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[第51記]成れ

「扉…開けるんですか…?絶対危険ですよ…!」

ナヴィは首を横に振りシズを止める。

「…だね。ならこうしよう。」

シズは鎌で扉の留め具を焼き切り、足で蹴破った。


中は暗闇だったが、目が慣れてくるにつれてだんだん周りが見えるようになって来た。向こうの壁が見えないほど広い空間。数十メートル前に何かがいる。肉体が沸騰したように蠢き、液体状になった筋肉が地を這っている。ナヴィは口を覆って怯えている。

「離れよう…逃げろ!!」


階段を駆け上がる。下からは泣き声のような音と共に何も見えないほどの闇が迫ってきていた。上を見上げると、かすかに光が見えた。2人は安堵した。その瞬間…

バギンッ…!ガギ…!

シズの走っていた足場が崩壊した。ナヴィは露出していた金属ケーブルを伸ばし、シズはそれを掴んだ。

「シズさん!いま…引っ張りあげますから…!」

下を見ると、すぐそこまで闇が侵食してきていた。


「ねぇ…ナヴィ…初めて会ったときさ…キミ、だいぶおかしかったよね。サディに説教されてボクに謝ってさ」

シズは笑いながら話しかける。

「短かったけど、ずいぶん色々あった。最後まで残ったし、ボクが好きなら『一緒に逃げよう』とか言えば良かったのに。それをしなかったのは、ボクを尊重してくれたからなんだよね?だから小っ恥ずかしいけど、ボクのほうから言ってあげる。1回しか言わないから。」


「何言ってるんだシズさん…!早く上がって…!」

ナヴィが叫ぶ。シズは片手で鎌を取り出しプラズマを光らせると、ケーブルを斬った。闇へ落ちていく。

「…大好きだよ。割とね。」


誰も掴んで居ないケーブルを見て、ナヴィは絶望した。しかし、すぐに立ち上がり階段を駆け上がると扉を開けて携帯を確認し走り出した。

「(シズさんが好きって言ってくれたのは…あそこで立ち止まる俺じゃない…!なるんだ、助けに…!)」



オペとロダーはまだ戦っていた。

「そういえば、新しく仲間を迎えたそうだが…レガリオの奴らはどこだよ?下でやりあってんのか?」


「…いや。ガニメデ以外は既に()()()()()()よ。カリスは途中で逃げたから、イオとエウロパだけなのは残念だが。」

ロダーは刀を避けながら話す。


「…取り込ませた?何に?」


「おや?全能統治軍でこのデータは持ち出された記録があるからひょっとして知っていると思っていたのだが。『鐚蟒瀲』だよ。あれは人を取り込んで強くなる。」

不気味な笑いを浮かべながらロダーは説明した。


「…鐚蟒瀲…確かにそう書いてある設計図があった…」

オペは思い返すように視線を外した。

「それは最初の被験体を改造するための機械の設計図だな……もはやあれは禁忌だよ…私でも何も出来ないし、あれをどうにかできる呪いはない。アレと同じような、この世の理から逸脱した力じゃないと、鐚蟒瀲は止まらない。」


「ずいぶん楽しそうに話すじゃないか。」

軽蔑したような目でロダーを見つめるオペ。


「決まっているじゃないか。ああゆう脅威がいれば更に世界は1つになる。ホラー映画でも性格の悪いクズは化け物に殺される…あれを実現できるのだ。心が躍るだろう?」


「もういい、喋んな。お前と合わないのはもう分かった」

オペがため息をつきロダーを睨む。

「とても残念だよ。君とは、ことごとく…意見が対立するね…一緒により良い世界を作ることが出来たら…」

そう言い放ったロダーの顔は、どこか悲しげだった。



暗闇で一寸先も見えない。足元には草むらが広がっている。そんな空間を、シズはゆっくりと歩んでいる。

「…ここはなんだ…?ボクは死んだのかな。」

魂を取り出し、辺りを照らす。黒い霧が首を締め付けるように纏わりつき、シズの呼吸が荒くなる。


「全ての方向から見られている気がする……」

そう呟くと、シズの前方に緑と青の瞳が現れた。鎌を取り出し斬り裂くも、手応えはない。瞳に向かって走るが、近づいているのに遠ざかるような感覚に陥る。

ザシュッッ!

シズの右側の垂れ耳が切り落とされ地面に落ちる。ポタポタと血が滴る。焦燥した様子でシズは耳を押さえた。すぐに魂を操ろうと左手を伸ばす。しかし、

彼の指先は切断されていきました。

彼の第一関節は切断されていきました。

彼の第二関節は切断されていきました。

彼の手のひらは切断されていきました。

彼の手首は切断されていきました。

もはや彼の左手は機能していませんでした。魂を操ることはまだ出来ただろう。だが、"恐怖"がシズを不可能の鎖へ縛り付ける。鎌をついて地面に膝から崩れると、静かに俯いて頼みの綱であるはずの自らの武器を…手放した。

カランッ…


シズは自分の首にかかったネックレスの紐を引っ張り、先についた雪の結晶のような飾りを弱々しく握りしめた。

「…アウダ…さん…サディ…ごめんなさい…ボク、たぶん…ここから未来には…行けないや…………。」


重くのしかかる霧を押しのけるように立ち上がると、シズは手を高く掲げた。その手の中に彼自身の持つ全ての魂が集い、光になっていく。シズの瞳はひと筋の涙を漏らしていたが、同時に、黒い霧を浄化するほどに輝いていた。




「…ただでは死なないよ。ボクがなるんだ…希望に…!」

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