第百二章 神様
「では本題に入ろう。ここに来たのは人間の結界について聞きに来た」
ここは神の塔の俺用ルーム。その証であるオニアック教二人掛け王牙像に写真を飾ると本題に入った。
「はい。お答えしますよ」
「まずはアレを壊してしまってしまっても問題ないのか?」
「はい。それに関しては問題ありません。今は二つ目ですね。これならば魔物の侵攻が可能になるだけです。ただ三つ目からは危険な領域に入ると考えてください。特に今破壊しょうとしている塔の、北にある塔は特に危険です。破壊された塔が三つ繋がってしまいますからね。その部分で結界の機能が完全停止してしまいます。そして四つ目。これは避けてください。内部の結界の効果が完全に切れます。残る塔で繋がる部分に壁があるだけの状態になってしまいます」
「結界内の効果とはどんなものだ?」
「そうですね。まずはなぜこの結界が存在するか。そこから話しましょう。これは人間を守るためではなく、神の加護を纏う人間を閉じ込めるという役割でした。全ての結界が機能している状態では人間の出入りはほぼ不可能。一部出来ていた人間はいましたがこれは例外ですね。そして一つの塔が落ちて人間が誰でも通行可能になってしまいました。実質もう意味のないものと捉えてもらって構いません」
結界の役割は人間の隔離か。
「では何故破壊してはいけないのか。それは異世界転生者が原因です。彼らが世界の改変を使えないのはこの結界の効果です。結界内部は勿論ですが、外側にも働いています。正確には内の効果が外でも続いていると捉えて間違いありません。外で生まれた異世界転生者には効果は薄いですね」
「それは俺にも作用するのか?」
「いいえ。王牙さんは魔物ですからね。人間に転生した異世界転生者のみ、というのが正しいでしょう」
なるほど。過剰な塔の破壊は異世界転生者が世界の改変で暴れ出すという事か。
「なぜ人間を閉じ込める必要があったのだ?」
「それは・・・、人間を守るという側面もありましたからね。神の加護の一極化をするためにもあまりにばらけては困りますしね」
リブラの言葉に淀みが出る。人間と結界のトレードオフか。異世界転生者の封じ込めもあるがそれは今でも、つまり不完全な結界状態でも機能している。確実に人間を閉じ込めておく必要がある何かがある、という事だ。
「今では人間を守るだけの代物だがな。あれは魔物以外の何から守れるんだ?」
「色々ですね。王牙さんは海の外をご存じですか?」
「いや、そもそも海まで出てはいないな」
「この世界はこの大陸だけが存在していると考えて間違いありません。海外にも世界は勿論ありますが、神が管理していたのはこの大陸だけです。今この世界が維持できているのはこの狭い範囲だけを管理しているから可能だと言っても過言ではありません。海の外は混沌としています。その世界の綻びから何かが出てくる可能性があります。それこそ異世界転生者以上の脅威でしょうね」
「それの備えか」
「はい。正確には・・・、いえ、そうですね。その認識で間違いありません。もしも水平線に異常が見えたら気を付けてください。世界の綻びが近づいている証です。そしてそれはこの世界のカウントダウンがすぐそこまで迫っているという事です。この状態になったらもう強制的に神の加護の一極化をし、神を立てます。・・・私の人間達はこの世界を救えなかった。それを認めるしかありません」
リブラがそこまで言うという事は本当の最終ラインなのだろう。
「それで、人間の結界が完全である必要性は何なのだ? 今の状態でも事は足りている。完全状態での人間の出入りを封じていた結界の真の目的はなんだ?」
リブラの動きが止まる。
ここか。語っていないという部分は。
異世界転生者という世界の改変の封印。
そして外で生まれたであろうコア付きは中には入れなかった。
結界を支える塔は外にあり、世界の改変でなければ破壊できない。塔の破壊はそれ自体が脅威の呼び鈴になる。
つまりこの結界は世界の改変に関わるものだ。
コア付きですら破壊できない塔を破壊できる存在に対する備え。それは世界の崩壊を可能にする存在を感知するためのものだ。
その上で人間を狙っている。それはどんな存在だ?
