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神の使いには、夢でしか会えないみたいだ。まだ、聞きたい事はたくさんあった。分からないことばかりでどうすれば良いのか困る。そんなことを考えていると、誰かが廊下で走っている音が聞こえた。
バターンッ!
物凄い勢いで部屋のドアが開いた。
「サラ⁉︎本当に!サラが起きてる‼︎」
突然の事に驚いていると抱きつかれた。
「ティトス。サラが困っているわよ。少し落ち着きなさい。」
お父様とお母様も部屋にやって来た。
「だって、5年間もずっと目がさめなかったサラが起きたんですよ!これが落ち着いていられますか⁉︎」
抱きついてきた少年はそう言いながらもボクを離しながら言った。
「そうだな。確かに喜ばしいことだが、サラは目が覚めたばかりなんだぞ。気持ちは分かるがあまり騒ぐな。」
お父様が言った。
「あっ。ごめんな、サラ。嬉しくてつい…。」
「えっと、大丈夫です。すみません、あなたは誰ですか?」
ボクは聞いた。
「えっ?」
「サラ、彼は君の兄のティトスだ。驚かせてしまってすまないな。」
困惑して固まってしまった少年の代わりにお父様が答えた。
「ティトス。だから、ちょと待ちなさいと言ったでしょう。帰って来るなり直ぐにサラの部屋に直行するなんて…。手紙に、サラに会う前に話があると書いておいたでしょう?」
お母様が言った。
「まあ、とりあえず家族がそろったから、改めて挨拶しよう。サラ、私はお前の父のテイナーだよ。」
「私は、母のマラよ。」
父と母だという人達は改めて名乗ってくれた。
「お父様とお母様。それから、ティトスお兄様。よろしくお願いします。」
ボクが挨拶すると、
「その呼び方は、慣れないわ。前は父様、母様と呼んでくれていたから、そう呼んで貰えると嬉しいわ。」
「ああ。サラ、まだ顔色があまり良くないね。休んでいなさい。ティトス。話がある来なさい。」
今だに、放心状態だった兄様を引きずるように連れて父様と母様は部屋を出て行った。
『あなたは誰ですか?』
俺は今だにその言葉が信じられなかった。サラの部屋を出て、父様と母様の部屋に連れて来られた。
「どういうことですか?サラはいったいどうしたのですか⁉︎」
俺は、二人にむかって半分怒鳴るように聞いた。
「サラは倒れる前の記憶がないみたいだ。小さかったしな。それを、お前がサラに会う前に伝えようと思ったら、聞く耳を持たずにサラの部屋に走っていったんだ。」
父様は悲しそうに言った。
「そんな…。」
5年前まで、俺の後を『にーたま。にーたま。』ってちょこちょこついて来ていた、6歳年下の妹。その可愛い妹が倒れてもう目が覚めないかもしれないと分かったとき、凄く辛かった。だから昨夜、母様からサラの目が覚めたっていう手紙が届いて凄く嬉しくて、学校の寮を朝一番で出て帰って来た。それで、家に着いたら父様と母様の言うことも聞かずにサラの部屋に直行して…。
「ローレンス君がね、サラの目が覚めたのは奇跡だって。だから、ティトス。あの子の目が覚めたそれだけで、凄く幸運だと思わなきゃ。」
母様が言った。
「分かりました。もう一度サラに会ってから、学校に戻ります。」
「そうか。もう少しゆっくりして行けばいいじゃないか。夕飯位食べていったらどうだ?」
「分かりました。でも、とりあえずサラと話してきます。」
そう言うと、俺はサラの部屋に向かった。
3人が出て行ってからボクは、新しい家族の事を考えていた。前の家族とはいい思い出が全くない。だから、ボクは家族なんてただ血が繋がっているだけの他人だと考えていたし、ここでもそういうものだと思っていた。でも、ここの家族はとてもサラティナを心配していた。ボクは、本当はサラティナではない。だから、申し訳ないと思う。ボクは、あの人達の大事なサラティナの身体で自分のイヤなものから逃げたから。例えそれが、ボクが自ら望んだことではないとしても…。
しばらくすると、ドアをノックする音がした。
「はい?」
ティトスお兄様だった。
「さっきは、驚かせちゃってごめんな。俺、サラが起きたって聞いて凄く嬉しくて…。父様と母様に聞いたよ。」
「大丈夫です。すみません。」
お兄様の悲しそうな顔を見たら、謝らずにはいられなかった。
「謝らなくてもいいよ。俺は普段は、学校の寮にいて家にはいないけど、何か困ったこととかあったら教えてくれ。手紙書くよ。」
お兄様は優しい笑みを浮かべながら言った。ボクは驚いていた。元の世界では、兄と姉が一人ずついたが、もっと冷たかったし、ボクには興味がなかった。だから、ボクはどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
「えっと…。ありがとうございます…。」
「お礼なんていらないよ。記憶がなくたって、サラティナは俺の妹だ。それから、敬語辞めて欲しいな。」
「えっ…。でも…。」
「いいから。いいから。俺はもっと今のサラと仲良くなりたいし。」
「分かりまし、分かった。ティトスお兄様には、敬語使わない。」
「兄様って呼んでくれないか?前はそう呼んでくれていたから。」
兄様は嬉しそうに言った。
「兄様、改めてよろしく。」
「ああ。よろしくな!」
兄様はボクの頭をぐしゃぐしゃとなでた。