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[第44記]独裁者

包帯や薬で処置されたサディは、自分のベッドの上で安らかに眠っている。ティズとオペはそれを横で見ながら、椅子に座って話す。

「ありがとうな。戻ってきてくれて。」


「…サディを脱がして包帯巻いてやれるのはうちしかおらんもんなぁ。他は男どもばっかやし…」


「おまっ…!だから戻ってきたのか!」


「アハハ!冗談や!……この子と武器なしでやり合ってるとき…何にも影響されない、本当のうちに戻れた気がしたんよ。『目が覚めた』のか…『今酔っている』のかは分からんけどね…だからSIMにも戻ってきた。全能統治軍所属の幹部は"ザヤ"であって、うちが好きなんはこっちやったからなぁ。…サディに感謝しいよ?」

ティズはオペの方を向いてニヤリと微笑んだ。


「ご飯出来たから早く来なよ、冷めちゃう。」

シズは部屋の扉を開けて2人を呼んだ。


みんなで食事を囲い食べ始めると、ティズがルドに

「…ルドはん…ごめん。うちのことを許してとは言わないけど、SIMに居させてほし…」と涙ぐんで言いかける。ルドはそれを遮り話しはじめた。

「俺が憎んでるのはロダーだけさ…きっとザヤの奴もあそこまで惨いことされるとは思ってなかっただろう…それにもうお前は生まれ変わっただろ?俺はティズの事が好きさ。」


ティズは涙を流し、噛み締めるように食事を頬張った。一足先に食べ終わったオペは、食器を片付け自分の部屋に戻る。横になり静かに眠りにつくと―

「…ハッ…」


草むらの中に横になった状態で意識が復活した。ゆっくりと立ち上がり周りを見渡す。誰も居ない街…川…河川敷…オペはこの光景に見覚えがあった。

「あの少年と遊んだ場所…!?」

街を歩いても明かりはひとつもなく、不気味なほどに静まり返っていた。そのまま歩きつづけると、路地裏から声が聞こえた。オペは吸い寄せられるように声の方へ向かう。


「…おっ来たのか。調子どうだ?周りからイカれてるってよく言われるオレに2日も連続で会いに来るとは…キミもずいぶん物好きだねぇ。へへへ…」

路地裏で話していたのは2人。片方は黒髪で、黄緑の瞳をしていて紺色のフードつきのロングコートを着た無精髭が生えた色黒の人間。そして片方は、オペがスキルパルスを教わった、青い髪の少年だった。


「少年!俺だ…オペだよ!」

オペは少年に話しかける。しかし少年は振り向かず、何も反応しない。オペが肩を叩こうとすると、オペの手は少年の身体をすり抜けてしまった。


「いいから教えて下さい。どうやったらこの世の中を変えられるのか。弟のような…あんなことが起こらないように世の中を正せるのか…フューリーさんですっけ。言ったのはあなただ。早く。教えて。」

淡々と話す少年の目に光は無かった。


「…分かったよ。」

フードを被った男は、段ボールの上に座ってタバコの火をつけた。煙を吐くと、深呼吸して話しだす。

「…もしお前がこの腐った世界を変えたい、と強く願うなら…己が手でチームを創るんだ。守りたいものを詰め込んだ最強のチームをな。そしてお前がその仲間たちのリーダーとして邪魔モンを叩きのめす。」


「それで本当にノイズはいなくなるんですか?」


「家族のために世の中を変えるんだろ?ビビる必要なんてない。お前は力を持ってる。最強だ。」


「守りたいもの…詰め込む…」

少年は俯いて目を瞑ると、考える。


「…ま、どんなチームを作るか決まったらオレにも教えに来てくれよ。いつでも聞いてやるぜ…」

フードの男はタバコを消して地面へ投げた。


「全ての能力を詰め込み、閉じ込め…管理する…そんな組織を作る…『全能統治軍』とでも名付けますかね」

少年が顔をあげる。少年の赤い瞳は暗く光っていた。


「なっ…」

オペは少年の顔を見た。現総帥である男の顔が重なる。

「ロダー?!」


少年は河川敷の方へ歩く。オペが付いて行くと、少年は橋の下に入ったあたりで立ち止まり、振り返った。

「…いつからいたんですか?オペさん。」


「ロダー…お前のやろうとしていることはきっと良くない方に働く…!絶対だ!そんなことやめてくれ!」

説得しようとするオペを月明かりが照らす。


「…アイジはただ死んだだけじゃない。あれは運命だったんだ。俺は世界そのものを治めて、能力を持つものを目の届く範囲に置く…それが俺の役目なんだ」

橋の下で少年の目だけが赤く光る。


「そんなことない…和解しよう…手を取りあえば平和になる…!キミがそうゆう社会にすればいい!」


「俺の母と同じことを言うんだね…オペさん。強い者が弱い者を虐げる…それはもはやどうしようもない世界の理だ…弟のような目に遭う人がもういなくなるなら、俺は強い者全員の敵にでも…独裁者にでも…喜んでなってやる」

ロダーは少年の心を捨て、覚悟を決めたように拳を握りこむと…冷たく敵対するような眼差しをオペに向けた。


橋の向こうへ歩いていくロダーをオペは追いかける。しかし周りから暗闇が自分を包みこむような感覚に陥ると、ベッドの上で目を覚ましてしまった。




起き上がってジャケットに袖を通すと、オペは左胸のSIMのワッペンに手を当て冷静に言い放った。

「ロダー、お前には直接話をしにいかないとな…!」

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