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[第50記]霧影漏れ

バァン…!水の流れる音に混じって、銃撃音が響く。

ルドはサナベルへ向けて発砲する。

「無駄ですわ、マルディエさん…ワタクシの前で動くものは、すべて『過去』へ還るのです。出てきなさい」

サナベルが不敵に笑い、槍の矛先を向ける。


ルドが放ったリボルバーの初弾。それはサナベルに届く直前でピタリと静止し、まるでビデオを巻き戻すようにルドへと戻っていく。ルドは地面へ飛び込み回ることでなんとかその弾丸を避けた。


「……なら、これはどうだ?」

ルドはニヤリと笑みを浮かべると、リボルバーの二発目を、あえて自分の足元にある"影"に向かって撃ち込んだ。


ゴンッ!

石畳を叩く音と共に、弾丸は影の中へと吸い込まれる。

「(突然地面を撃った…なんですの?)」

サナベルが目を細めた瞬間、弾丸はサナベルの背後にある別の影から飛び出し、彼女の後頭部を急襲した。


「なっ……!?」

サナベルは咄嗟に身体を傾け銃弾を回避した。

「くっ……! その弾も戻してさしあげますわ!」

サナベルが能力を使おうとした。だが…弾丸は再び影に潜り込み、彼の視界から消えてしまった。逆再生は"物の動き"を対象とする。つまり実体のない影そのものは物ではないため、逆再生することができないのだ。


サナベルが石畳を蹴り、ルドの隠れている石柱を突く。

「これで終わりですわ!!」

サナベルが槍を振り上げ、無防備なルドを突こうとする。

「…… 俺の影は、跳弾してるわけじゃない…遅らせてるわけでもない。()()()()()()んだよ…」

ルドの影から出てきたのは、さっき影の中に撃ち込んでいた弾丸だった。弾丸はサナベルの肩を貫く。

「いたっ…!許しませんわ…!」


サナベルは槍を掴み駆ける。ルドもそれを追いかけ走る。彼女が壁際に追い詰められると、ルドは壁をリボルバーを持った手で叩いた。砕けた石がパラパラと落ちる。

「…見苦しく逃げるねぇ。これで終わりだよ。」


ルドの横をすり抜け反対へ這う。ゆっくりと歩いてくるルドにサナベルは喚きながら槍を投げた。槍はルドにかすりもせずに壁に突き刺さった。

「いやぁぁぁ!来ないでくださいまし!」


「うるせぇ…申し訳ないけど、アンタはこれで…」

頭をかいてサナベルの方を見ると、ルドはハッとした。彼女がこちらへ手のひらを向けていたからだ。

「…『生き物を巻き戻せない』なんて言ってないですわ」


ルドの身体が戻っていく。先ほどサナベルを追い詰め密着した壁へ…そして、槍が刺さっている壁へ。

「ふふっ、さようなら。マルディエさん。」

バァン……!


その時、サナベルの"真下"から放たれた一撃が、彼女の頭を貫通した。ルドの首元に槍が刺さるギリギリで、ルドの巻き戻しが解除された。

「俺も…影に1発しか弾丸持たせてないなんて…言ってねぇよ……じゃあな。アルパカの嬢ちゃん…」

石畳に膝をついているサナベル。ルドは彼女に一緒視線を向けると、帽子を軽く下げ去っていった。



「あ…!電波通じるようになりました!」

シズとナヴィは近代的な廊下を走りながら話す。

「やっとか。皆の位置を確認…1番近いのと合流しよう」


「はい!1番近いの…ここからだとサディさんかな…」

携帯を見るナヴィの前に腕を出し、シズは止まる。

「どうしました?シズさん…」


「……なにかがおかしい。このあたり、何かの研究に使われてそうな設備が多いけど…なんで誰も居ないの?」

ナヴィを振り返ったシズの顔には、少しの恐怖が見える。

「そういえば…さっきからずっと気配を感じます…」


「気配?でも…ボクの呪いにはなにも引っ掛からないよ。」

シズは周りを見渡しながら言う。


ギィィ…ィ

音が鳴った。シズとナヴィが素早く振り向くと、後ろで錆びた扉がひとりでに開いていた。中は暗い。

「……警戒しながらいこう。」


シズは燃え盛る魂を取り出すと、光で周りを照らす。扉の先には踊り場がついた螺旋階段が続いていた。隙間から下を見ても、底は見えない。ナヴィが頷くと、シズが先頭に立ち、階段を下っていく。数十段ほど下った時…

バタンッッッ!!!


扉が閉まるような音が響いた。シズの額から汗が流れる。上を見上げてシズは唾を飲み込み言った。

「…一旦戻ろう!危険な気がする…!」

2人は階段を駆け上がった。しかし…


「…ここ…入り口ありましたよね…!?」

ナヴィの呼吸が乱れる。扉があったはずの場所に、扉は無かった。壁だけだったのだ。シズは鎌を取り出すとナヴィを押しのけプラズマを光らせた。

「…助手くん…どいてて…!」

ギャギィ!


「なんてことだ…わけがわからない…!」

シズは言葉を失った。壁をきり裂いて出てきたのは壁。最初から扉なんて無かったかのように、周りをいくらきり裂いても、出口は見つからなかった。

「下に行くしかなさそうだね…」


2人は再び階段を下り始める。ナヴィは震えている。

「シズさん…俺…怖い…手…繋いで…良いですか…?」

振り返ったシズは無表情のまま、また前を向いた。

「………ん。」

後ろに差し出された手を握り、ナヴィは息を整えた。


「…魂を少しだけ分けて…落としてみる。」

炎のように燃える魂をつまんで千切ると、階段の隙間から下へ落下させた。2人はそれを覗き込む。するとすぐに地面に着き、燃え尽きた。そのまま下へ向かい、階段を下りきったシズとナヴィが見たのは…




「これは…なかなか趣味が悪いね。」

倒れた数人の政府軍、ベットリとこびりついた血、そして…少し開いている錆びだらけの扉だった。

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