彼は丘を駆け下りて行く。

 ものの五秒強で百五十メートルを駆け下りた神河原は、足を止めることなく雪原を走る。

 元より、彼の機動兵装は装甲が薄く、他の機動兵装に比べて非常に軽いため、脚を使って走る速度はアリスの機体を大きく上回る。アリスの乗る機動兵装は足部走行車輪が取り付けられているため、軽量にして足で走る速度よりも装甲の厚さと強度が優先されている。二世代前の旧式であるが故に、神河原の機体は雪による影響が少ないのだ。

 スコープの奥で敵が動くのが見えた。神河原の存在に気が付き、戦闘態勢へと移っている。

 コンテナ付きの機動兵装は動かない。神河原一人に小型ミサイルを使う必要がないと判断したのだろう。代わりに取り巻きの機動兵装達が、手に持っていた小銃を構える。

「隊長!来ます!」

 直後、電波障害で神河原との通信が途絶える。しかし、アリスは敵の機動兵装の内、コンテナ付きに近い一機が背中に取り付けた装置を操作している瞬間を見逃さなかった。

「あいつか!」

 敵の注意が、神河原一人へと集中する。

 しかし、神河原は臆することなく走り続ける。その左手は腰のサブマシンガンを、右手は背に収まる刀の柄を握った。

 神河原のことが心配ではあるが、この場所から彼を直接助けることは出来ない。今は彼女がするべきことに集中する他ない。

 息を吐き、精神を集中する。肺の中の空気を出し切った瞬間に合わせ、アリスは引き金を引いた。

 アリスと敵の発砲音は同時だった。

 一瞬の閃光を放ち、DA弾が電波障害装置を背負っていると思われる機動兵装の額を貫く。

 崩れるようにして倒れた機体に、連続で撃ち込む。今度の狙いは背中の装置だ。二発目の弾丸も見事に命中し、耳元で微かなノイズが走った。

『アリス、聞こえる?』

 梶咲の声だ。電波障害が途絶えた。

「聞こえるよ!」

 返答したアリスは立ち上がると、一九径式狙撃銃を抱えて丘の上を走り出す。二発のDA弾によって位置が特定された可能性を考慮しての移動だ。

 ふと、雪原の神河原へと目を向ける。そこには驚くべき光景が待っていた。

 神河原は速度を落とすことなく、その脚を動かす。前に右、そして左と、常時方向を変えて移動しているが、もちろんそれだけで弾丸を避けられる訳がない。


 彼は直撃の弾丸を斬っていた。


 実際には、飛んで来た弾丸の軌道を頭部の角擬(つのもどき)で計測し、その視界に弾道が赤い線で表示され、着弾前にその横腹を叩いて体に当たらないよう軌道を逸らしているのだ。

 刀を振る速度が速過ぎるため、アリスには刀で弾丸を斬っているように見えた。

 人間離れしたその動きは美しく、恐ろしかった。例え、アリスがどんなに努力しても、彼に追い付くことは出来ない…追い付こう、と考えることすら阿呆らしく思えてしまう光景だった。

