[第19記]エヌバさん
「まず今回の旅で手に入れた情報は『鐚蟒瀲という何かの設計図』、『政府軍本拠地の所在地』、そしてルドはんがウェイクロックに持ってた情報やな。」
「開けんよ。封筒。」
ルドは封筒を開け、机の上に広げた。
「『全能統治軍の総帥直属の能力者』…なるほど。つまり最高戦力はレガリオだけじゃない…と」
サディが読みげる。
「直属ってことはめっちゃ強いってことちゃう?レガリオ以上に強いとか終わりちゃう?」
ザヤが笑いながら情報の書いた紙をトントン叩く。向かいに立っているルドがザヤを睨みつける。
「…ごめんて。」
「…まぁ強いのは間違いないだろうね。敵は」
ルドはため息をついた後、話をつなげた。
「襲ってきた夢のレガリオが1人、未知数のレガリオが2人、直属の部下が1人、そして総帥…多いな」
オペが指を折って数え、口に手を当てる。
「まぁこの4人とシズもいれば同数だ。やれるぜ」
サディがやる気に満ちた表情をする。
「そうだな…特にザヤとルドは強力だし」
情報をまとめてメモ用紙に書きながら話す。
「…よしっ!」
パン!と手を合わせるザヤ。
「それなりに情報は集まったんちゃう?みんなに伝えに行こか!」
ガチャッ…会議室のドアを開ける。すると広間の方からドン…と何かが倒れるような音がした。サディが広間に急ぐ。ルド達もサディに続いた。
「どうした!?」
サディが広間に入って見た光景は、床に腕をついて倒れこんだ総務班の獣人…周りの静寂しきった獣人たち…そして息を荒くして大量の汗をかいたシズだった。
「何があったんだよ…!?」
「シズが急におれを突き飛ばしてきたんだ!」
倒れこんだ獣人がシズを指差して言う。
「なんかやったんじゃないか…?」
「いや何もしてない!『細い首だな』って言って両手で少し触ろうとしただけだ!」
「はぁっ…はぁっ…ボク…悪く…こいつが…」
シズは過呼吸になっているようだ。
「おれは悪くない!休憩でこいつと話してたら突き飛ばされた!こいつイカれてる!」
周りの獣人たちがシズを怖がり後退りする。
「はぁ…はぁ……サディ様……」
シズがサディに目を向けた。目には少し涙が見える。
「…分かった。シズはアタシが叱っとくよ。みんなは作業なり休憩に戻ってくれ。」
サディはシズの肩にジャケットをかけ、涙で潤んだ目を周りから隠すようにして広間を去る。背中をさすりながら"大丈夫?"と聞きながら。
「…旅の間に本部から回収した私物入れた自室作らせといたけん。使い。向こうの突き当たりを左や」
広間の入口にいるザヤがサディに小声で伝える。
「ありがとう。シズ、アタシの部屋行くぞ」
シズは弱々しくコクリと頷いた。
部屋に入ると、シズはベッドに座った。
ガチャン…
サディはシズの方を向いたまま、後ろの扉を閉める。
「…2人きりで話そうシズ。…アタシとも話したくないか?」
シズの隣にサディが腰を下ろす。安心感が溢れたからだろうか。シズは大粒の涙をながして号泣した。
「…うぅ…うわぁぁん!」
「よしよし…大丈夫…大丈夫だ…」
胸に泣きつくシズをなだめる。
「サディ様…」
「…落ち着いたか?」
「うん…」
「なんで突き飛ばしたりなんかしたんだ?シズは意味もなくあんな事しないはずだろ」
「そうだね…話すとしたら今しかない。全部話すよ、ボクの『過去』について。」
涙を拭いながら深呼吸をする。
「シズの過去…?」
「そうさ。まずボクが6歳の頃から話そうかな…」
―2100年
ボクは孤児だったらしい。両親は産まれた時に左右で目が違う人間であるボクを気味悪がって…施設に預けたんだとか。まぁ…別にいいけどね。なぜなら…
「おいシズ。飯が出来た。こい」
「はぁーい!」
「どうだ?美味いか?」
「美味しいよ、エヌバさん!」
「そうか」
…このひとは"エヌバさん"。ボクを養子として拾ってくれた…凄く優しいひと。黒いコートに赤い目をしててかっこいい…ヒゲ生えてるけど。
「お父さんって呼んでもらっていいんだけどな」
エヌバさんがボクの黒くてみじかい髪を撫でながら、少し困った顔をする。
「絶対に呼ばないよーだ」
照れ隠しで口を尖らせそう言う。
「こうゆうのなんだっけ、がんこ?あんこきょひ?」
「断固拒否……もうちょっと勉強したらどうだ?」
「やだよぉ…めんどくさいもん!」
ボクはニコッとして笑う。勉強が嫌いだから。
「…本は良いぞ。時空も場所も越えて好きな世界に繋がれるんだ。読めばいいのに。」
エヌバさんは勤勉で…ボクが遊んでいる間ずっと何かを研究している。
「エヌバさんどうゆう本よむの?」
行儀悪くフォークをエヌバさんに向ける。
「はぁ…シズ、お行儀悪いぞ」
「ごめんなさぁ〜い」
ずっとエヌバさんといたい…その思いが間違った方向で神に届いてしまったのだろうか。ボクはとんでもない形で願いを叶えられることになる。
―2109年
「…どうゆうことですか?」
エヌバさんが焦っている。病院でボクの隣に座って、先生の話を聞いては心配そうにボクを見る。なにを心配しているんだろう。ボクはどこも悪くないのに。
「…なぁシズ?お前は病気を持っているらしい」
「エヌバさん…ボク健康だよ?」
「…それが問題なんだ。健康すぎるのが…『不老症』なのが問題なんだよシズ」
「ふ…ろう…しょー?」
「つまりお前は歳を取らないんだよ。肉体の成長が完全に止まってるんだ。寿命で死なないんだ」
「すごい!ボク死なないの!?」
「…ああ。だがいつか私も死ぬ。お前だけ残されるのが心配で仕方ない…」
「エヌバさんが?死ぬの?」
「この先な。」
お互いに沈黙する。ボクは少しうつむいた。するとエヌバさんが近くにきて屈み、ボクを抱きしめた。
「シズ。私が死んでどうしようもなくなったら…遺産で本を買いなさい。数多の著作家たちがお前にいろんなことを教えてくれる。」
「…気が向いたらね」
「…それでいい。ありがとう…」
エヌバさんはさらに強くボクを抱きしめる。
その夜は家のベランダから一緒に星を眺めた。
「…シズ。私の夢を聞いてくれるかい?」
星を眺めたままエヌバさんが話しかけてくる。
「…うん」
ボクはいつもとは違うエヌバさんの声に戸惑いながらも、静かに答え"夢"を聞くことにした。