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[第49記]重さと光と眼と魂

2人は殴りあう。オペはロダーの手のひらに触れないように弾く。しかしロダーも驚異的な速さで動き、オペの攻撃をいなし続ける。実力は完全に互角だ。

「…ハァ…はは、なんで息ひとつ上がってねぇんだよ…」

オペが距離を取って話しかける。


「…なんとかついていけてるだけだよ。」



「……左、次は右…下…」

サディは呟くと同時にしなやかに跳躍した。すると突然、彼女が立っていた床が円形に陥没する。

ガニメデは冷徹な瞳で右手を振り下ろした。

「逃げ足だけは速いッスねぇ…サディノイラ」


ガニメデの声が響くと同時に、周囲の空間が歪んだ。彼は自身の周囲の重力を操作し、宙に浮かせた数十冊の重厚な百科事典を、弾丸のような速度で射出する。

しかし、サディの瞳にはすでに"答え"が見えていた。


サディの視界には、飛来する本の背表紙から伸びる、淡く光る幾何学的な軌跡が描かれた。それは未来にその物体が通る"確定した道筋"。


「甘いな。アタシには読めるんだよ」

サディはガニメデの殺意の昂ぶりを感知し、指先ひとつ触れずに飛来する本の嵐を最小限の動きですり抜けた。


「読める…ねぇ。アンタの呪いは俺の心を読むもの…?なら…回避不能な質量で押し潰すまでっス!」

ガニメデが両手を広げると、図書館の巨大なシャンデリアが音を上げ、天井から引き剥がされた。数トンの結晶体が、サディの頭上から重力の加速を伴って降り注ぐ。逃げ場のない広範囲攻撃。だが、サディは逃げるのをやめ、あえてガニメデの懐へと踏み込む。


「甘いって言っただろ?」

サディは、落下するシャンデリアの破片が描く安全な隙間の軌跡を瞬時に読み取り、その合間を縫って接敵した。ガニメデが驚愕に目を見開いた瞬間、一気に加速したサディのナイフが彼の喉元を襲う。


舞い散る本のページ…砕け散ったクリスタル。

激しい戦いとは打って変わって静まり返った図書館の中で、サディの瞳は静かに勝利の軌道を見つめた。



薄暗く蒸気が立ち込める巨大なボイラー室。無機質な鉄パイプが複雑に絡み合い、巨大なボイラーが不気味な唸りを上げている。サビと油の匂いが充満するこの場所で、命がけの戦闘が繰り広げられていた。

「ナヴィ、危険だから下がってて。」

シズは横に立つナヴィを、太い配管の陰に押しやった。


「わ、わかりました…!」

ナヴィは震える声で答え、配管の隙間から戦況を見守る。彼は非戦闘員だった…が、しかし、彼の存在自体が、シズの異能を…"呪い"を増幅させる。シズは立ち上がり、右手に握った鎌を起動させる。

ブォン……


鮮烈な藍色のプラズマが噴き出し、ボイラー室の暗闇を切り裂いた。超高温のエネルギー刃を持つ巨大な鎌だ。

「…ずいぶん珍しい武器だ。見かけ倒しはやめろよ。」

ハルダンは低く唸り地面を蹴った。ボイラー室の鉄板が激しい轟音を立てて歪む。大斧がシズ目掛けて振り下ろされた。


「……クッ…!」

シズはプラズマの鎌でそれを受け止めた。

ガキィィィィン!


金属音とプラズマの炸裂音が混ざり合い、火花が飛び散る。ハルダンの力は凄まじい。シズは一瞬で圧倒され、後退を余儀なくされた。シズは鎌を立て、次の攻撃に備える。しかし、異変はその直後に起こった。

「(…なんだ?あの白い線…光…?)」

ハルダンが斧を引き戻したにも関わらず、シズの目の前の空間には、白い軌跡のようなものが残っているのだ。


「(……!? まだ攻撃が……残っている?)」

そう感じた瞬間、何もない空間から透明な刃が放たれた。


「ぐあっ……!」

シズは咄嗟に身をよじったが、鎌はその残存した判定を完全に防ぎきれず、エネルギーの刃がわずかに揺らぐ。


「俺の斧は一度振るえば、そこは死の空間と化す…『遅延』…なんて言葉は嫌いだったが、今は悪くない。貴様が絶望する顔を拝めるからな。」

ハルダンは笑いながら、さらに斧を振り回した。横薙ぎ…斜め切り…突き。その度に、ボイラー室の空間に白い軌跡が、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていく。


シズは残存する判定を避けながら、徐々に壁際に追い詰められていく。ハルダンの能力"斬像"は、こと近接戦闘において無類の強さを発揮していた。

「もう逃げ場はない。終わりだ。俺に敵はいない。」


それを見ていた配管の陰にいたナヴィが、必死にシズに向かって手を伸ばし叫んだ。

「シズさん…!俺の力を使って!」

ナヴィが精神を集中させると、彼の体から、目に見えないほど微かな光が放たれ、シズへと吸い込まれていく…シズの全身を巡るエネルギーが、先ほどまでの比ではないほどに強力になっていく。魂の強度が増し、プラズマの鎌の藍色の刃が、さらに深く輝く。


「まだ向かってくるか、愚か者が!」

ハルダンは鋭く敵を見据え、残存する斬撃の軌跡をさらに増やした。シズの前方には、幾重にも重なった白閃が。


「…見える。」

シズの目には、迫りくる残存する判定に紛れ込んだごく微量な"ハルダンの魂"を捉えた。空間に残されたハルダンの闘気や殺意…つまりは相手の"魂の断片"を。


「ハァッ!」

シズはプラズマの鎌を大きく振り回した。シズが狙ったのは、ハルダン本人ではなく、彼が空間に残した残存する判定"そのもの"だった。

ブォォォォン!


鮮やかなピンク色の光刃が、空間に張り巡らされた白い斬撃の軌跡を、魂から切り裂き、刈り取っていく。ハルダンの能力によって生み出された死の空間が、シズの鎌によって無へと帰していく。ハルダンは驚愕した。

「何故だ…!何故『斬像』を切れる…!」


「キミの持続する判定は…残像に魂を乗せることで強力な威力のまま斬撃を保存する…確かに凄く強い。でも…ボクとは……いや。ボクとナヴィとは相性が悪かったね。」

斬像をすべて刈り取り、そのままハルダンの懐へ飛び込む。


「もうおしまいだよ。ボクとナヴィに敵はいない。」

シズは、ナヴィの力で強化された魂の力を鎌に込め、ハルダンの胴体を目掛けプラズマ鎌を渾身の力で振り下ろす。

ゴォォォォォン……!




ボイラー室に凄まじい音が響き渡った。

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