 彼女では手の届かない領域に彼は居る。否が応でも、才能の差を理解させられる。

 彼は本当の天才(バケモノ)なのだ。

『アリス!何してるの!』

 梶咲の声で我に返った。神河原の動きに目を奪われ、脚を止めていた。

 再び走り出しつつも、神河原の背中を見ていた。

 体を捻り、必要な弾丸だけを弾く。火花を散らし、敵へと前進する姿はまさに鬼。

 すると、銃声に加えて、空気の抜ける音が雪原に響き渡る。今まで取り巻きに任せていたコンテナ付きが動き始めた。肩のハッチから、次々と小型ミサイルを撃ち出している。

 対して、神河原は左手のサブマシンガンでそれを迎撃する。当然ながら、右手の刀で敵の銃弾を弾きながらだ。彼の装甲には未だ傷は一つもない。

 雪を被った杉の木陰に位置取ったアリスは、膝を着いて一九径式狙撃銃を構える。

 スコープ越し見える敵は、攻撃しても足を止めず、それらを全て凌ぐ怪物に困惑しているようだ。おかげでアリスの存在に誰一人として気が付いていない。

 しかし、神河原の速度も段々と落ちている。さすがに一人で全てに対処するには、敵の攻撃が多過ぎる。

 その負担を減らすためにも、アリスは照準をコンテナ付きへと合わせる。

「っ…」

 息を止め、スコープの向こうに全神経を集中させる。周囲の雑音も、心臓の鼓動さえ聞こえなくなるまで集中が高まった瞬間に合わせ、人差し指を動かした。

 ダンッ、とサプレッサーによって低く響いた銃声と共に、耳へ音が一斉に流れ込む。

 飛び出した弾丸は空気と雪を切り裂き、一定距離で第二の加速に入った。閃光を発するが、神河原に注意を引かれている敵が気付くはずもなく、不意打ちの一発がコンテナ付きの機動兵装、その腹部に直撃した。

(どうだ!)

 目を凝らしたアリスだが、

「くそっ!硬い!」

 腹部に直撃したのだが、弾丸は貫通することなく、傷を付けるだけで終わった。

 失敗した。

 狙撃手の存在に、敵も気が付いたようだ。場所まではバレていないようだが、思っていた以上に装甲が硬い。

 先程倒した取り巻きはDA弾で貫けたが、コンテナ付きには通らない。通常の装甲よりも数段は頑丈なのだろう。

「すみません、隊長。しくじりました…」

『構わない、続けてコンテナ付きを狙え。アリスに任せる』

 その声に余裕はなかった。当然だ。彼は今、小型ミサイルと弾丸の両方を一人で(さば)いているのだ。

(考えろ、考えろ、考えろ…コンテナ付きの欠点は…?奴は最初に交戦した時から、一切動かずにあの位置に立ったまま…何故?後ろのコンテナのせい?あの中は…小型ミサイルのストックか!)

 急ぎ、照準をコンテナ付きの腹部から、後方のコンテナへと変える。

 コンテナ付きの体と多少重なっているが、(コンテナ)はでかい。あれだけ大きく、動かない的を外す訳がない。

 焦る気持ちに心臓が跳ね上がりつつ、落ち着いて狙う。神河原と敵との距離はもうすぐ千メートルを切る。爆発が起こっても巻き込む心配はないだろう。

 思い切り引き金を引き絞る。

 再び低く唸った銃声が耳に響く。

(行け!)

 加速の光を放ち、吸い込まれるようにしてコンテナへと向かった弾丸は、コンテナ付き機動兵装の傍を通り抜け、その壁面に命中し、

 弾かれた…?

「ぁ…」

 思わず絶句したアリスは気が付いた。

 剥き出しの弱点に対策を施さない訳がない…

 冷静に考えてみれば分かることだった。

 弾丸が命中したコンテナの部位には、小さな凹みしか確認出来ない。

 突破口だと思ったコンテナも駄目だった。アリスの中でパニックが起こる。

(どうすればいい…これから私は…)

 ふと、コンテナ付きの顔に取り付けられたカメラが、スコープ越しにアリスのことを見た。

 しかし、彼女には次に何をすべきか、考える余裕がなかった。失敗に次ぐ失敗。彼女は放心状態となり、その場に固まっていた。

『アリス!上だ!』『アリス、逃げて!』

 神河原と梶咲の声が、どこか遠くから聞こえた気がした。考えなしに上を向いたアリスの目に、小型ミサイル…そして、標準高度を越えたことで、それを追ってAAS3から放たれた中距離ミサイルが映る。二つのミサイルはアリスへと向けて飛んで来る。

(嘘…)


 アリス…


 彼女の名前を呼ぶ声が耳に届いた。

 誰の声か判断する間もなく、アリスの眼前で小型ミサイルと中距離ミサイルが接触した。

 直後、白い閃光と爆炎が彼女の視界を奪う。

 世界の全てが真っ暗に染まった…

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