表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

[第26記]カリスのおもてなし

「くっそ…インチキ技め…!」

ルドは文句をこぼしながら周囲を警戒している。


ザッザッザッザッ…

ルドのまわりの紅葉が凹んでいく。まるで透明な人間が走り回っているような。バサァ!紅葉がすべて上に舞いカリスが姿を現す。


ガキィン!

後ろから飛んで来た銃弾を斬り落とすと、カリスは少し困惑したように後ろを見回した。


「オレの足元見てなにか気づかないかい?」

ルドに言われカリスは下に目をやる。なんとルドの足元には影がなかった。


「あんたの後ろに影が回りこんだのさ。さっき外した弾を回収して撃ってもらった。」

ルドの影が動く。影になっていない部分で目と角、蝶ネクタイのようなものが付いている。


「なるほど…面白い呪いですね。」


「そりゃどーも。」


「ぴったりな技で良かったです。月冬鱗(げつとうりん)。」

吹雪が辺り一帯を襲う。あまりにも濃い雪で一寸先も見えなくなり、足元の影…というか足すらも見えなくなっしまった。


「はっ…マジでカウンターかよ…」

動くことすらできなくなったルドは立ち尽くす。すると後ろからカリスの刃が迫る。


ゴンッ…刀はみね打ち。ルドは気を失った。


「ルド!クッ…オレも吹雪で何もできなかった…!」


「ではさようなら。春時雨(はるしぐれ)

カリスは連続で細かい斬撃を繰り出した。ガードするオペの手が少し斬られる。


「グッ…」オペも思わず痛みで声を漏らした。


「耐えるんですね…」

カリスは再び上空に飛び上がり急降下する。それをオペは離れて避けた。するとカリスは消え、紅葉が地面を覆った。するとオペは後ろへ回し蹴りをした。


ドガッ!カリスの顔に蹴りが入った。


「ふっ…やりますね。まさか食らうとは」


「葉っぱが動いた瞬間に蹴っただけだ。お前、順番にしか技出せないだろ。じゃないと雪の技で俺を殺さない説明がつかない。」


「ご名答…!ただ私も騎士道を重んじる人間です。最後は小細工なしで行きましょう。」

カリスは瞬く間にオペに接近し刀の柄で腹を突いた。


「ぐっ!だが体制を崩したな…!」

オペは脇腹を蹴り服をつかんでカリスを投げる。


「力がお強いことで…!」

みね打ちでオペの首を刀で叩いた。


「クソッ…」

オペが身体に残った力を振り絞りハンマーを振る。


「まだまだ甘いですね!」

ザギッ!オペの持っているハンマーが粉々に斬られてしまった。オペは地面へ倒れ込む。


「これで防御は出来ない…終わりです!」

カリスが刀を頭の後ろへ振りかぶる。


シュッ…

刀がオペの頭に向かって振られ…


バシィッ!

「…白刃取り!?」オペはニヤリと笑いパキッと刀を折った。カリスは懐から小刀を出し振ろうとする。しかしオペに奪われてしまう。そしてオペはカリスを押し倒し小刀を…


ダ ン ッ


「…なぜ殺さないんですか?念願のレガリオですよ」

顔の真横の地面に刃が刺さっているまま話す。


「言っただろ。『倒す』ってな。今俺はあんたを押し倒してる。もう満足だよ」

オペが離れる。カリスは服をはたいた後に笑った。


「ハハッ…情けをかけるとは…騎士にとってはあるまじき行為ですね。まだ人情を捨てきれていない。」


「…人情を捨てきれてないのはどっちだよ。あんたは俺を殺すチャンスを何回も無駄にした。なぜだ?」


「…私はね。実は好きなんですよ。保呪者が。」

カリスは切なげに桜の樹を見て思いにふけった。


「私、この町に生まれてからずっと、古き良き緋鶴が政府に台無しにされていくのを見てきました。かろうじて残っている寺もありますが、ほとんどが洋風建築に置き換わってますし。でもこの町の保呪者は緋鶴を守るために戦ってます。矯正するのではなく、ありのままの良さを嗜む。そんな彼らの生き様が…私は好きだ。」


「…………………」

オペは何も言わず、ただカリスの話を聞いた。


「…さぁ、どうします?私を捕らえますか?」


「いや。俺たちと一緒に戦ってくれ。アジトには俺から紹介する。カリスがいれば心強い。だから…」


「お断りします。」と、カリスはオペの誘いを遮った。


「貴方の敵は辞めますが、政府に借りがあるのも事実。だから中立…ということにさせてください。」

カリスは全能統治軍のマークに手を当て頭を下げた。


「それで充分だ、ありがたい」

オペが手を差し出すと、カリスは優しく微笑んで手を握る。二人でルドを運び飛行機に向かう。


「…じゃあ。俺は行くよ。緋鶴…いい町だった。」

飛行機のエンジンがつき、プロペラが回り始める。


「えぇ、私も案内するのは楽しかったですよ。あと…これを貴方に渡しておきます。」

カリスは刀を鞘ごと外すと、両手でオペに渡す。


「炎や雪は出ませんが…急上昇や透明化などの機能は使えます。貴方のハンマーは心細いので。」


「いや…貰えない。これはあんたのものだ。」


「必要ないですよ。私には。それに…最後に見送りとしてお土産をあげなければ。それも含めての『おもてなし』…でしょう?」


「ははっ!そうだな。じゃあ…元気でな」


「ええ。どうか達者で。」

飛行機が動きカリスから離れていく。窓からは朝日が昇りかけている空と一面の桜が見えた。


緋鶴を飛び立って数分後、ルドが目を覚ます。

「いてて…あれ?決着ついたのか。すまねぇ」


「あぁ。もう勝負は終わったよ。おはようルド。」


「おはよう…あれ。それあいつの刀じゃん。なんでオペが持ってるんだ?奪ったのか?」


「これか?これはな…」

オペは刀を鞘から少し抜いた。年季の入っている、しかし手入れされてよく輝く刀身を見て、オペは少し笑みを浮かべ言った。




「『おもてなし』…だよ』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