俺の熟考とリブラの沈黙が重なる。先に口を開いたのはリブラだった。
「・・・王牙さん。あなたがこの世界の神になると確約してくれますか? それがあれば私はお話しできます。あなたの覚悟を聞かせてください」
リブラの視線は冷徹な神の代弁者の物だった。この返答次第では今までの全ての関係がご破算になる。つまり敵対者として認識されるという事だ。この答えは慎重にならざるを得ないか。
「・・・その確約は出来ない。俺が神になるという選択が今の最善であるという確証が俺にはない。だがこの世界を維持し守るというのであれば俺はその選択を選ぼう。世界の崩壊か神か。その二択になった時は俺は神を選ぼう。今の俺にはこれ以上の答えは出せない」
「王牙さん。あなたは私を殺せる。この世界の神を殺し、この世界を閉じることもできる。そんなあなたがこの世界に価値を見出す意味は何ですか?」
「簡単に言おう。俺はこの世界が好きだ。この世界に失いたくない物があり過ぎる。それは俺自身の存在を賭けてでも守りたいものだ」
「この世界を守るという事は私の側に着くという事です。協力者のままではいられません。あなたはこの世界の神の側に着いた。そう判断しても良いですね?」
「それがこの世界を維持し守るためならば。だがその庇護する存在は人間だけではないぞ。魔物をもそこには入れてもらおう。それも世界の一部だ」
「わかりました。あなたはこの世界の者を庇護するという形で私の側に立った。承りました。あなたと共にこの世界の滅びを止めると私も誓いましょう。つまりそれは」
そこでリブラは息を付いた。
「何も変わらない。という事でいいですね王牙さん」
「ああ。明確化しただけだ。俺はこの世界の為に、俺が守るべき存在の為に、全ての選択肢を受け入れる。そう思ってもらって構わない」
「はい。これで私は、王牙さんを裏切るという選択肢はなくなりました。ですがもしも王牙さんが私を裏切ったら、その時は世界を棄てでもあなたの苦痛を選びます。わかりますか? あなたはそれほどの信頼を私から得たのです。わかりましたか?」
「理解した。お前が裏切らないというだけでも吉報だ。お前が最後に人間を選んで世界が滅ぶという選択肢はなくなったわけだからな」
「そうですね。たとえ私が自身の崩壊という選択肢を選んででも、この世界の存続を優先させます。その時は全てをあなたに託します。あなたは私の神なのですから」
「では、その選択を選ばないためにも教えてもらえるか?」
「はい。そうですね。こうなったらもう全て話してしまいますよ。これで嫌になったとか言ってももう遅いですからね。耳を塞いでも聞かせます。なんでしたっけ? あなたはもう当事者です。傍観者ではいさせません!」
ヤレヤレ。退路を断たれてしまったな。
「ではもうガッツリネタバレと行きましょう。あの人間の結界はですね。他世界の目を誤魔化すためのものです」
?
「簡単に言えば神が死んだのを他世界に知られないためです。今の神の力を纏った人間達を結界内に閉じ込めておけば、結界内で神が生きていると錯覚させることができるんです。多少人間が外に出てても、神から力を授かった連中くらいにしか思われないでしょう」
他世界か。異世界転生者の俺が言うのもなんだがそんなものがあるのだな。
「ですが、この結界が機能停止してしまうと神が居ないことがバレてしまいます。つまり私が越権行為で神亡き世界を存続させているという悪行が他世界に広まってしまうんです。そうなれば制裁が来る可能性があります。ですのでその前に神を立てておく必要があるんです」
「神が居ればそれでいいのか?」
「はい。神の力を一極化して私が神として認定すればそれでオッケーです。この世界の機能も元に戻り他世界の侵略は阻止できます」
「まて他世界の侵略だと?」
「はい。既に入り込んでいます。最初の一塔が折れたのはそのせいです。それは撃退したのですがまだ生きて海に居るでしょうね。言うなれば他世界の神です。神亡き世界を自身のものにしようとしています。つまりこの結界が真に防ぐものはこの他世界の神々たちです」
「まて、急にスケールが大きくなっていないか?」
「だからこそそれだけの覚悟を必要としたんですよ。でも王牙さんは神を殺せるでしょう? それも踏まえてこちらに引き入れたいと思っていました」
「もしかしてだが、俺が裏切る可能性というのはその他世界に俺がこの世界を売るという事か?」
「その通りです! こんな終わった世界の為に命を張ろうなんて王牙さんくらいでしょう。他の方ならさっさと他世界でよろしくやるでしょうね」
「確かに。その可能性は高いな。これから俺には他世界の勧誘が来るかもしれないのか」
「そこは大丈夫でしょう。他世界の介入には私も全力を出せます。そこは一切の妥協なく全てを討ち滅ぼします。手心は加えないと約束できます」
「頼もしいな。流石はこの世界の守護者か」
ん? まて。守護者といえばコイツラが居たな。今この場に相棒と出しゃばりが居る。
リブラが俺の視線に気づく。
