[第38記]それでも夜は更けてゆく
「では、ファルテさんは明日には消えちゃってる!ってことでね〜!アハハ!"え〜!マジですか!はは"」
静かな空間でラジオだけが鳴り続ける。
「…なにかの冗談だろ?これは…」
沈黙を打ち破ったのはルドだった。
「…今この家にいるボクたちが、SIMの生き残り…ってことになるね。正直震えが止まらないよ。」
シズは自分の腕を握りうつむいた。
「俺は…ウェイクロックの奴らを家族だと思ってた。大切な仲間もいた…リョーは静かだけどよ…ジョークが好きで…よく俺にくだらねぇことを言ってきた…ラズベはうるさいけどそれが心地よくて…それで…」
ルドは悔しそうに、目に涙を浮かべながら言った。
「…もういないんだな。あいつらは。」
「…そうだな……みんな、聞いてほしい事がある。」
オペは立ったままテーブルに全員を呼び寄せた。
「一刻も早くロダーを倒さないといけない。明日にでも全能統治軍本部に乗り込むつもりだ。…だが、凄く危険で死ぬ可能性の方が高いような戦いだ…今ここで降りるのも、賢い選択だと思う。」
ルド達は何も言わない。
「だから明日…明日の朝、俺に付いて来てくれる奴だけ…このテーブルに集まってくれ。怖かったら無理しなくていい。その時は自分の部屋に居てほしい。今夜ゆっくり考えてほしい。……それだけだ」
オペはそう言うと深く息を吐く。ルド達はそれでも、何も言わずに、ただそれぞれの作業をし始めた。
オペも家から出て少し歩くと、街灯ひとつない丘で横になり星空を眺めた。色々な事を考え、ため息をつくと、上半身を起こして唾を飲み込み、呟いた。
「姉さん。俺は人を殺す。ごめんな…」
―全能統治軍本部 会議室
「いやぁ〜さんざんじゃったわ!酷い目に遭うた!」
エウロパは前髪を触りながら言う。
「この4人が集まるなんて久しぶりだな。あと…申し訳ありません…ロダー様。不覚を取ってしまって…」
イオは椅子に座ったまま、ロダーに頭を下げる。
「気にするな。ただ私が引っかかるのは…カリス。」
ロダーはイオに軽く微笑みかけ、視線を移す。
「はい。なんでしょうか。ロダー様。」
カリスは胸に手を当てニコリと笑う。
「私は君のことをとても高く評価している。人に好かれるような性格も、サクラや吹雪を出せる力を使ってここまで登りつめる才能も素晴らしい。」
ロダーはカリスの方へ歩きながら話す。
「そこまでの実力がありながらオペロジャックとマルディエを始末出来なかったのはなにゆえかね?」
ガニメデがカリスを睨む。
「…あの2人はとても強かった。だから負けただけですよ。情けをかけられて生きていますがね。」
カリスは口に軽く手を当て笑った。
「そうスか。じゃあ今死んだらどうっスか?」
ガニメデは銃を取り出して投げ、カリスの目の前までテーブルを滑らせた。カリスは表情を変えないまま指を組み、ガニメデを見て言った。
「…なんの真似ですか?ガニメデ。」
「レガリオ同士で揉めるのはやめてくれないかね。」
ロダーは少し不機嫌そうにガニメデを見た。
「…すいません。でもアンタは保守派だ。カリスみたいなやつをほっとくのはどうなんスかね?」
「実力はあるんだ、もう少し活躍してもらわないとな。集まってくれてありがとう。戻っていいぞ。」
ロダーはカリスの肩を叩き手を軽く上げた。
「ガニメデは全能統治軍の身分を私利私欲のために使ってます。首を取られないようにしてくださいね」
カリスは3人が会議室から出た後、ロダーに言った。
「心配はいらないよ。それとキミも、わざと敵を逃がすようなことはしないようにしてくれたまえ。」
ロダーは会議室の出口へ向かい、途中でカリスの肩を強く掴んで"次はない"と呟いた。
「…は、はは…あなたには敵いませんよ…」
カリスの額から一筋の汗が流れた。
オペが家に戻ると、リビングには誰も居なくなっていた。1人で軽く食事をした後、オペは部屋の扉を開ける。大きめのベッドと棚しかない小さめの部屋だ。
「はぁ…」
ガチャ…
ベッドに横たわってしばらくすると、ゆっくりと部屋の扉が開いた。入って来たのはサディだった。
「オペ…まだ…起きてるか?」
「ああ。起きてる。なんだ?」
「明日なんだけどさ、もし…もしも全員部屋にいたままで1人になったとしたら、やっぱり辞めるのか?」
少し悩む素振りを見せた後、オペは言う。
「…いや。それでも俺は行くと思う。姉さんを助けたいのはそうだし…それに、ここで辞めてしまったら普通の生活をしたとしても心残りができるからな。」
「…そっか。アタシの予想した通りの答えだ。」
サディは嬉しそうに笑った。
「アタシも心残りはないようにしたい…んだけど、今のタイミングでやるのもどうなのかなって感じで」
葛藤した様子で頭をかくサディ。
「…心残りがあるのか?俺にできることだったらなんでも協力するから言ってくれ…」
オペは微笑みながらそう言う。
サディは扉の方を向き静かに鍵をかけると、オペに向き直りぎこちない動きでジャケットを脱いだ。
「…さっきルドに聞いたらこの家、壁が薄めなんだってよ。夜だしあんまりうるさくすると迷惑だ…」
「…?そうだな…」
オペは首を傾げる。サディはベッドに乗りオペの体にまたがると、オペの頬を撫でながら言う。
「アタシ初めてだから…下手だったらごめんな…」
後ろ髪をほどくと、赤面しオペから目を逸らした。
「…大丈夫だ。優しくする。」
オペはサディの頭を抱きよせ、そっと口づけをした。




