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晴れのち僕と彼女

晴れのち僕と彼女②

作者:

『日曜のち携帯電話と彼女』


 彼女と会ってから数日が過ぎた。

 その間天気は曇りだったり雨だったりと、とてもぐずついた天気が続いていた。

 もうすぐ梅雨に入るらしい。

 

 あの日、学校をサボったことは親にばれてはいなかった。担任には体調不良で休んだと言った。もともと僕は学校をサボるような生徒ではなかったため、先生はまったく疑わなかった。

 僕はあれ以来まだ川原に足を運んでいない。なぜか晴れた日じゃないと彼女がいない気がしたからだ。だけど今度の日曜日は梅雨前の最後の晴れの日になるらしい。僕は帰宅部で部活も無いから川原に行ってみようかと思った。


 たとえ彼女が来るという保障がなくても。


「少し暑いな・・・・」

 日曜日は天気予報のお姉さんが言っていた通り晴れた。

 僕はこの前彼女と会った川原に居た。

 日曜日とあって子どもや家族連れが沢山いた。それを遠目で見ながら僕は川原を歩いた。みんな家族や恋人や友達と居る・・・誰かと一緒にいる。一人で居るのは僕だけのようだ。

 少し居心地の悪さを感じながらも、僕はあの日と同じように川に向かって石を投げたり、歩いたり、疲れたらしゃがんでみたりしていた。しかし、それも1時間もすればさすがに飽きてくる。僕はコンクリートの上に寝転んだ。そして、梅雨のせいでしばらく見られなくなる晴れた青空を見た。

 視界いっぱいに青空が入る。

 僕はもう半ば彼女に会うのを諦めていた。「またね」とは言ってもまた会う約束などしていないのだから。僕がもっとしっかりしていて、格好よかったら来てくれたかも知れないが、しょせん僕は地味なヤツだ。友達なんて数人しかいない。しかもその友達も上辺だけ。本当は同情で僕と一緒に居るだけなのだろう。

 そう・・・僕と一緒に居てくれる人なんていない。僕は自分の中でそう自己完結して目を閉じた。暖かい光とやわらかい風を感じる。そうするとやっぱりほっとする。

 少しそうしていると、突然暖かい光が無くなった。太陽が雲に隠されたかと僕は思いながら目を開けた。

「ん?」

 どうやら違うらしい。誰かが僕の顔を覗き込んでいて、それで僕に当っていた光が遮られたらしい。

「あ!起こしちゃった?」

 覗き込んでいた誰かが言った。僕は目を擦りながら体を起こす。

「また会ったね」

 そこに居たのは僕が会いたかった彼女だった。

「あ・・・はい」

 彼女はあの時みたいに微笑んだ。

「また学校サボっているの?」

 彼女はまじめな顔をして僕に聞いてきた。彼女は僕がまたサボっていると思っているようだ。

「日曜日なので学校は休みなんです」

「あ!そっか!今日は日曜日なんだ。だから君も制服着てないし、こんなに人が多いのか」

 彼女は本当に驚いたように手を叩いた。

 彼女に曜日感覚は無いのだろうか。けどこの前抜け出してきたと言っていたから働いているか学校には行っているのだろうか。

「今日も抜け出してきたんですか?」

「うん、そんなとこ」

 日曜日でも仕事があるのか。仕事からこんなに抜け出してきていいのだろうか。

 僕はそんなことを思いながらまた寝転がる。彼女も僕の隣で寝転がる。

「最近ずっと天気が悪かったからこんなに晴れたの久しぶりだね」

 彼女は寝転がりながら伸びをする。

「また明日から雨ですよ」

 僕は今朝みた週間天気予報を思い出した。明日からしばらく晴れの日はない。

「そうなの・・・」

 彼女は本当に残念そうにした。それだけ晴れた日が好きなのだろう。


 僕は・・・どうだろう。


「ねぇ!」

 僕が考え込んでいると彼女はいきなり話しかけてきた。

「な、なんですか?」

「晴れた日はここに来るの?」

 彼女はいきなり僕に質問してきた。僕はどう答えればいいか分からず焦る。

「いや・・・たまたま、なんとなく来ただけで・・・」

 僕はあいまいに答えた。まさかあなたに会いに来ましたなんて言えない。言えるわけが無い。言われる彼女も困ってしまうだろう。

「そうなんだ。まぁ私もなんでここに来たのって聞かれたら、君と同じ答えしか出てこないな」

 そして僕らはまたこの前のようにただ青空を見た。静かだけど、けして居心地が悪いわけではなく、何もしないけどずっとここにいたいと思うような・・・そんな空気が僕らの周りにあった。

 しばらくした頃、僕は起き上がりポケットから携帯電話を取り出した。時間を見る。

 そんな僕を彼女はじっと見ていた。

「な、なんですか?」

 僕は何故見られているのか分からず、彼女に尋ねた。

「今の子はみんな持ってるよね~。携帯」

 彼女は僕ではなく、携帯電話を見ていたのだ。僕は自分のしていた勘違いに恥ずかしくなって下を向いた。

「私も欲しいんだけどもってないのよ。触らせてもらったこともない」

 いまどき小学生でも持っている携帯電話を触ったこともない・・・僕はただただビックリした。

「触ってみますか?」

 僕は彼女に携帯電話を差し出した。すると彼女は嬉しそうに笑った。

「触っていいの?」

 僕はうなずいて、彼女に携帯電話を渡した。彼女は子どもが新しいおもちゃをもらったように喜んで、携帯電話を閉じたり開けたりしていた。僕はそんな彼女を見て笑っていた。

 そのあとはずっと携帯電話の話をしていた。僕がいろいろな機能を教えたり見せたりすると、そのたびに彼女は驚いた。

「あ・・・もう少しで12時だ」

 僕は携帯電話の時計を見て言った。

「私帰らないと・・・」

 そういって立ち上がり、服についたごみを払う。

「じゃ~またね」

「また」

 彼女は僕に背を向けて少し歩き言った。

「ねぇ・・・また晴れた日にここに来る?」

 彼女は僕に背を向けたまま、僕に聞いた。

「来ます!」

 僕はすぐに答えた。僕の答えを聞いて彼女が少し笑った気がした。

「また・・・また晴れた日に」

 そういって彼女は帰って言った。僕は彼女が帰った後も、少し座ったままだった。

 また晴れた日に彼女に会えるかもしれない。そう思うと嬉しかった。


 僕はまだこの時、なぜ12時になったら帰らなければいけないか、なぜ携帯電話を持たせてもらえないのかあまり深く考えていなかった。







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