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異世界最強魔術師は誰にも邪魔されずにのんびり暮らしたい  作者: 天霧 ホノカ


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1/1

魔王を討伐したので危険魔物地帯の森へ逃亡します

魔王城最上階。

血のような赤の絨毯が真っ直ぐに玉座へと伸び、壁に掲げられた青白い炎の松明が静かに揺らめいている。

玉座の背後にはかつて魔王と戦ってきた人間の骨が飾られている。


強力な魔力の玉座の間で魔王と1人の少年が立っていた。


黒髪で青い瞳。身長は160cmで年は16くらいだろうか。何処にでもいそうな小柄で少し物静かそうな少年。


彼の名はカイル・ヴァルフレイド。

結論から言うと彼は世界最強の魔術師である。しかし、その張本人は自覚がなく、マイペースな性格である。



「人間よ...」

魔王が重々しく口を開く。


「よくここまで来たな。人間と会うのは約200年ぶりだ。」


「...」


「だが貴様もここで終わりだ。私は今まで数々の勇者や魔術師を倒してきた。200年ぶりに戦うのはこのガキか...この世界も弱くなったな。これまで私が倒してきた人間の話をしよう...あれは1000年前...」


「あの...早く終わらせたいんで長話は控えてもらっいい...?」

カイルは長話が嫌そうな目をしながら聞く。


魔王はきょとんとする。今までの勇者や魔術師は嫌々でも魔王の長話を聞いてきた。拒めば瞬殺されると思ったからだ。

カイルのように口を挟んできた人間は初めてであった。


「ははっ。貴様、そんなに早く私に殺されたいのか」

魔王は笑い声を上げ、見下している。


「いや、殺されるのはあなたの方ですけど...?」

カイルはズバッと魔王を殺す宣言をする。全然緊張していなく、むしろ肝が据わってる。


魔王はきょとんとし、少し黙り込む。


「くくっ。貴様、面白い人間だな。なら望み通り殺してやる」


カイルは自分よりも大きい杖を構える。


魔王は静かに両腕を上げる。

床に魔法陣が浮き出し始める。


「始まりの闇より生まれし発現の力よ」


黒い雷のようなものが辺りを覆い、天井が崩れ始め、空にな巨大な漆黒の雲が渦を巻いている。


「我が前に伏せ、世界よ」

魔王の瞳が赤く輝き。闇が空を覆い尽くす。


やがて魔王は手を振り下ろす。


『終末の黒天』

世界が黒く染まった。



「わぁ、すごい」

一方カイルは杖は構えていたがその光景を見上げているだけだった。普通の人間なら立っていることすらできない重圧。だがカイルの表情は変わらない。

青い瞳はただ空を見つめていた。


そしてカイルはようやく杖をグッと力いっぱい握り、戦う体制を整えた。


目を瞑る。

大袈裟の動作もなく一言。


『蒼壁絶界』


淡い蒼色の光が広がった。

半透明の結界が静かにカイルを包み込む。


その瞬間。

世界を滅ぼすはずだった漆黒の天災は、蒼い壁に触れた瞬間音もなく消滅した。まるで最初から存在しなかったように。


世界を覆い尽くしていた闇が霧のように消え去っていく。

魔王は目を見開く。信じられなかった。己が全魔力を注ぎ込んだ魔法が一瞬にして消え去るのが絶望でたまらなかった。


「そうか...」


「?」


「私は勘違いをしていた。貴様は魔術師ではなくこの時代の天災か。」


「天災...?」


「何故貴様は私を倒しに来た?」


「なんでって...うーん...強い相手と戦いたかったから...?」


その場がシーンと静まりかえる。


「...は?」


「え?」


「そ、そこは国から討伐依頼を受けたからとかじゃないのか...?」


「討伐以来?なにそれ」

頭にはてなマークを浮かべる。


