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2014年/短編まとめ

ダイヤモンド

作者: 文崎 美生

がたがたガタガタとパソコンの画面を見ながら、手早くタイピングをしていく。


この三日寝ないでずっとパソコンに向かっている。


女子高生としていかがなものだろうか。


夏休みの長い期間に私はずっと小説を書いていた。


別に暇じゃない。


高校二年生の今こうして小説を書くことが全てなのだ。


だって来年はAOや就職で忙しいもの。


私は小説家を目指しているのだ。


ずっと投稿をして結果を求めてきた。


中学生の頃からずっとずっと小説を書いてきた。


私の道はここだと決めてそれだけを見つめて走ってきたんだ。


「なぁ、桜ー」


ノックもなしに開けられる部屋の扉。


兄だ。


それがわかっているため振り向かない。


「なに?」


タイピングを続けたまま用件を言うように急かす。


だが兄はゆったりとした足取りでこちらに向かい、机の横に立ち始める。


コトンと机の上に何か置かれる。


石?


タイピングの手を止めて兄を見上げた。


「何か家の前で女の人に貰ったぞ。超美人」


女の人で超美人?


心当たりがない。


石を見ながら首を傾げる私。


「あれ?知り合いじゃないの?」


知り合いだと思ってたのか。


兄も首を傾げる。


「四月の誕生石って言ってたぞ?」


石に触れようとした手を引っ込める。


四月の誕生石と言ったらダイヤモンドだ。


何でそんなもんを貰ってきたんだ。


兄が言うには家の前に女性が立っていたそうだ。


ゴシック調のフリルドレスに真っ黒の日傘という、なんとも目立つ格好をしていたそう。


家の前に立っているその女性を不審に思った兄が声をかけると、それはそれは大層な美人であったそうで。


本音を言うと私も見たかった。


まぁ、それはさて置き。


話を聞くと石を配って歩いているそうで。


女の子限定で誕生石を配っているとかなんとか。


その人の仕事なのか。


でもお金貰ってないんだよね。


そしたら妹がいるという兄にこの石を渡して欲しい、と頼んだから持って来たんだとか。


この兄は危機感とかないのか。


それにしたって私のことを知っている人なのか。


誕生日を知っていてピッタリの誕生石を渡すくらいだ。


私が覚えていないだけなのか。


この辺に住んでいる可能性も高いかもしれない。


今度会ったら返そう。


そう決めて兄を部屋から追い出す。


小説の続きを書くために私はまた机の上のパソコンと向き合うのだった。


だがその手を止めて一旦データを保存する。


そして新しくワードを開きまた文字を打つ。


締切前なのに。


なんで私はさっきの小説を中断して新しいものを書いているのだろう。


しかもプロットも何も作らないで。


ただその場の勢いだけで。


次から次へと浮かんでくる言葉たちは、私の頭の中に溜まっていく。


そして私の手はそれを吐き出すかのように、がたがたガタガタとタイピングをする。


謎の美女と誕生石。


ファンタジー要素にはとてもいい。


凄くいい。


湧きだした創作意欲だけが今の私を突き動かしていた。


あぁ、くそっ、楽しい。


口元に笑が浮かぶのがわかった。


数時間後また兄が訪ねてきた。


今日は一体なんなんだ。


そう思いながらも手は休めずに何時間にも渡る打ち込み作業。


画面に文字が浮き出てくるのが楽しくて仕方ない。


私の様子を見て兄は少し引き気味だ。


それもそうだろう。


高校二年生の女子が三日間も徹夜で作業していて、ましてやその状況を楽しむように笑っているのだから。


姿を見たこともない女性が私の頭の中で動き回る。


私の作る物語で駆け回る。


ドキドキするこの高揚感は書き手じゃないとわからないだろう。


「なんか…いつになくノリノリだな」


そうだろうか。


手を休めずに考えてみる。


まぁ、確かに。


締切を設けているにも関わらず、プロットすら作ってないものを勢いのみで書いているなんて、ハッキリ言って正気の沙汰じゃないだろう。


それでも楽しんで書くことも大切だ。


「今回はいけそうな気がするの」


フッ、と兄に笑いかける。


すると目を大きく見開いて私を見る兄の顔。


どこからくるのかわからない力。


創作意欲だけが私を駆り立てる。


一週間は寝ないでもいけるかも、と思いながら私は小説を書き続けるのだった。


その横ではダイヤモンドが輝いていた。


数日後に完成した小説が数ヶ月後に大賞を取るなんて、思いにもよらないまま。

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