[第33記]ニ目惚れ
シズは椅子に座った子供たちに勉強を教えている。
「そうそう、その2つを足していってみて」
「え〜と…216?」
「正解!それが筆算だよ。」
ニコリと笑い子供の頭を優しく撫でる。そんなシズを影から見るものがいた。ナヴィである。
「ほんとに許してくれるのかな…」
「まぁ、話は聞いてくれると思うぜ。あとアタシは多分いないほうがいい。オマエだけ。1人で謝りな。」
ナヴィをビシッと指差した後、サディはニコッと笑いかけて離れていった。
「シズ〜!ここも分からない〜!」
「…おっけー。ちょっと待っててくれる?」
シズは子供に微笑かけ席を外す。物陰に隠れているナヴィの肩を叩き、腕を組む。
「ひぃ!?シズさん!?」
「…なんの用?」
「えっと…その…あの…」
ナヴィはシズの目を見たり上を見たり、視線が泳いでいる。心臓の鼓動が速くなり汗が流れる。
「…ボクに…何かを言いたくて…きたんだよね?」
「…さっきはごめんなさい…俺、パニックになってて…ほんとはあんなこと思ってないです…」
「ボクの目を見て言ってよ」
シズがナヴィの顔を覗き込む。
「はい…俺…」
ゆっくりとナヴィがシズを見る。腕を組んだシズは顔を傾けてナヴィを下から見上げている。ほんのりと甘いシナモンのような香りが鼻を包む。
「シズさんのことが…好きです…」
「…ん?」
シズは気の抜けたような声で言う。ナヴィ自身も理解出来なかった。完全に無意識に出た言葉だった。それまで眉一つ動かなかったシズの顔からひと粒の汗が落ちる。
「え?いや…えっと…改めて見るとというか…助けてもらった時も…かわいいとは思っ…てて…」
「……キミ、自分が何言ってるのか理解してる?」
シズの表情から不機嫌な雰囲気が消え、困惑のみになる。ナヴィの顔を心配そうに色々な角度から見る。
「まだ…気が動転してる?ゆっくりでいいよ…?」
「シズ〜?まだおしごと〜?」
子供が鉛筆を握りながら催促する。シズはハッとして早口でナヴィに話し、テーブルに向かった。
「キミはもう部屋に戻って休みな!…待たせてごめんね〜…え〜っと…なんだったっけ…」
「かけざんの筆算だよ〜」
「あー…そうだった。そこは…う〜んと…」
シズが問題を指でなぞりながら説明を考える。ナヴィは少し葛藤したあと、シズの隣に座った。
「…俺も…教わりなおそうかな」
「キミさぁ…!ほんとにいい加減に…」
シズはそう言いかけるも、子供の視線を感じて中断し
、目を閉じて深呼吸をした。
「じゃあ…掛け算の筆算ね。まずここを縦に…」
勉強を再開して少しすると、サディが廊下から現れた。ナヴィとシズを交互に見ながら近づいてくる。
「…仲良くなってね?」
「サディ。助けてくれる?彼は異常者だよ。」
口角を少しも下げずに淡々と助けを求める。ナヴィはそんなシズに夢中で計算式を一切見ていない。
「あー、でもまぁちょうどいいんじゃね?本気でシズを好いてるぜ。ナヴィは。でも……」
笑いながらサディはナヴィの目を見る。
「…ナヴィ。オマエはちゃんと謝れ。頭の中がシズ、シズ、シズ…謝罪をまだしてないと見たっ。」
「はっ…そうでした。シズさんのような素晴らしい人も保呪者にはいるのに…あんな酷いことをしてしまって…ごめんなさい…」
ナヴィは急いで椅子から立ち上がり頭を下げた。
「……調子狂っちゃうなぁ…まぁ…許すよ」
シズは額に手を当てため息をついた。
「やったぁぁぁぁぁ!ありがとうございます!」
「うぇー……」
ナヴィがシズに抱きつく。シズは嫌そうな顔をしながら目を逸らした。サディと子供は笑っている。
「…てことで、目を通してほしいのはこれだ。」
オペは束になった書類をシズに渡した。
「分かった。」
「シズさん!貸して下さい。持ちますよ。」
ナヴィは半ば強引に書類を取り腕に抱えた。
「…ナヴィだったか。ずいぶんシズに懐いてるようだが…何したんだ?クスリでも盛ったのか?」
椅子によりかかりながらオペは質問した。
「シズさんはかわいいし…凄く強いし…しかも間違った俺を正してくれた神様のような人です…!」
「…そうか…まぁ…ほどほどにな。」
「はいっ!!!!」
「えぇー…ボクから離してよ…」
「でも…ナヴィの呪いはシズ、お前の呪いとかなり相性が良いと思うんだが…待ってね、今資料を…」
オペは引き出しから"ナヴィ・ナバスティ"と書かれたファイルを取り出し中身を見た。
「…解析したところナヴィの呪いは『増幅の呪い』。近くにいるものの呪いの効果や距離を強化し、消耗する体力を大幅に軽減する。政府の奴らがこの呪いを知ったら…恐ろしくてたまらないだろうな。」
オペはファイルを軽く振り不敵な笑みを浮かべた。
「増幅の呪い…?距離と効果を強化…?これって…良いことなんですか?シズさん…」
ナヴィはキョトンとした表情で2人を見る。
「……シナジーがあるんじゃないかな?」
ファイルをしまったオペがウィンクをする。
「はぁ…しょうがない…ボクの側に置こう。今日から特別行動班に所属して助手でもしてもらおうか」
シズはため息をつき、帽子を被りなおして言った。




