5
夕飯は、ボクの部屋に皆が来て食べることになった。そのことに、ボクはまた驚いていた。元の世界でのボクの家族は一緒にご飯を食べるなんてことはしたことが無かった。
そういえば、よくよく考えたらまだボクはこの世界に来てから、一度も食事をしていなかった。夕飯は、ボクは具の入っていないスープだった。他の3人はパンも付いていた。
「家族4人で食事も久しぶりね。サラはいきなり普通の食事は駄目みたいだから、スープだけだけど。」
母様が嬉しそうに言った。
「そうだな。サラ、身体は辛くないか?」
父様が言った。
「大丈夫です。ありがとうございます。でも、ボクはいいとしても皆さんの食事はそれだけで足りるのですか?」
ボクは心配になって尋ねた。父様は医者に『侯爵様』と呼ばれていた。侯爵というのだから、貴族なのだと思う。なのに食事がパンと具なしのスープだけだなんておかしい。
「サラがスープだけなのに、私達だけ贅沢できないよ。心配してくれてありがとう。」
父様が言った。
「そうだよ。サラは、やっぱり自分ののことを『ボク』って呼ぶんだな。」
兄様が嬉しそうに言った。
「そうだったの?兄様?」
「母様が、女の子は『ボク』って言わないのよ。って言っても聞かなかったからな。にーたまと一緒なのって。」
サラティナも、一人称は『ボク』だったんだ。
「私としては、『ボク』じゃないほうがよかったんだけど…。」
と母様は言ったが、嬉しそうな顔をしていた。その後も食事は、父様も母様も兄様もボクに色々と話しかけてくれて、ちょっと楽しかった。家族と一緒にいてこんな気持ちになるのは始めてだった。
食事の後兄様は、学校の寮へ戻っていった。その日の夜はぐっすり眠れた。
朝、目が覚めるとメイドのカルラさんがいた。
「おはようございます。お嬢様。メイドのカルラです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。カルラさん。」
「カルラとお呼び下さい。それと、使用人には敬語は不要です。」
「あ、は、うん。」
確かに、貴族が使用人に敬語をつかうのは、ボクはよくても世間的には良くないかもしれない。そんな事をかんがえていると、カルラがボクを着替えさえようとしてくれた。
「着替えは自分でやる。」
慌てて言って、ベッドから降りて立とうとした。けれど、ボクはバランスを崩して倒れてしまった。
「お嬢様!大丈夫ですか?5年間も眠られていたのですから、突然立つのは危ないですよ。」
「あ、そっか。すみません。」
考えてみたら、この身体は5年間寝ていたから、運動してない。だから、筋力は凄く衰えてしまっているのだろう。
結局、ボクはカルラに着替えさせてもらい、朝食にスープを飲んだ。
「今日はこの後、お医者様のローレンス様がいらっしゃいます。その前に少しこのお部屋のお掃除をしてもよろしいですか?」
「大丈夫だよ。」
「では、道具を取って参ります。」
そう言うと、カルラは部屋を出て行った。
しばらくして、カルラが部屋に戻って来た時、その光景にボクは驚いた。
「な、なんで、掃除道具が宙に浮いてるの?」
ボクが聞くとカルラは、笑いながら
「お嬢様、これは魔法ですよ。」