「貴様...」

魔王はゆっくりと目を閉じた。

呆れた顔だった。強いのに国からの支援を受けていないのかを聞こうとしたが魔王らしくなかったのでやめた。


「私が今使った術は世界が滅びる最高傑作の魔法だ。」


「ということはつまり…?」


「今の魔法が私の切り札だ。」


カイルは魔王を見ながら首を傾げる。

「今のが切り札…?本気で言ってる…?」


魔王は内心イラッとしたがもう最初の威勢は無くなっていた。


「来るがいい。」

魔王としての誇りを宿した声だった。


カイルが魔王に近づく。そして杖を差し出す。

蒼い光が集まり、膨大な魔力が集まってくる。だが派手でもなく、音もない。ただ一筋の光。それだけだった。


カイルは静かに告げる。


『蒼天一閃』


蒼い光が走る。何よりも早く、静かに。

一瞬にして玉座の間に蒼い光が通り過ぎた。


その瞬間魔王の体がぼろぼろと崩れて落ちる。


「...これほど、か。」

その声はどこまでも穏やかだった。

魔王は理解していた。最初から勝てないのだと。


魔王は最後に小さく笑う。


「見事だった。」


そう言い残し、蒼い光となって消えていった。


静寂が訪れる。


「...なんかちょっと寂しいかんじがするな...」

自分で倒しておきながらも少し心苦しくなる。


「てか魔王との戦いってこんなすぐに終わるんだ。もうちょい尺伸ばしとけばよかったな」


カイルはこの物語がすぐに終わらないかと心配する。


「あれ?」

魔王城の外でがやがやと人の音が聞こえる。

外を見てみるとヴェールス王国の騎士たちだった。

ヴェールス王国はここから近い国で世界で1番大きい国である。騎士団たちが城へと乗り込む。


「やばっ...」

カイルは素早く壊された壁の後ろに隠れる。幸いにも小柄なので遠くからはあまり見えない。


騎士たちが城の最上階まで警戒しながらたどり着く。


「魔王が見当たりません!」


「逃げたのか?!」


「で、でも、魔王はここの城の領域から一度も出たことないとよく聞きます!」


「確かにその前例はあるが...じゃあ一体誰が魔王を倒したんだ?」


騎士たちがザワつく。


カイルは静かにその場を観察する。バレるのも時間の問題だ。ルシアは柱の後ろに隠れながら立つ。


『蒼空俊移』

小声でそう言い、違う場所へ瞬間移動する。


蒼白い光が一瞬光り、すぐに消えた。

騎士たちがそれに反応する。


「なんだ今の光は?!」

皆が慌てて戸惑う。


騎士団長らしき者が大きな声で言う。

「今の光はおそらく魔王を倒した者が発した光だ!」


「確かに!魔王を倒された時の光も今の感じだったしな!」


カイルの魔法、“蒼天一閃”は夜の国中を光に包むほどの膨大な魔力だった。


「このことを国王陛下に報告するぞ!」


騎士団長がそう言い残し、ヴェールス王国へと戻って行った。




カイルはとある森林へと瞬間移動した。


「適当に移動したからここどこか分からないな…」


持っていた古い地図を開く。

「えっとここは…」


“死滅の大森林”


そう呼ばれている危険地帯だった。

S級の魔物が群れをなし、ドラゴンすら縄張り争いをする森林。普通の冒険者や魔術師が立ち入ったら一瞬で命を落とすところだ。


「結構いい場所だな…」

カイルは周りを見渡してそう言った。


全然怖がっていなく、寧ろ気に入ったようだった。


近くの木々は空高く伸び、川は透き通っている。魔物を除けば豊かな自然の森林だった。


「よし、ここに家を建てよう」

即決した。


「まずは家作りからだな」


広場になっている場所へと歩いていく。そこは森の中心地帯。巨大な樹木に囲まれた天然の空間だった。


カイルは地面に手をつく。

蒼い光が地中へ広がる。


蒼城構築そうじょうこうちく


ゴゴゴゴゴ……!


