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[第29記]自己犠牲

あれは夢だったのだろうか?

オペはそう思いつつ書類に目を通す。


「…オペさん?大丈夫ですか?ボーッとして…」


「え?あぁ…すまない…」

話しかけられ急いでハンコを押す。


「オペに任せっきりなのも良かねぇし、シズとかサディに頼るのはいかがかねぇ。休んでこいよ」

ルドはシズと、その隣に座っているサディを見ながら休息を勧めた。


「…だな。アタシにもっと頼れよ。オペ。」

サディは頷くと心配そうにオペを見つめた。


「オペが過労死してもボクはどうでもいいんだけど、サディ様が落ち込むだろうしね。大人しく休みなよ。ボクもサディ様と話すのに邪魔なやつがいなくなるから一石二鳥だし。」

シズは書類から目を離さず淡々と話す。


「シズ〜言い過ぎだぞ〜?」


「アハハ!ごめんサディ様!」

サディがシズのことをくすぐる。


「まぁ…そうだな…お言葉に甘えて…」

オペは自室に戻るとジャケットを脱ぎ、軽く畳んで置くとベッドに横たわりため息をついた。そのうちだんだんと意識が遠のいていき、気がつくと河川敷で横になった状態になっていた。


「…昨日見た夢と同じ場所…!?」


「オペさ〜ん!」

昨日の夜、技を教えてくれた少年が駆け寄ってくる。


「おぉ…キミは…えっと…」


「名前教えたばかりじゃないですか。なんの冗談ですか。今からオペさんの技も教えてもらいますからね」


「俺が教えられる技か…ないなぁ…」


「えぇ!?そりゃないですよ〜!」


「体術くらいしか…」


「じゃあそれでいいですから!教えて下さい!」


「それでいいってなんだよ!」


「不具合教えてほしかったから…」

少年は口を尖らせて残念そうに言葉を吐いた。


「じゃあ剥奪教えてくれないか?」

ニヤニヤしてからかうようにオペも求める。


「それは無理です。」

真顔になり首を振る少年。


「なら俺も無理だなぁ。」


「もういいから体術!体術教えて下さいよ!」

オペに懐いた少年はとても積極的に話しかけてくる。あまり喋らないオペはその少年と過ごす時間になにか心地よさのようなものを感じていた。


「…だいぶ動けるようになったじゃないか。」

すっかりと日も暮れ、2人で地面に座り込む。


「ありがとうございます。」

少年がニコリと微笑むと、少しの沈黙が流れた。


「…オペさんはさ、兄弟とかいるの?」

先にその沈黙を打ち破ったのは少年だった。


「いるよ。姉が1人な…俺が小さいころから親がいなくて、母親代わりに俺を育ててくれた…お金もあまり無いのに豪華なスイーツを買ってきてくれたり、とにかく優しくて…だけど俺が外に出て迷子になった時は凄く怒ったり…素敵な姉だ。」


「…俺も弟のアイジがいるんですけど、優しすぎて心配です。」

俯きながら少年はボヤいた。


「良いことじゃないか。」

オペは不思議そうに答える。


「俺は剥奪の力、アイジは付与の力を持ってるんですけど、あいつはもし誰かに襲われたとしても反撃が出来ない。むしろ相手を強化してしまう…」


「ふむ…兄弟で対となる能力を持ってるのか」


「俺の剥奪は相手から武器とか感覚を奪えば逃げられます。しかも奪ったものは自分のものになるので…でもあいつは付与の能力なのに優しすぎて自分のものをどんどん人に与えてしまう…俺が守ってあげないといけないんだ」


「…まて。アイジくんは前に俺を治療したときに『皮膚を付与した』って言ってたけど…」


「あれは自分の皮膚をオペさんにあげたんです。皮膚は毎日作られるものですから問題ないですけどね」


「そんな…」

オペは自分の脚を見て、ゴクリと唾を飲む。


「自己犠牲の擬人化のような奴ですよ。ほんと…みんなが笑顔になっていくたびに、アイジはボロボロになっていく…そんなの耐えられない。」

少年は拳を握り込むと、悔しそうに涙ぐむ。


「…じゃあ君が守ってあげるんだ。弟のアイジくんも君と一緒なら無敵だよ。2人で1つ。いい兄弟だ。」


「…!」

パッと顔が明るくなる。


「はい!!そうしま

ドフッ


「…え?」

一瞬の出来事だった。少年の胸には腕が貫通している。その後ろから中年の顔が覗きこむ。酔っ払っているようだ。


「ひっく…こんな時間によ〜…うろついてんじゃねぇぞ〜…俺みたいな通り魔に殺されちゃうぞ〜?」

ズルッ…


ドタッ…

中年が腕を引き抜く。少年が倒れこむ。


「おぉ〜?お兄ちゃんも殺してあげるからなぁ〜?おらぁ超はえぇスピードで動けんだぁ…!このガキが無敵だあぁ!?おれのほうが無敵なんだよぉ!ふざきやがってぇぇええええええええ!」

中年は再び加速してオペの周りを走る。


「…お前の速度…それが最大か?」

オペは中年の腕を掴み首を叩く。中年は気絶した。


すぐに少年に駆け寄って肩をゆする。

「おい…!起きろ…!お前が弟を守るんだろ!」


「ゲボッ…!」

少年が小さく咳き込む。呼吸が荒い。


「まだ生きてる…!とにかく…病院にいかないと…」


「…オペさ…ん…もう…俺は…助から…ないですよ…病院なん…か…行かなくて…いい…」

か細い声で少年は死を受け入れる。


「……兄さん?」

オペの背後から心配そうな声がする。その姿を見た少年は咳き込むと、静かに名前を言った。




「アイ…ジ…?」

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