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[第21記]一度目の再開

―2320年

「うぅむ…最近獣人が増えてきてるな…」


周りをみてつぶやく。アウダさんはとっくに亡くなった。彼女の息子とも遊んだけど、大人になっていくにつれて辛くなってきて…死ぬ前に離れた。そこからはどうしているか、どこに居るかもわからない。

貯金額も小さな国の国家資産を上回る程度には増え、この世にある資格もだいたい取得した。


「うわ!お前やば!落としたやつだぞ!」

街にいる獣人が道に落ちた食べ物を食べる。


「行儀悪いなぁー…恵まれてるのは身体だけか」

ボクはため息をついてその獣人を軽蔑の目でみた。


「暇だな、やる事ない…」

空を眺め、ボーッとして暇潰し方法を考える。

すると後ろから何者かに腕を掴まれる。


「ひっ…!?」

路地裏に連れていかれる。そこには数人の男がいた。


「何するんですか…!?」


「実験だよ…」

男の1人が注射器を取り出す。指で針を弾く。


「嫌…!やめて…!」

身をよじって抜け出そうとする。でも肉体的には15歳から変わっていないボクは、数人の男に押さえつけられて全く動けない。


プスッ……ドクン…ドクン…

注射針が腕に刺され、中の怪しげに光る液体が自分の身体に入ってくる。ボクはそれをただ凝視する。


「んぅぅ…!体…熱い…!」

ボクを取り押さえていた男たちは手を離してボクから距離を取った。


「うぅぅうううぅぅ!」

咆哮をあげる。これは…ボクの声なのか…?


「ぐっ…!あああぁぁ…」

体毛が急激に生え伸びる。耳は変形し、垂れ…

黒い髪は白く変色し、鼻は黒くなる。


「はぁっ…はぁっ……」

腕をついて倒れこむ。


「すげぇ…ほんとに獣人になりやがった…!」


「マジかよ…!」


「こいつ可愛いじゃん!俺、最初がいい!」

前から音がする…なにをするつもり…?


「やめて…」

男がボクの上から覆いかぶさってくる。


「お願いやめて…!」

ボクだって知識はある。でも、ボク男なのに。


「動くなって!はは…お前首細いな」

…ガシッ…と首を絞められる。苦しい。


「あ…」


「見ろよ!泣いちゃってるぜ、可愛いな」

痛い。苦しい。気持ち悪い。


「獣人で弱いとか…俺らにぴったりだよ」

気持ち悪い。


こいつの体温こいつの感触こいつの匂いこいつの重みこいつのこいつのこいつのこいつの……


ボクが感じたのは殺意じゃなければ、快楽でもない。ひたすらな…虚無。


なんて弱いんだろう。こんなやつに組み伏せられるなんて。自分のすすり泣く声が聞こえる。心も弱い。やっぱり世界を変えるなんてボクには無理なんだ。

これが終わったら死んでしまおう。


そう思った時だった。ボクは男たちの身体が輪郭だけになったように見えた。心臓辺りに何かが燃えている。なぜだろう…?そんなことは一切考えず、ボクは迷わずにその炎を握り潰して消した。


バタッ…バタッ…

男が倒れていく。


「…なに…これ…」


服を着直して街に戻り、通行人でも試してみた。

炎の色や大きさは人によって違う事が分かった。

老人の炎は小さく、健康そうな男の炎は大きい。


「…なんとなく理解できた…気がする…」

退屈な日常は壊れた。男としての尊厳を失い、獣人になり、そして奇妙な力を手に入れた。


―2497年

「はぁっ…はぁっ……」

ネオンにまみれた街を走る。後ろには…政府軍。

数年前に急に政権が交代してから、世界は統一されて…獣人をやたらと迫害する軍が出てきた。


「えいっ」


「なんだこれ…ぐぅ…苦し…」

魂の操作もだいぶ慣れてきて、健康体の魂も少しならいじれるようになった。


「はは、捕まらないよ。」

角を曲がり路地裏に入る。しかしそこにも政府軍がいた。こちらに気づき、手を伸ばしてくる。 


「やばっ…」


「うし!捕まえたぜ!」

ボクの垂れ耳を掴みあげる。


「いっ…いたい…!」


「これで金ゲットだな!がはは!」


「あのー…」

路地の入り口から誰かが覗き込む。光でよく見えないが長い耳が生えている。獣人だろうか?


「なんだぁ?今からこいつ連行すんだよ」


「あーそっかそっか…」

その獣人はこちらに歩いてきた。顔があらわになる。

整った顔たちをしている、キツネの獣人だ。


「アタシ、サディって名前なんだ。よろー。」


「ほう。聞いたことねぇな」


「まぁ指名手配されるのももうすぐだな。そいつ、離してくんない?耳痛そうでさー見てらんないよ」


「がははは!嫌だな!断る!」


ザキンッ……ゴトッ

地面に腕が落ちる。


「…は?」


「政府軍の腕も地に落ちたな…物理的に?はは」


「うわぁぁ!?俺の腕が!」


「ごめんなー。悪気ないんだよ」

血のベットリ付いたナイフを拭いながら笑う。


「絶対にあるだろ!」


「…さて、こいつ失血死するだろ。危なかったな」

サディという名のその獣人はナイフをジャケットにしまうと、ボクの頬に飛び散った血を拭った。


「凄い…ありがとうございます…強いですね」


「アタシ、能力者が普通に歩ける素敵な社会を作るためにいろいろとやってんだよ。お前も…」


「こっちだ!音がしたぞ!」

向こうから声がする。


「おっと…逃げないと。お前はそこの扉入れ。安全だから。じゃあな!」


「サディさん…!また会えますか!?」


「…きっと会えるさ」

そう言って笑うと、サディは夜の空へ消えていった。

一瞬、アウダさんの姿が見えた気がした…



「―というのがボクの過去だよ。長くなったね。」



「……………………」

サディは言葉を失った。

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