1-2 平穏の終わり
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その商店街のシンボルである大きな電光掲示板には、【2019/5/28 PM6:20】と表記されていた。
風理はその日もいつも通り、学校へ行き、授業を受け、部活をし、そして帰宅という普通のステップを踏んでいた。
この町は、特別田舎というわけでもない。
商店街には様々な店舗があり、これらの店をまとめればそんじょそこらの繁華街を凌駕しそうな規模だ。
だが、道の整備だけは行き届いていなかった。
車に肉薄するほどの幅しかない道、雑草が我先にと生えている道、でこぼこしている道、男坂顔負けの坂道に告ぐ坂道と、お世辞にも人が通る道とはいえないものばかりだ。
そんな中、住民の要望が役所を動かした。
危険とされる道の整備をするという知らせが届いた時は、風理含め大勢の人々が喜んだ。誰もが良くなると思った。
道を整備するということは、その道は工事が終わらない限り通れないということになる。したがって、通れる道は減ってしまう。道が減れば、一つの道に通る量が増える。そうなれば、道単体の危険率は更に上がる。
――確か、そんなある日のことだった気がする。
剣道部所属だった彼は、その日もいつもどおりの練習をし、試合をした。自身に、着実に実力が付いてくる実感を感じていた。適度な足腰の疲労感を感じ、ふと気が付けば日が暮れていたもので、一体どれほどの時間練習をしていたかすら数えることもしたくなかった。
実力としては、中堅どころだった。
風理は、決して竹刀を振るのが早いわけではないし、むしろ遅い部類だった。また、部内唯一の二刀流が、振りの遅さに拍車をかけていた。
それは当然のことだ。一本を両手で持って戦うのが王道なのに、それを片手で振るい、かつ両手でこなすとなると、よほどの筋力を要する。彼のような体格では、まともに攻撃ができずに一本をとられてしまうだろう。
しかし。それで彼が中堅だというなら、いささかレベルの低い部活になる。彼の、風理の長所が、それを補っているのだ。
彼の脚はたいしたもので、どれほど距離があろうが一歩進めばたちまち間合いに入ってしまうほどだ。それゆえ振りの遅さが攻撃を食らうことにつながりはしなかった。後退することもできるため、間合いに関しては彼の右に出る者はいない。
「お疲れ様でしたー」
剣道場を出る直前の礼も欠かさず、後片付けをしているほかの部員達に声をかけた。おつかれー、という声がこだましたのを確認し、駐輪場へと急いだ。
辺りには、自分と同じく部活が終わった生徒が各々の手段で下校をしていた。
それらを尻目に、風理は一日の――いや、今になってみれば最後となるかもしれない充実を感じた。
短距離なら走るほうが速い風理も、長距離では自転車のほうが有利だ。
自転車の篭に荷物を置いていざ出発。風理を爽快な風が包み込み、自分自身が飛んでしまいそうな感覚さえしていた。
とはいえ、流石に現実的には難しいため、運転に集中していた。
前を見ると、車が渋滞を起こしていたようだった。
それだけ通常時には交通量があった街だったのだ。整備により、道の数が大きく減ってしまったためにこういうことも起こるものだった。
車の脇をそろりそろりと進んでいくと、やがてその先頭が見えてきた。
これさえ抜けてしまえば、後はごく普通の道なのだ。ペダルをこぐ力が高まり、その先頭へどんどん近づいてく。
だが、次の瞬間には体に衝撃が走っていた。
自分でも何が起きているか把握できないうちに横転し、ガードレールにもたれかかる。
衝撃で体が痛む。なんとか正面を向くと、視界にはその原因と思しき光景があった。
目の前には、車三台が激しくへこんでいた。