[第3記]キツネはなんでもお見通し
「司令!オペ司令!起きていますか!」
部屋の扉をノックしている音がする。
「ん…?なんだ…?」
オペが扉を開けると、息を荒くした戦闘班員がいた。
「オペ司令、政府軍の幹部を捕獲しました…!下に縛っているので来ていただけますか?」
「そうか、よくやった…すぐに行く!」
下の階に降り尋問室のような場所に入ると、縄で腕と椅子を縛られ座っている中年の男がいた。オペは机を挟んだ向かいの椅子に座った。
「俺はこの組織の総司令をしている、オペと…」
「ペッ」
ベチャッ…
話し始めた途端に、中年の男はオペの顔に目掛けて唾を吐いた。
「……………」
オペが黙り込み、指で唾を拭う。
「ハッ、俺ぁ全能統治軍の幹部様だぞ。お前らみたいな差別されて当然のゴミ共が…気やすく話しかけてくんじゃねぇよ。」
「こいつ今朝からこの様子で…あまり情報を引き出すのに時間をかけると政府も怪しみ始めます…」
戦闘班員がオペに耳打ちする。
「どうしたぁ?俺から情報聞きてぇんだろ?ならタバコとナイフ持ってこい。それでお前ら全員死ね。そしたらタバコ吸いながら墓に情報話してやるよ。」
「…人間はずいぶん粗末な冗談を言うんだな。」
「ま、情報聞きたくねぇならいいけどよ。俺が
情報話すのは気ぃ合う奴とギャンカワな女だけだ」
「ギャンカワ…」
オペがつぶやく。
「そう、ギャンカワだ。いねぇだろ?俺が今まで見てきた獣人はむさ苦しい野郎だけだったぜ」
「そうだな。話せてよかった。では」
「オペ司令、情報はよいのですか?」
「頭から抜けていたが、俺のほかに適任がいるからな。そいつに頼むのが良いだろう」
「その方はどこに…?」
「今そいつのとこに向かってる。恐らくいつもの様に中庭で昼寝だろう。」
中庭につくとオペは少しキョロキョロと辺りを見回した後、木にぶら下がったハンモックに寝ている茶色い毛並みの獣人に話しかけた。
「サディ、お前の呪いが必要なんだ。助けてくれ」
「……………」
「おい、起きてくれ」
ツン…
「んぅ…ふぁぁ…」
オペがその獣人に生えたキツネのような尻尾をつつくと、ビクッと身体を震わせ眠そうに目を開けた。
「ん?オペ?どうしたんだよ」
「ちょっと頑固なやつがいてな。呪いか必要だ」
「はぁ〜い…よっと」
ハンモックから飛び降りたその獣人…サディは、キツネのシッポと耳をもち、長い茶髪で左目は隠れている。腰まである後ろ髪は赤い輪の布で結わえられている。後ろ黒のキャップに緑のスカーフ、ベージュのオーバーサイズTシャツを着ていて、その上から青いジャケットを羽織っている。ジャケットはベルト付きで、ナイフが刺さっている。灰色のカーゴパンツに黒のブーツを履いた見た目だ。
「ふぁ〜…そいつどこ〜」
目を擦りながらオペについてくると、サディは気だるそうに尋問室に入った。
「あぁ、こいつかぁ」
サディは尋問相手を確認すると、ゆっくり腰を下ろした。
「あー…アタシがSIMの副司令官のサディノイラだ。サディでいいぜ。よろしくな」
「…驚いたなぁ。獣人にもこんなべっぴんさんがいるとは。」
「ははは、サンキューな。まぁ回りくどいのは嫌いなんで、政府について色々教えてくれよ。」
「ハッハッハ!いいねぇ姉ちゃん!だがそいつは無理だ。俺は政府の情報を絶対に出さねぇぜ」
「…じゃ、政府の組織図を教えてくれ。」
「あぁ?だから教えないって言ってんだろ?」
「次。トップは誰だ?仕切ってるのは?」
「だから教えないって…」
「アタシらの組織のことは知ってるのか?」
「だからそれも…」
しばらくサディと中年の男との会話は続いたが、それは尋問とは言えず、一方的に質問をするだけの談話と化していた。オペと一緒にいた戦闘班員もその歪な会話に心配を感じた。
「あの…オペさん、情報、出せてないですよね」
「いいから静かにしてろ。」
時間が経ち、尋問が終わるとサディは背もたれに体重を預け、腕を頭の後ろに組んだ状態でニヤついた。
「えーと、まず組織的にはトップが1人、んで幹部より上の上位層が4人、でこいつみたいな幹部、そして下っ端の政府軍…って感じだな。」
「…は…?」
「トップの名前は『ロダー』…か、情報がねぇな〜まぁでも呪いに近い妙な力を使うらしい。」
「オペさん?これ…」
「SIMのことはバレてないけど、レジスタンスの存在そのものはなんとなく勘付かれてる。」
「…ありがとうサディ。」
「いやぁ。オペの頼みなら仕方ないぜ」
「ちょ、ちょっとまて!お前なんで…!?俺は何も喋ってねぇぞ!?」
中年の幹部の男は動揺し大量の汗をかいている。
「『真理の呪い』だよ。人を見れば先の行動。目を見れば思考…アタシは本より簡単に読めるぜ」
サディは胸を張り、誇らしげにそう言った。
「まぁこれくらいは教えても、サディにとって目立った支障はないだろうな」
「ははっ、そうだな。問題ねえよ」
「偵察も頼んでいいか?」
「えー…アタシ昼寝戻ろうとしてたんだけど…」
「そこを何とか…」
「ちぇーっ…」
サディは扉を開けて出て行った。