[第30記]何者
「アイジくん…!?なぜここに…!」
「いや…兄さんから連絡がないからどうしたのかなって思って、いつもの場所にいるかなぁ〜と…」
「すまない…守れなかった…!」
オペは少年をゆっくりと地面に置く。アイジは少年に駆け寄り涙をこぼした。
「兄さん…!?兄さん…!」
「アイジ…ごめ…ん…1人だけで先に…いく…よ…」
「待ってよ…!」
アイジは大量の涙を流し、少年の身体に泣きついた。
「内臓がいくつも傷ついている…生命力も削られている…俺が守るべきだったのに…不甲斐ない…!」
オペは歯を食いしばり、ひと粒の涙を流した。
「内臓…生命力…?」
アイジがオペのほうを見る。
「僕なら…兄さんに付与すれば助けられる…!」
「アイジくん…!君が死ぬぞ!」
オペがアイジの肩に手を起き止める。
「兄さんは!!」
アイジはオペの手を振り払う。
「兄さんは…僕よりずっと頭もいいし、世界にとって必要な人だと思うんだ…それに兄さんが死ぬなんて僕、生きていられないよ…」
「アイ…ジ…!やめ…」
少年は弱々しく手を伸ばしてアイジを止めようとした。しかし、アイジは優しく手を取り微笑んだ。
「僕、兄さんの弟でよかった。大好きだよ。」
「アイジ…!」
「僕の…なにもかもを付与する。」
そう呟いた途端、少年の傷はみるみる塞がっていく。そしてアイジは目を閉じ、安らかに少年の胸に倒れた。
「アイジィィィィイ!!!」
少年は目の前の弟を強く抱きしめた。
「頼む…!目を覚ましてくれ…!俺から弟を奪わないでくれ…!神様…!!」
少年の叫びを嘲笑うように、夜風が音を立てる。
オペは何も言わずに、アイジの亡骸から目を逸らす。
少年は、しばらくして弟の亡骸をそっと抱きかかえ、深呼吸をした。そして、涙声でゆっくりと口を開く。
「…父さんと母さんに伝えにいきます」
「…そうだな、俺はこいつを警察に引き渡してくる」
オペは地面に転がる中年を指さして言った。
「ありがたいです。オペさん。」
少年はニコリと笑った。しかしその表情はとてもぎこちないもので、オペは彼の心の底にある膨大な痛みをひしひしと感じた。
「じゃあ…さようなら。」
「待て。」
少年は歩いていく。その背中にオペが言葉を投げる。
「…死ぬなよ。キミは悪くない。かといってアイジくんが悪いわけでもない。全て俺のせいだ。」
「……」
「…すまない。それだけだ」
少年はまたゆっくりと歩き出す。オペもうなされている中年を肩に担いで歩み始めた。
「うっ…!なんだ…視界が…」
目眩がオペを襲う。オペは咄嗟に目を閉じた。
「…ふぁっ…!」
目眩が収まり目を開けると、いつものオペの部屋が広がっていた。夢がまだ続いていると錯覚してしまうほどに静かな空間に、時計の音だけが響く。
「あの少年は…実在するのか…?」
ガチャ…
「オペ〜今日も寝顔見せてくれよ〜」
小声でそう話しながら、ニヤニヤしたサディが入ってくる。2人の目が合い、お互いに硬直する。
「…あ〜…すまん…今起きた………寝顔?」
「わぁぁぁあ!?なんでもねぇよ!てかお疲れじゃなかったのか?もう具合はいいのかー!?」
「あぁ…まぁ体調は万全なんだが…」
「アタシに話せないなにかでもあるのか?」
サディが心配そうにオペを見つめる。
「…いや…そうだな…話そう」
少し考え、覚悟を決めたようにサディの方を向く。
「お…おぉ!何があったんだよ!聞かせてくれ!」
とても嬉しそうに前のめりになり尻尾を振る。
オペは夢で少年に会ったこと、どんな少年だったか、そしてその少年と技を教え合った事を告げた。
「…ふむふむ。なるほどねぇ〜…でもなぁ、今その話をしてくれたオペを真理の目で見たんだけどな、ずっとただの想像っていう反応が出てたよ」
「そんな…!ほんとに俺は…!」
「いや!分かってる!オペがアタシに嘘つくはずがない。つまりアタシが言いたいのは、『忘れてた記憶』とか『未来の話』とかの類ではないってことだ」
「ほう…」
「そうだ!シズなら分かるんじゃないか?あいつ物知りだし、きっとこの現象も分かるはず!」
サディは閃いたように指を鳴らした。
「…で、ボクのとこに来たってわけね。」
シズは本棚から人差し指で書物を取り、いくつかを開いては閉じ棚に戻すのを繰り返す。そして"睡眠に関する仮説"というタイトルの本に目を通すと"これだ"と小さくつぶやき、ページを開いてオペとサディに見せた。2人が本を覗き込む。
「え〜と…『夢の共有』……?」
オペがページの見出しを読み上げ首をかしげる。
「そっ。ドリームシェアとか色々と名前はあるらしいけど…『同じ構造の脳を持つ生物は他の人の記憶を追体験する可能性がある』っていう仮説でね…」
シズは椅子に座り、紅茶の入ったカップを口に運ぶ。
「オペの呪い『不具合』なら、"夢にバグが生じる"っていうのもあり得る話…っていうね。まぁボクが提供できるのはこれくらいかな。」
シズの部屋に少しの沈黙が流れる。するとそこへ書類を持ったルドが入ってきた。
「おぉ、ここにいたか!オペも元気そうで良かったぜ。なぁ、今いいか!?」
「あぁ…ルドか…構わないが。なんだ?」
「聞いて驚くなよ。さっきSIMに向けて信号が送られてきたんだがな。連絡を取ってみたところ相手が人間ではないことが分かったんだ…ただ味方か敵かはまだ分からない…!」
書類をめくりながらルドが説明する。
「何者なのかは分かるのか?」
「あぁ。自分から名乗った。逆に名前しか分からないけどな。これがそいつの名前だ。」
ルドが書類を1枚引き抜きオペに渡す。オペ書類を受け取り、名前を見て唖然とした。
「ミスター・ペペロンチーノ・モザイ子」
「は?????」