「楽園の守護者ですか。ええ。この段階ではもうバラしても問題ないでしょう。逆に王牙さんが裏切らない様に歯止めの役割も期待して放置しました。彼らの目的は私と合致しますしね。ですが、神亡き世界で全力を出すのは控えて欲しいですね」
「何故だ?」
「王牙さんの世界で言う所の、『重い』んですよ彼らは。停止しかけている世界で『重い』彼らが暴れればこの世界がフリーズすると言えば分かり易いでしょうか? 崩壊が一気に早まりますね。彼らもそれに気づいていて行動を控えているようですが、あなた方の選択は正しいと私が明言しておきましょう。神亡き世界で楽園の守護者の存在は存在自体が危険です。あなた方は神が立ってから行動してください」
相棒と出しゃばりに言葉は無い様だ。
「しかしこれはまた特大な厄介ごとだな。これ以上はもうないだろうな」
「はい。全部話してしまいました。これでスッキリ。これ以上に何かあったらいつでも情報を共有しますよ! もう私達は一蓮托生ですから! わかってますよね!」
「わかってはいるがわかりたくないものだな。これは返事を早まったか」
「そんなこと言って王牙さんは私の希望に沿ってくれるんでしょう? わかっています。例え王牙さんが神にならなくても、王牙さんは私の神。システムではない神、私の神様です。それもここに明言しておきます」
「神様か。そういえば俺はお前に裏切られていたな。倒した聖女が軒並み徒党を組んで魔物転生とはどういう了見だ?」
「うっ。いえ、王牙さんなら物の数ではないと思ったのですが、合体して人馬は流石の私も予想が出来ませんでした」
「そういう問題か」
「ならお詫びとして何でも差し上げましょう! 施された武器は・・・、聖女殺しの王牙さんには使えませんね。聖女の因子も・・・、やめた方が良さそうです。あの子の因子を超えるものでないと定着し無さそうです。そうなると、なにかリクエストはありますか?」
「ならば神の塔を降ろす権利を貰えないか? 正直な所結界の塔を壊すのに世界の改変を使いたくないというのが本音だ。神の塔ならば結界の塔を破壊できるのだろう?」
「・・・流石です王牙さん! さすおが! やっぱり王牙さんは私の神様です! わかりました! 神の塔×5を差し上げます! これは今までの非常用の現身の塔と違ってここに連れてこられることもありません! 天上からでも地上からでもどこでも生やせる攻撃用として使えるようにします!」
「破格だがそれはいいのか?」
「はい。いまや王牙さんはこちらの陣営です。もしも王牙さんがこれを人間に使った時は、それが私のデッドラインと心得ます。その時は人間に神の力の一極化を迫ります。神を立てるか。滅びを受け入れるか。その真を問います。心して使ってくださいね」
「心得た。だが、あらゆる意味で重そうだな。取り敢えずは結界の塔の破壊に使う。後は他世界の神とコア戦だな。だが、そのデッドラインとして使うときは宣言するぞ。それが無ければ誤爆だと思ってくれ」
「わかりました。それにしても不思議ですね。世界を守るのが魔物の側だなんて。今や魔物である王牙さんが私の隣に居ます。あなたはもうこの世界を守る救世主。傍観者ではありません。実質魔物を率いる神の一柱と言ってもいいのではありませんか?」
「悪いが俺はただ一匹の鬼であることだけは変えられんぞ。この情報もいくつかは魔物で共有させてもらう。俺が討たれる可能性もあるのだからな」
「それは構いません。情報の扱いはあなたに一任します。で・す・が! 討たれるのだけはやめてください。王牙さん。あなたの魂は戦いで討たれた場合、輪廻に戻るか怪しい所です」
「どういうことだ?」
「はい。あなたが満足して逝った場合、魂が維持せず霧散してしまう可能性があります。この世界を守るのと同じくらいに、戦いの中で果てるということはあなたの魂にとって重要な事です。もしそうなれば転生どころか満足して霧散した魂が異世界まで拡散する恐れがあります。それはもう王牙さんと呼べるかどうか。王牙さんを討てるほどの猛者との戦い。そこでは討たれても決して満足しないでください。一度くらいなら転生に耐えられるかもしれません。ただ大部分の魂は霧散して弱体化するでしょう。そこは留意してください」
なるほど。転生で記憶やらが抜け落ちるのは魂が全て元の状態を維持できるわけではないという事か。
「心得た。少なくともこの世界の行く末が決まるまでは魂の安寧に身をゆだねるのは控えよう」
「はい。取り合えず死に戻り転生無双は絶対にやめてくださいね。あのコスト制でしたっけ? あれがある意味的を射てます。強い思いがある魂は強くなりますが、その分望みを達成すればその魂のほとんどは霧散して戻らないでしょうからね」
メタ的に言えば「第一期 第三十章 サブウェポン」のまだゴブリンと名乗っていたの時のリンキンとの会話だな。
そんなもの、どのような魂と覚悟があれば可能なのか。
俺はそんな創作の主人公のような魂を持ち合わせてなどいないだろうがな。




