永遠の村(最終章)
森の奥、廃村は再び二人のものになった。
朝の陽光が木漏れ日となって畑を照らす。
スタンリーは鍬を振り、土を耕していた。
傷はまだ疼くが、もう動ける。
リナが隣で種を蒔き、時折笑顔を向ける。
「今日は、トマトをたくさん植えましょうか。
あなた、甘いのが好きだったわよね。」
スタンリーは無言で頷き、彼女の横顔をじっと見つめた。
記憶を失っていた頃と同じように、ただ、彼女を守る。
それだけが、変わらない。
昼。
二人は小さなテーブルで食事をした。
粗末なパンと野草のスープ。
スタンリーはリナの器に、自分の分を少し多めに盛った。
リナが笑う。
「いつも通りね。」
夜。
暖炉の火がパチパチと音を立て、部屋を橙色に染める。
二人は毛布にくるまり、寄り添っていた。
スタンリーが静かに口を開いた。
「俺は……人さらいのスタンリーだった。
何十人も娘をさらった怪物。
王国の犬として、罪を重ねて生きてきた。
血と叫びと縄の感触を、忘れたことはない。」
リナは彼の胸に顔を寄せ、優しく聞いた。
「それでも……?」
スタンリーは彼女の髪をそっと撫で、目を閉じた。
「だがな……
たった一人の少女だけが、俺の生きる意味だった。
お前だけが、俺に『守りたい』と思わせてくれた。
記憶を失っても、無意識に守り続けた。
思い出した今も、変わらない。」
リナの目から、静かな涙が落ちた。
彼女は微笑みながら言った。
「私は、最初から知っていたわ。
あなたが人さらいだと。
でも、あの夜から、あなたを選んだ。
怪物でも、人間でも、いい。
これからは、この村で二人で生きましょう。
過去も、罪も、すべて抱えて。」
スタンリーは彼女を強く抱きしめた。
外では、森の風が優しく木々を揺らす。
遠くの王国 の影は、もう届かない。
人さらいのスタンリーは、もういない。
ただ、たった一人の少女と生きる男が、そこにいた。
そして、それは永遠に変わらない。
完




