[第54記]天稟
「痛い…いたぃぃ…!クソォォッ…!」
サディは倒れ、丸まって自分の腕を掴みながらポロポロと大粒の涙をこぼした。巨大な人形は彼女へ目掛けて腕を振りかぶり、地面へ叩きつけた。ナヴィは絶望して叫ぶ。
「サディさぁぁぁぁぁん!!!」
ナヴィは歯を食いしばり下を向くと、鼻をすする。
「いやはや…なかなかイカれてるね。あれは。」
知らない声がする。ナヴィがゆっくりと前を向くと、緑の瞳を持った道化師のような格好の鳥人。それと、サディを抱えた赤い髪と瞳を持った灰色パーカーの鳥人がいた。
「ホー…ネット……」
「ホホッ!お前は覚えられていないようだ!」
ホーネットは笑いながらトグルのことを叩いた。
「覚え…てるよ…トグルだろ…?」
「…お姉さん真理の目使うのは流石にヤバいって」
トグルはサディを揺さぶりながら静かに呟いた。ナヴィはまだ状況を飲み込めずに周りを見る。人形も黒い霧も消え、ただのコンクリートの空間が広がっている。
「にしても…サディ殿が何も出来ないとはなかなか強いようだ。傷の感じを見るに皮膚組織そのものがかなり高熱なのだろうな。サディ殿が辛そうなので、そちらのエテ公に詳しい説明を求めたい。構わんかね?」
ホーネットは帽子の鈴を鳴らしナヴィの方を見た。
「……初対面でエテ公は失礼すぎるだろ」
トグルが冷静に指摘し、ホーネットは大笑いする。
「えっと…複数個所に魂というか…核のようなものがあって…そこを叩けば多分消えるのかな〜…と……」
ナヴィは恐る恐る情報を話す。
「複数個所…ねぇ。おいホーネット、お前の呪いのメイン効果のほう使えば楽勝なんじゃないか?」
笑いながらトグルはサディをそっと下ろした。
「アレはあまりやりたくないのだがな…あんまりかだこよくないというか、素手のほうがイケてるだろう?」
「え?お前本気で言ってんのか?バカイケてるだろ。やったらファンが50倍くらいには増えると思うぞ。」
「やろう。トグル、異空間を解け。」
トグルは翼を上に掲げる。空間そのものに波紋が波打ち、辺りが黒い霧に包まれた。巨大な人形はすぐにホーネットたちを捕捉し、火の玉のようなものを大量に飛ばしてきた。しかし、それらはホーネットに近づいた瞬間に消えていく。
「…凄い…無効化してる……!強い…!」
ナヴィは興奮した様子で言う。それを聞いたサディはホーネットを見て、少し困惑したように言った。
「無効化……?『反射』じゃないのか…?」
トグルはニヤリと笑い話し始めた。
「あの時に真理の目を使われたからだろ?普通そう思うよな。今あいつは攻撃を消してるんじゃない。貯めてるんだ。そのポイントを、貯まったそばから相手を見て覚えたスキルに振ったり弾丸にしたりすれば…周りから見たらまるで『反射』してるように見える…というカラクリさ」
「ポイント…スキル…」
サディとナヴィは呟く。
「見て覚えればそいつの技を勝手に習得出来るけどな、あいつ自身が元々持ってる技もあるんだ。強すぎるから面白くないって普段は使わないんだけどな。」
人形は、当たらないと分かったからか攻撃の手を止めた。ホーネットはゆっくりと息を吸い、左腕を自分の頭を一周させるように回し前に突き出すと同時に、突き出した右腕を後ろに引いた。彼の手の中に弓矢が現れる。
キュィィィィン…!
紫色の星空のような身の端に三日月がついたような弓には、シアンに輝く弦が引かれている。矢は全体が黄色く、先端には太陽のようなものが光を放っている。
ギギギィ…シューンッ……!
ホーネットが放った矢は人形の上の空中に着弾した。すると矢は四方に分裂し、敵を囲うように全方向から人形を貫いた。人形は沸騰したように溶け倒れこむ。
「…サディ殿。ワガハイはスキルの併用ができぬ。」
ホーネットがそう言うと、サディは立ちあがり膝をつく。
「青い眼の少し下!」
サディが叫んで1秒も経たないうちに、光が打ち込まれる。そこから煙が噴き出て、魂のような物が外へ出ていく。
「青い眼の右下…左の手のひら…右足の脛…頭ど真ん中…右胸…左鎖骨あたり…右の二の腕…左手首…」
「…緑の眼。」
サディはそっと呟くように最後の魂の場所を言った。矢が勢いよく刺さり、人形が霧散していく。サディが駆け寄ったところには、金色の紋章がついた赤い軍帽が残っていた。彼女は膝から崩れ落ち、静かに友人の名を言った。
ロダーが庭のような場所で座っていた。本部の敷地内のようだ。本部中に漂っていた黒い霧が消え、夜が終わりかけている空が見えるようになっている。渡り廊下から数人が走ってくるのを見て、彼は立ち上がり話した。
「…他の者は全員…倒したと捉えていいのかな?」
ロダーが対面したのは、オペロジャック、サディノイラ、ナヴィの3人。オペは何も言わず頷き、深呼吸して話しだす。
「もうお前だけだ…お前の希望である神も止まった。」
「そうか…。どうやら君たちの力を『呪い』と形容したのは間違っていたようだな…。私が世を治めている圧倒的に不利な状況にも関わらず、挫けず私までたどり着き、神をも打ち砕くその力…まさしく『天稟』だよ。」
ロダーは帽子を投げ捨てると、真っ直ぐとした目でオペを見つめた。彼の目の奥からは、憎しみやしがらみは不思議にも感じられなかった。
オペも帽子を脱ぎサディに渡すと、前へ踏み出した。
「…もう終わらせよう。ロダー。俺たちの天稟が悪となるか常識となるか。ついにその境まで来たんだ。」




