[第17記]マルディエ・ロンドストン
「見えてきましたよ。」
「おっ、もうすぐ着きそうだな」
窓から見えるのは乾燥した土地に木造住宅が立ち並ぶ西部特有の雰囲気がただよう町。
フィーン…
飛行機が着陸した。
「よし」
「うちは飛行機で待っとるわー…」
ザリッ…
砂にまみれた地面に靴底が触れる。
ザリッ…ザリッ…
「…乾いてるな。」
オペが軽い咳をし、上の看板を見上げる。
「welcome to the Wayke Rock(ウェイクロックへようこそ!)」
掠れた文字でそう書かれているゲートが、風でギィギィと音を立てる。
「じゃあそこにあるバーで話を聞こう」
カランカラン…
「らっしゃーい!」
「あぁ、どう……も…!?」
サディが驚く。カウンターの先でグラスを磨いていたのは…片目に傷がついた獣人だった。
「えっ…獣人…?」
周りの席を見渡す。数人の客も全員が獣人だった。
「待てよ…ボクたちはこの町に入ってから人間を見ていない…!」
「お客様、この町は初めてですか?この町では政府軍の干渉を受けず保呪者の生活を保護しております」
「そんなことが…」
「えぇ、可能ですぜ。たまに遠征軍が来ますが、そのたびにルド様が返り討ちにしてくれるので…なにも心配いらないんす!」
「この町にいるめっちゃ強い保呪者はその『ルド』なのか?ちょっとそいつと会わせてくれ」
カランカラン…
「マスター、いつもの」
「いらっしゃいませー!」
牛のような獣人が店に入ってくる。茶色いカウボーイハットにジャケット、ブーツ…いかにも西部のような装いだ。その獣人はオペの隣に座る。
「…見ない顔だねぇ。新しいお客さんかい?」
「あぁ…政府軍とやりあうためにこの町にいる強い保呪者を探しに来た。」
「なるほどねぇ……どうも」
マスターからボトルを受け取る。
ポンッ
牛の獣人は腕を使いコルク栓を開ける。栓が店の高い天井まで勢いよく飛んだ。
「かっけぇ!なんて名前だ?アタシはサディ!」
らっしゃーい、というマスターの掛け声、客の雑踏。その中でサディは目を輝かせて聞く。
「マルディエ・ロンドストン…ってオレの両親は言ってたが…好きに呼んでもらって構わないぜ」
ワインをグラスに注ぎながら答える。
「マルディエか…!さっき話してたんだけどこの町にめっちゃ強え保呪者がいるらしいんだよ、なんか良い情報知らないか?」
「へぇ?なんで探してるのかは知らねえけど…この町の戦闘力が全体的に高いのは知ってんよ」
グラスを傾け、逃げるワインを見つめながら答える。
「ルドってアタシらより強いのか?」
「たはっ!嬢ちゃん、全身自信コーデかい!いいねぇその精神…気に入ったよ!」
豪快に笑い、赤髪がゆらめく。
「いやぁ…ありがとう…」
「じゃあこのあと中央にある塔に来な。いろいろと協力してやるさぁ。情報もやる。あと…ルドのところにも案内してやるよ。」
マルディエは席を立つと、指をクイ…と動かした。
「やったなオペ!」
カランカラン…
店を出て賑やかな商店街を歩く。
「お兄ちゃんかっこいいー!」
獣人の少女がオペを指差す。
「こら!すいません…」
「いえいえ。可愛い娘さんだな」
「あら〜ありがとうございます〜!」
嬉しそうにお辞儀をしながら少女の手を引く。
「…おっ、新人さん?リンゴいる?」
「えっいいのか!?サンキュー!」
シャクッ…
「うまぁ〜!」
ニコニコとした笑顔でサディはリンゴをかじる。
「ふふ、もう1個食べな!」
屋台の店員がリンゴを投げる。
「良いのか?悪いよ…」
「そんな美味そうに食べられるとこっちも嬉しいんだよ、遠慮せずくいな!」
「そこの白くて可愛いお嬢ちゃん!焼き鳥いる?」
「あっ大丈夫です…あとボク男です」
「あっおっけ……え?」
「…こんなに獣人が表立って生活してるのは…なんだか違和感があるね。」
シズが慣れない空間に少し戸惑いながら言う。
「ここは保呪者…あと獣人だからって差別されてきた奴らが好きに生活してんのさ。」
「なるほど…」
「この町には洒落た言葉があってね。『ウェイクロックに訪れし者、町を家族と思え』って言葉があるのさ。だからあんたらも家族と思って良いんだよ」
「はぇ〜…」
「まぁ続きもあるんだけど…続きは」
フォォン…
「……なんだ?」
バラララララ……
上空に黒いヘリコプターが見える。
「新しい保呪者かな?」
サディは手を目の上に当て、ヘリを見る。
「…いや。」
ヘリを見た後、マルディエは腰のホルダーからリボルバーを取り出し、弾を確認した。
「野郎共!政府からクソがご来店だ!隠れろ!」
マルディエの叫び声が町に響く。