[第43記]みんな貴方を愛してる
「はぁ……はぁ………」
ザヤは人を殺した。息を切らして死体を見つめる。
ガチャリ…玄関の扉が開いた。
「うっ…酷い臭いだ。キミがやったのかね?」
1人の若い男が入ってくる。その男の服に付いているマークを見てザヤは戦慄した。彼は全能統治軍だった。
「私の名はロダー。以後よろしく頼む。」
ロダーに呪いの出力の多さを買われたザヤは、強制労働や実験を回避し、黒い軍服と帽子に身を包んで、全能統治軍の受能隊へ入隊した。稽古と称した新人いじめを掛けられることもあったが、道具を自在に操るザヤの呪いに勝てる隊員はいなかった。しかし…都合の良いことばかりではなかった。
「ラブラブごっこしようよ」「これしか稼げなかったの?」「発育良いよねぇ…」「ほんと気持ち悪い!!」「助けてくれぇ…俺のこと好きだろぉ…?」
「うっ…オエェぇ…!」
突然、隊員と戦うザヤはよろついて嘔吐した。口を手で抑えながら手を素早く動かし相手を拘束、壁に叩き付けた。
「勝負あり!!双方、礼!」
審判が大きな声で試合の終了を告げる。ザヤはフラつく足を気合で揃え、礼をした。相手も起き上がり頭を下げた。
「審判のお人……み…水…くれへんかな…?」
ザヤの呪いはただ道具を操れるというものではなかった。道具の声を聞いている間は、自らが殺した母親とヤコフ、2人との嫌な思い出を繰り返し想起し続けるのだ。忘れることは許されなかった。
実力を高く評価され、ザヤはどんどん上の階級へと登りつめていった。その結果、総帥直属の部下にまで昇級することができた。祝いとしてロダーに呼び出されたザヤは、申し訳なさそうに先に話しを始めた。
「その…今言う?って感じなんや…ですけど…う…私の呪いは使うと具合が悪くなってしまうもので…」
「なるほど。そんなデメリットがあるんだな。言ってくれてありがとう。ゆっくりでいいからな」
ロダーは否定も詮索もせずただ受け入れた。
「最近、保呪者を匿っている組織の存在が噂に出てきているんだ…恐らく獣人の君が少し芝居を打てば、向こうから接触してくると考えている。潜入して内部から動いてくれると…すごく助かるのだが。やってくれないかね?」
続けてロダーは、戦闘員ではなく"スパイ"としての任務をザヤに提案した。そうして彼女はSIMに加入したのだ。か弱い少女ではなく、仮の姿である"ザヤ"として。
「…意外と強いじゃねぇか。ザヤ。やるな」
「ははっ…サディはん…そんな大口叩いてるけど今にも倒れそうやで?どないしたん?」
思い切り笑い、格闘の相手であるサディを挑発する。そんなザヤは、心なしか輝いているように見える。
サディの蹴りを躱す。反撃にパンチを繰り出すも受け止められ、ザヤはアッパーを食らってしまう。負けじと振りかぶったザヤの手がサディの顔に当たる。
「グフゥッッ!」
「…そろそろ終わらそう。」
サディは凄まじい速度でザヤの周りを移動する。
「(速っ…!?まだこんな元気残っとったんか…!)」
ザヤの懐に入りこんだサディは手を顔めがけて振り―
ペタッ…
…優しくザヤの頬を両手で包みこんだ。ザヤは困惑する。
「…なんのマネや…?サディはん…?」
顔をそっと撫で、ゆっくり息を吸いサディは話す。
「…アタシは仮にも『真理の目』を持ってるからさ…オペとか…ルドとかの真実の気持ちを伝えるよ……。確かにウザいとかさ、マイナスの感情がゼロって訳ではなかったけど…心の底では…あいつら、お前のこと大好きだったよ…」
「……ッッ」
「もちろん…アタシも…大…好き…だ……」
サディは手でザヤの頬を包んだまま気を失い、倒れた。その重さに押されザヤも後ろに倒れ込む。
ザヤはサディの頭に手を置いてため息をつくと、空を見上げた。日は暮れ、星がキラキラと輝いている。
「はぁ…ほんま…アンタには敵わんわ…」
ザヤは腕で顔を隠し、静かに呟いた。
「…うちの…負けや。」
ドンドン…玄関の扉がノックされる。椅子に座り落ち着かない様子でいたシズとオペ、パソコンで作業をするナヴィ、立ったまま目を瞑り考え事をしていたルドが一斉に扉の方を向いた。オペはゴクリと唾を飲み、ドアノブに手をかけてゆっくりと扉を開けた。
ガチャリ…
「あー…絆創膏とかあらへん?デカめの…」
眠ったサディを背負ったザヤは、扉を身体で押して中へ入る。ルドは帽子を深く被り笑った。
「おかえり…ザヤ……!嬉しいよ…!」
オペが涙を流す。ザヤは目を逸らし、少し葛藤するような表情を見せた後に、照れながら話した。
「その…ザヤっていうの…うちの…親しくない奴用の名前で…ロダーはんがチラつくから…ティズって呼んでほしかと………あぁもう!何言っとんやうち!」
顔を真っ赤にしてサディの部屋に向かう。
「…おかえり…!ティズ…!」
オペがそう言い直すとティズは振り返って、恥ずかしさと嬉しさが混ざったような瞳でオペを睨んだ。
「はぁっ、夕飯はひとり分多く作らなきゃね。」
シズはエプロンを付けて食材を探し始めた。