地面が震える。土が盛り上がり白い石が次々と出現し、壁が組み上がる。柱が立ち、窓枠が形成される。

まるで見えない職人たちが一斉に建築しているようだった。


数分後。


二階建ての美しい家が完成した。

部屋の中は広いリビングに大きな暖炉、2回には寝室。浴槽もあるが、露天風呂もある。


「あとは結界かな。」


カイルは杖を構え、目を瞑る。


『蒼壁絶界』


魔王との戦いでも使った結界の魔法。半透明の結界が家の周りに広がる。


「よし!終わったー…流石に疲れたな…」


二階のベットに横になる。睡魔が来て、カイルは眠りについた。


数時間後。


「ん…?」


時計を見ると20時を過ぎていた。


「めっちゃ熟睡しちゃったな…」


その時。


ドシン、ドシン。


地面が少し揺れる。


「何?外から…?」


階段を降り、玄関をガチャっと開ける。


森の奥から巨大な影が現れた。

黒い瞳で赤い鱗。

A級のドラゴンの魔物、ファフニールだった。


「でっか…」


「グオオオオオオオ!!!」


咆哮だけで木々が揺れる。


「う、うるさ…」

耳を塞ぐ。


ドラゴンは巨大な炎を吐く。灼熱のブレスが一直線に迫った。だが、カイルの結界で炎が一気に消え去っていく。


ドラゴンが戸惑うような仕草を見せる。


「結界は壊せないよ。帰ってくれる?」


「グオオオオ!」

怒ったドラゴンは結界の方へ突進する。だが結界は強く跳ね返され、頭をぶつけ意識が飛び、倒れた。


「だから言ったのに…」



数分後。


「あ、起きた」


カイルがドラゴンの上に寝そべりながら話しかける。


「キュ?!」

ドラゴンは出会った時の大きな声ではなく、可愛らしい声でびっくりした。


「え、元々そんな声だったの…?」


「キュ…」

つぶらな瞳でカイルを見る。さっきまでの恐ろしいドラゴンとは大違いだった。


カイルは起き上がり、ドラゴンから降りる。


「もう突進しに来たらダメだからね。それじゃ」

手を振り、家へ帰っていく。

ここは死滅の森林。ドラゴンなんてよく出ることだ。これからは気にせずに生活しようと決心した。


「ま、待って…!」


「え?」


タタタッと後ろから走る音がし、小さな女の子がカイルをハグし引き止めた。

カイルは頭が真っ白になった。


「だだだだだ、誰?!?!?!」

勢いよく女の子の手を離し、距離を置く。


身長は130cmくらいの女の子。鮮やかな綺麗な赤色の髪で瞳は宝石のような紅色。頭には小さな角があり、羽も生えている。


「もしかして君…さっきのドラゴン…?」


女の子はぱぁぁぁっと目を輝かせ、カイルの方へ走って抱きつく。


「ご主人様〜!!!」


「ご、ごしゅ…?」


「透明な壁にぶつかった時びっくりした!死ぬかと思った!」


「な、なんで人に…」


「なんかね〜、変身できるんだ!ご主人様のいい匂い!」

くんくんと匂いをかぐ。


「ちょっ?!」


「ねーねーおなかすいたー!なんかお肉ないのー?」


「ないよ…」


「ご主人様の家行きたい!」


「だーめ。人になってもドラゴンはドラゴンだから」


「おねがい〜!いい子にするから!!」


「いい子にって…じゃあこれ」

ポケットの中から干し肉を出す。薄くてもう肉がかぴかぴになっている。


「え〜これ〜?」


「味は美味しいから」


女の子は受け取り、渋々食べる。


「!!ほんとだ!おいしい!」

肉は固いが、味は引き締まっていておいしいらしい。


「じゃあ僕はこれで。またね」


「やだやだやだ!」

カイルのローブをグッとひっぱり止める。ドラゴンなので力は強い。


「ちょっ…引っ張るとローブちぎれるから…!」

綱引き状態になっている。

魔法を使いたいが、小さい女の子相手に使いたくない。中身はドラゴンだが。


「はぁ…わかった、家入れたあげるから離して」


「ほんと?!」

バッと手を離す。


「じゃあご主人様の家にしゅっぱーつ!」


「すぐそこだけどね…」

めんどくさい事になってしまい、ため息をつく。だがこうなったからには一緒にいるしかない。


「あ、そうだ。ちょっとこっち向いて」


「なーに?」

正面に向き合い、カイルは女の子の目線と同じ位置くらいまでしゃがむ。


