[第34記]優秀な人材
「助けて下さい…!私の子が…!」
カンガルーのような獣人の女性が、うなされている子供を抱え扉を叩く。すると扉から金髪の紫で蛇のような目をした男が出てきた。
「…なんスか?ここは全能統治軍の本部っスよ」
男はくすんだ赤色のマフラーを整えながら言う。彼の被っている帽子には鍵に翼がはえたような…全能統治軍のマークが付いていた。
「この子…自分を蝕むような呪いがあって…!」
獣人がそういった途端、男は目つきを変えて子供に視線をうつした。
「へぇ…なるほど。呪いが発現するのはもれなく獣人ですからそりゃそうっスよね。それで?」
欠伸をしながら男は頭の後ろをかいた。
「それでっ…て…?」
「いや、だからどうして欲しいんスか?殺せばいいんスかね。楽にしてあげる的な?」
「…どうかしましたか」
扉からもう一人男が出てくる。ロダーだ。
「ロダーさん…!この子、呪いが…!」
獣人は泣きながら子供を差し出す。ロダーは優しく微笑み、子供の額に手を置いた。
「…これで大丈夫ですよ。もう心配ありません。」
手を離すと、子供は表情が和らぎ安らかに眠った。
「あ…ありがとうございます…!ありがとう…!」
女性はペコペコとお辞儀をしながら帰っていく。
「…大丈夫なんスか?ロダーさんが死ぬっスよ」
「私は倉庫の管理者というだけだ。銀行に預けたお金は全て銀行が好きに使えると思っているのかね?」
ロダーは扉に入り本部に戻っていった。
「ははっ、まぁいいや。」
男もロダーの後に続いて本部に入る。玄関、廊下、会議室…男は歩く。そして椅子に座り足を組んだ。
「で、なんスか。わざわざ俺を呼び出して。」
「…レガリオは既に3人も捕まっている。受能隊もレガリオ以下の吹き溜まりだ。ガニメデ、お前しかまともな戦力はいないと言っていいだろう。」
ロダーはガニメデの方を向いて言う。
「俺だけじゃないっスよ。鐚蟒瀲がある。」
「そうだな。でもあるまじき事態だ。お前が行け。お前に与えた能力なら確実にSIMを解体できる。」
「はぁ〜…ダリーっスね。報酬弾むんスよね?」
ガニメデは机に足を乗せて頭の後ろに両手を添えた。
「もちろんだ。」
「なら任せて下さい。俺は慈悲も黙秘も無いっス」
ガニメデは席を立ち、会議室の扉に手をかけた。
「…ロダーさんは行かないんすか?」
「私は…やることがあるのでね…」
ロダーは目を合わせずに微笑んだ。
「ふ〜ん。じゃあ場所後で教えて下さい。」
ガチャリと音がし扉が閉まる。会議室が静まり返る。
コンコン…少しして、扉がノックされる。会議室に入ってきた人物を、ロダーは辛辣な目で見る。
「…遅刻だぞ。時間にルーズだな。君は。」
その人物はロダーに近づくと、片手で書類を渡す。
「…そうか。所在地はマインダボイラーのどこかで…シズリィロのナヴィで強化された呪いに注意…ね。君のような優秀な人材が私についてくれて助かるよ。」
―SIM マインダボイラー支部
「なるほどね。助手くん、これラボに回して」
シズがナヴィにリストを渡す。
「…名前で呼んでやれよ…てか打ち解けたのか」
オペは呆れたような顔でシズを見る。
「まぁ色々あってね。仲良くやってるよ。」
シズはクスッと笑い隣に立つナヴィの手首を握りプラプラと振ってみせた。
「ナヴィもその格好、似合ってるよ。」
ルドは指を差しながら賞賛した。黒いスーツに赤いネクタイをし、白衣を羽織ったナヴィは照れた。
「ありがとうございます…!」
オペ達が作業をして数時間。それぞれの身体に疲れが溜まりかけてきたその時、ザヤが作業場に来て帽子を脱ぎ、嬉しそうに話し始めた。
「やぁやぁ、最近風呂に入れていない人ら!」
「…誰のせいだと思ってんだ?お前が別の部屋にするために改装してんだろ。おかげで、最近オレの体がかすかに臭ってきてねぇ…。」
ルドは手首の臭いを嗅ぎながら言った。
「ルドはんはずっと臭いキツイから安心しとき。それに別の部屋ちゃう、『アップグレード』したんや。」
「…緋鶴の風呂がなかなかイカしとったから、それをもとにして改良したんよ!」
ザヤはオペ達を先導して廊下を歩く。簡素な風呂場だった場所は木をふんだんに使った温泉になっていた。
「おぉ…!」
ザヤとサディは暖簾をくぐり、脱衣所の扉を開ける。体を軽く洗うと、2人はゆっくりと湯に浸かった。
「…恋バナでもするか?」とサディは言う。
「ええなぁ…サディはん、オペの事好きやろ?」
ザヤがそう言うと、サディはビクッと震えた。
「はあぁー!?なんで…!じゃあザヤの好きな奴も教えろよ!フェアじゃないだろ!」
サディはザヤの肩を掴みブンブンと揺さぶった。
「嫌やー。だってうち、好きな人おらんもん」
「はぁぁ〜!?ズル〜!なんだそれ!」
「サディはんが恋バナしよ言ったんやろ?」
ザヤはクスクスと笑った。
「…マインダボイラー。シケた場所っスね。どこにアジトが…まぁ獣人捕まえて脅せばいいか。」
ガニメデは携帯で指令を確認しため息をついた。




