第一話
気がついたらここにいた、という感じ。
目を開けると俺は変な場所に立っていた。空には月さえない、草木が枯れ果てた場所。土には骨が埋まっている。所々に西洋の墓がある。
「…なんだ、ここ?」
辺りを見回す。
どうしてこんなところにいるのか、全く分からなかった。どうやってここに来たんだっけ?というか、さっきまで何してた?え…
「俺、誰」
記憶喪失…?いや、そうだとしても普通はこんなところに突っ立ってないはずなんだけど。
辺りを見回すと、背後に丘があった。高くはないけど砂山だから上りにくそう。
俺ががっくりと下を向いたところで、声がした。
「やっと気づいたか」
丘の上にさっきまでいなかった男が立っている。
眼鏡を掛けた、白い肌の男。黒髪に黒い帽子、黒いスーツで、白い手袋をはめている。ほぼ黒尽くめだ。
「…誰」
男は無表情だ。
「誰だと思う」
「え…」
願うなら、
「神…さま?」
男は鼻で笑うと、丘の向こう側に視線を向けた。何故かそちらに向かって声を発する。
「主様、見つかりました」
「え、ホントに!?」
そしてそれに答える声。
「あの…えと」
「どれどれー?」
丘からひょっこりと青年が顔を覗かせた。シルクハットを被った金髪の男。やっぱり色が白い。
「わぉ!本当だね」
装いは眼鏡の男とさほど変わらない。唯一違うのは、首もとがネクタイじゃなくて白いレースだってところ。目が大きくて髪が肩にかかっているので、女のようだけど…男だよな?
ニコニコと愛想のいい男は嬉しそうに言った。
「また死人が一人増えたねぇ」
この男の言葉に俺は妙に納得してしまった。暖かくも冷たくもない風が吹く。
そっか、俺死んだんだ。記憶は無いのに分かる。さっきからの変な気持ちも妙に体が軽いのもそのせいだ。
「主様、この男はどうしましょう?」
「そうだねぇ…」
主様があごに手を当てる。
この二人は何者なんだろう。神様と天使?それにしてはダークな恰好だと思う。
「まだ高校生なんでしょ?十分使えるんじゃないかな」
「神器としての力量が感じられないのですが」
コイツ、失礼なことを言っているって言うのだけは分かる。
「そうだけどねぇ。ほら、若いと成長するじゃない?」
主様が俺を見る。
「彼、頭がこんがらがってるみたいだから、シリウスが説明してやって」
「かしこまりました」
主様はくるりと踵を返す。その背中から急に、コウモリの羽が生えてくる。
「!?」
主様はそのまま、飛び立ってしまった。