ポケットの中からネックレスを取り出し、女の子の首にかける。ネックレスには小さな薄い蒼色の宝石が付いている。


「きれい…」


「これをつけていれば結界の中に入れるから」


「じゃあ家に入れるってこと?!」


「そゆこと」


女の子は走って結界を走り抜けた。


「ほんとだ!入れる!!」


にこにこしながら、ぴょんぴょんと跳ねる。


カイルも結界の中へと入り、玄関のドアを開ける。


「わぁ…」

部屋の中はソファー机、椅子など、最低限な物が整っている。


「今日建てたばっかだからまだ全然家具ないけどね」


「でもすごい!広いしきれい!」

部屋の中を走り回る。さっきまで気絶していたドラゴンとは思えないほど元気だった。


「てか君名前は?」


「なまえー?」

カイルの前まで戻ってきて首を傾げる。


「ないからご主人様がつけて!!!」


「え…?僕がつけていいの?」


「うん!だってご主人様だから!」


「ネーミングセンスないんだけどな…じゃあ…ニールとかは?」


「ニール!なんでニールなの〜?」


「君のドラゴンの種類ってファフニールだと思うから後ろを取ってニール」


「なんかそのままだね!」


「そうだね…」

それはネーミングセンス最悪だねと言ってるようにも聞こえた。


「じゃあこれからよろしくね、ニール」

手を差し出す。


「うん!よろしくね!ご主人様!」

ニールも手を差し出し握手をした。

2人の仲が少しだけ深まった気がした。


「じゃあご飯作るから待ってて」


「うん!」


キッチンにて、人参、玉ねぎ、じゃがいもなどを切り炒める。水を入れ、カレールーを投入する。カレーのスパイシーな香りが部屋に広がる。


「おいしそー!!!」


ニールが背伸びしながら鍋に入っているカレーをよだれを垂らしながら見ている。


「今からお皿に盛り付けるから座って待ってて」


「うん!」

とててっと走って椅子に行儀よく座る。


「二人でいるのも案外楽しいかもな…」

ぼそっと呟く。


「ご主人様なんか言った〜?」


「ううん、なんでもないよ」


2人分のカレーを机に置き、手を合わせる。


「いただきます」

カイルは静かにそう言い、食べ始める。


「いただきまーす!」

ニールも真似して言い、スプーンを持ちもぐもぐ食べ始める。持ち方は少し変だがちゃんと食べれている。


「おいしい?」


「うん!めっちゃおいしい!」


「よかった」

少し微笑む。


「ご主人様って強いし料理もできるってすごいね!」


「そう?」


「うん!将来ニールのつがいにさせてあげる!」


「番って…」


「ニールはご主人様のこと大好きになったから!」

口にご飯を入れながらもごもご言う。


「まぁニールが大人になってからね。多分他に好きな人出来てると思うよ。」


「え〜」

ぷく〜っと頬を膨らませる。


「そういえばこの森林の1番強い魔物って知ってる?」


「1番強い魔物〜?え〜っとね…多分フィンリルだと思う!」


「フィンリル?」

カイルは魔法で魔物辞典を出し、調べる。


「フィンリルは…狼の魔物か…」

辞典には神々を呑み込むとめされ恐れられた巨大な狼だと書かれている。


「フィンリルとは仲いいの?」


「えっとね〜なんかここの森林の中で1番みんなから恐れられてるの!」


「そんなこわいんだね」


「ニールはちょっとだけ喋ったことあるけど別にこわくなかったよ!」


「つまりニールとは少し仲がいいということか…」

カレーを食べ終わり、辞典を見ながら考える。


「明日とかって会えない?」


「あしたー?」


「そう。どんな魔物か見てみたくって」


「ご主人様の命令だったらいいよ!!」


「ほんと?ありがと」

ニールの口についているカレーを拭きながらそう言った。


のんびり暮らせるならこの森林の1番強い魔物も知っておきたい。仲良くなっておくことで他の魔物に襲われる確率も少なくなると思ったからだ。


最強魔術師カイルの物語は始まったばかり。のんびり平和に暮らしていくためにはどんなことでもする。これからの物語はこれからどうなっていくのか…

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