[第26記]カリスのおもてなし
「くっそ…インチキ技め…!」
ルドは文句をこぼしながら周囲を警戒している。
ザッザッザッザッ…
ルドのまわりの紅葉が凹んでいく。まるで透明な人間が走り回っているような。バサァ!紅葉がすべて上に舞いカリスが姿を現す。
ガキィン!
後ろから飛んで来た銃弾を斬り落とすと、カリスは少し困惑したように後ろを見回した。
「オレの足元見てなにか気づかないかい?」
ルドに言われカリスは下に目をやる。なんとルドの足元には影がなかった。
「あんたの後ろに影が回りこんだのさ。さっき外した弾を回収して撃ってもらった。」
ルドの影が動く。影になっていない部分で目と角、蝶ネクタイのようなものが付いている。
「なるほど…面白い呪いですね。」
「そりゃどーも。」
「ぴったりな技で良かったです。月冬鱗。」
吹雪が辺り一帯を襲う。あまりにも濃い雪で一寸先も見えなくなり、足元の影…というか足すらも見えなくなっしまった。
「はっ…マジでカウンターかよ…」
動くことすらできなくなったルドは立ち尽くす。すると後ろからカリスの刃が迫る。
ゴンッ…刀はみね打ち。ルドは気を失った。
「ルド!クッ…オレも吹雪で何もできなかった…!」
「ではさようなら。春時雨」
カリスは連続で細かい斬撃を繰り出した。ガードするオペの手が少し斬られる。
「グッ…」オペも思わず痛みで声を漏らした。
「耐えるんですね…」
カリスは再び上空に飛び上がり急降下する。それをオペは離れて避けた。するとカリスは消え、紅葉が地面を覆った。するとオペは後ろへ回し蹴りをした。
ドガッ!カリスの顔に蹴りが入った。
「ふっ…やりますね。まさか食らうとは」
「葉っぱが動いた瞬間に蹴っただけだ。お前、順番にしか技出せないだろ。じゃないと雪の技で俺を殺さない説明がつかない。」
「ご名答…!ただ私も騎士道を重んじる人間です。最後は小細工なしで行きましょう。」
カリスは瞬く間にオペに接近し刀の柄で腹を突いた。
「ぐっ!だが体制を崩したな…!」
オペは脇腹を蹴り服をつかんでカリスを投げる。
「力がお強いことで…!」
みね打ちでオペの首を刀で叩いた。
「クソッ…」
オペが身体に残った力を振り絞りハンマーを振る。
「まだまだ甘いですね!」
ザギッ!オペの持っているハンマーが粉々に斬られてしまった。オペは地面へ倒れ込む。
「これで防御は出来ない…終わりです!」
カリスが刀を頭の後ろへ振りかぶる。
シュッ…
刀がオペの頭に向かって振られ…
バシィッ!
「…白刃取り!?」オペはニヤリと笑いパキッと刀を折った。カリスは懐から小刀を出し振ろうとする。しかしオペに奪われてしまう。そしてオペはカリスを押し倒し小刀を…
ダ ン ッ
「…なぜ殺さないんですか?念願のレガリオですよ」
顔の真横の地面に刃が刺さっているまま話す。
「言っただろ。『倒す』ってな。今俺はあんたを押し倒してる。もう満足だよ」
オペが離れる。カリスは服をはたいた後に笑った。
「ハハッ…情けをかけるとは…騎士にとってはあるまじき行為ですね。まだ人情を捨てきれていない。」
「…人情を捨てきれてないのはどっちだよ。あんたは俺を殺すチャンスを何回も無駄にした。なぜだ?」
「…私はね。実は好きなんですよ。保呪者が。」
カリスは切なげに桜の樹を見て思いにふけった。
「私、この町に生まれてからずっと、古き良き緋鶴が政府に台無しにされていくのを見てきました。かろうじて残っている寺もありますが、ほとんどが洋風建築に置き換わってますし。でもこの町の保呪者は緋鶴を守るために戦ってます。矯正するのではなく、ありのままの良さを嗜む。そんな彼らの生き様が…私は好きだ。」
「…………………」
オペは何も言わず、ただカリスの話を聞いた。
「…さぁ、どうします?私を捕らえますか?」
「いや。俺たちと一緒に戦ってくれ。アジトには俺から紹介する。カリスがいれば心強い。だから…」
「お断りします。」と、カリスはオペの誘いを遮った。
「貴方の敵は辞めますが、政府に借りがあるのも事実。だから中立…ということにさせてください。」
カリスは全能統治軍のマークに手を当て頭を下げた。
「それで充分だ、ありがたい」
オペが手を差し出すと、カリスは優しく微笑んで手を握る。二人でルドを運び飛行機に向かう。
「…じゃあ。俺は行くよ。緋鶴…いい町だった。」
飛行機のエンジンがつき、プロペラが回り始める。
「えぇ、私も案内するのは楽しかったですよ。あと…これを貴方に渡しておきます。」
カリスは刀を鞘ごと外すと、両手でオペに渡す。
「炎や雪は出ませんが…急上昇や透明化などの機能は使えます。貴方のハンマーは心細いので。」
「いや…貰えない。これはあんたのものだ。」
「必要ないですよ。私には。それに…最後に見送りとしてお土産をあげなければ。それも含めての『おもてなし』…でしょう?」
「ははっ!そうだな。じゃあ…元気でな」
「ええ。どうか達者で。」
飛行機が動きカリスから離れていく。窓からは朝日が昇りかけている空と一面の桜が見えた。
緋鶴を飛び立って数分後、ルドが目を覚ます。
「いてて…あれ?決着ついたのか。すまねぇ」
「あぁ。もう勝負は終わったよ。おはようルド。」
「おはよう…あれ。それあいつの刀じゃん。なんでオペが持ってるんだ?奪ったのか?」
「これか?これはな…」
オペは刀を鞘から少し抜いた。年季の入っている、しかし手入れされてよく輝く刀身を見て、オペは少し笑みを浮かべ言った。
「『おもてなし』…だよ』」