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人さらいのスタンリー  作者: 佐伯
耳にした名前
9/9

永遠の村(最終章)

森の奥、廃村は再び二人のものになった。

朝の陽光が木漏れ日となって畑を照らす。

スタンリーは鍬を振り、土を耕していた。

傷はまだ疼くが、もう動ける。

リナが隣で種を蒔き、時折笑顔を向ける。

「今日は、トマトをたくさん植えましょうか。

 あなた、甘いのが好きだったわよね。」

スタンリーは無言で頷き、彼女の横顔をじっと見つめた。

記憶を失っていた頃と同じように、ただ、彼女を守る。

それだけが、変わらない。

昼。

二人は小さなテーブルで食事をした。

粗末なパンと野草のスープ。

スタンリーはリナの器に、自分の分を少し多めに盛った。

リナが笑う。

「いつも通りね。」

夜。

暖炉の火がパチパチと音を立て、部屋を橙色に染める。

二人は毛布にくるまり、寄り添っていた。

スタンリーが静かに口を開いた。

「俺は……人さらいのスタンリーだった。

何十人も娘をさらった怪物。

王国の犬として、罪を重ねて生きてきた。

血と叫びと縄の感触を、忘れたことはない。」

リナは彼の胸に顔を寄せ、優しく聞いた。

「それでも……?」

スタンリーは彼女の髪をそっと撫で、目を閉じた。

「だがな……

たった一人の少女だけが、俺の生きる意味だった。

お前だけが、俺に『守りたい』と思わせてくれた。

記憶を失っても、無意識に守り続けた。

思い出した今も、変わらない。」

リナの目から、静かな涙が落ちた。

彼女は微笑みながら言った。

「私は、最初から知っていたわ。

 あなたが人さらいだと。

 でも、あの夜から、あなたを選んだ。

 怪物でも、人間でも、いい。

 これからは、この村で二人で生きましょう。

 過去も、罪も、すべて抱えて。」

スタンリーは彼女を強く抱きしめた。

外では、森の風が優しく木々を揺らす。

遠くの王国 の影は、もう届かない。

人さらいのスタンリーは、もういない。

ただ、たった一人の少女と生きる男が、そこにいた。

そして、それは永遠に変わらない。

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