[第14記]マリンヴェルタで本心を
「こいつとか言わないでよ…リオネどうする?自分で自己紹介する?」
「あ…うん!えっと…僕は…僕…リオ…ネ」
「うち、ザヤっちゅうねん!よろしく頼むわ」
「僕は…えっと…」
「ゆっくりでいいよ」
「シズりんごめん…あの…この人たちに服着てもらっていい?」
リオネがヒレで両目を隠す。
「すまん。着てくるけん待っとって」
「…ふぅ…改めて、僕はリオネビット・リフェルド。リオネでいいよ。DDっていう郵便配達サービスをしてるんだ」
「郵便…どうやって?」
「え?泳いで」
「濡れないのか?」
「あー…えっとね、この肩掛けバッグあるでしょ?このバッグ防水なんだよね。」
「シズちんとはどうやって知り合ったん?」
「シズりんは僕がここで泣いてるところを相談に乗ってくれたんだー。」
「ほぉーっ」
「リオネは…昔…言っていい?」
シズがリオネに小声で確認する。リオネは頷いた。
「リオネは昔、イルカとつがいになったんだけど騙されちゃって一文無しになっちゃったんだよ。ボクその時たまたまこの町に来てたから泣き声を聞きつけて…で、呪いの活用法として郵便屋を提案したわけ」
「あっ…保呪者なん?」
「あ…うん。バブルリングを出してワープゲートを作れるっていう呪いで。1000km先まで作れるよ。」
「…え、つよない?」
「ね。強いよね。」
シズが共感する。
「ありがとう…ザヤさんはどんな呪いなの?」
「うち?うちは…あぁー…」
「…あっ、持ってない…?」
「いや…持ってるねんけど…あんまり手の内晒したくないけん。」
「そっか…ごめんね…」
「いや、ええんよ。」
「…でシズりんは僕に会いたかっただけ?僕も会いたかったよ!」
「それもあるんだけど…運んで欲しいものが」
シズがオペの方をみる。
「あぁ…この封筒をベレケンヤードのSIM支部に届けてくれ。場所はここ…」
オペが封筒と地図を取り出しリオネに寄る。
「うんうん…分かった!」
「遠い場所だが大丈夫か?少し内陸部だし…」
「僕のゲート内は距離が1000分の1まで圧縮されるからすぐ着くよ!モノ限定の小型ゲートも作れるから正確な位置さえ知れればへっちゃらさ!」
「頼もしいな…!じゃあお願いするよ」
「うん!はい、どーぞ!」
リオネが鞄のフタを開け、オペが封筒を入れる。
「じゃあ行くぞ。」
海岸を去るオペにみんながついていく。
「…またねー!」
リオネがヒレをめいいっぱい振る。
「…………」
タタッ…
ザヤが小走りでリオネの方へ近寄る。
「……ザヤさん?うわっ!」
リオネの頬に、ザヤは両手を優しく添えた
「うちね、リオネちゃんのこと好いとーよ。素直で純粋で可愛くてしゃーない。だから特別に教えてあげるわ…うちの呪いは―」
「……どう?」
「…呪いだね…ほんとに…。ザヤさん…あなたはそんな能力で戦ってるの…?」
「……そうやね。じゃ。うちいくわ」
ザヤは静かに両手を離し、走り始める。
「…まって!」
「…………」
ザヤが立ち止まる。しかし振り返らない…
「僕…もっとザヤさんの話聞きたい!またこの町に来て!絶対に来てよ!僕…待ってるから!」
「…うん」
「じゃあねっ!」
リオネは水中にリングを作り、逃げるようにその中へ入っていった。
「…すまんな、遅れたわ!」
「ザヤ…どうしたんだ?顔が赤いぞ」
「え?そんな事あらへんで…」
パンッパンッ
ザヤは手で自分の両頬を叩き自身に喝をいれた。
「よしっ!行こか!」
「マリンヴェルタの支部はどこにあるんだ?」
「あぁーこっちや」
ザヤが案内した先にあったのは、廃れた釣り用具店だった。中に入りルアーの1つを下に引っ張ると、仕掛けが動き隠し扉が現れる。
ブワァッ…
「ゲホッ…なんだ急に…埃がすごいな…」
「ゲホッゲホッ…」
ザヤが手を仰いで煙をどける。
「…ふぅ、よし。この中に機密情報があるんだな。」
オペが扉に手をかける。
ガチャッ…
「なっ…アジトじゃないのか!?」
「アジトのはずやで?何があるん?」
「台座の上に封筒だけがある…」
「そんな単純な作りなわけが…」
シズが驚く。
「封筒…開けて見ようぜ」
サディが言う。
「そうだな……………」
封筒を開け中身を見た瞬間、オペは絶句した。
「…嘘だろ」
「なんだ!?何が書いてあった!?」
「…みてくれ」
オペが中身を見せる。
「…白紙だね。」
シズが言う。
「こんなことが…」
バタッ…
「…ザヤ?」
気を失ったようにザヤが倒れる。
「ザヤ!…オペ。聞いてくれ。」
シズが駆け寄る。何かに気づくとシズは動揺した。
「脈が…完全に止まってる…」
「なっ…」
「もう手遅れだよ。ボクに出来る事はない…」
「終わりだ…」
シズが鎌を取り出し刃を光らせる。
「シズ?何してるんだ?」
「ごめんね…オペ…ボクもうダメだ…」
シズが鎌の刃を自らの首筋に当てる。
「シズ…よせ…」
ヴォウン…
ゴトッ…
…シズの頭が体と別れを告げる。
「シズーー!!」
「もう…アタシも逃げるしか…」
「サディ!やめろ!」
オペが自身の首にナイフを刺すサディの腕を掴む。
「死なせろよ…アタシのこと好きなんだろ?じゃあ意見を尊重してくれよ…頼む…」
「あぁ…好きだ…!だからやめろ!俺と生きろ…!」
「オペ…アタシはあんたの事嫌いだったよ…」
「えっ…?」
オペの手が少し緩む。ナイフは更にサディの首に深く刺さり、サディの口から血がポタポタと垂れる。
「あぁスゲー嫌いさ…初めて助けてくれた時も下心しか感じなかったし…アタシのこと守ってもくれねぇ…信頼してるからか知らねえけどいっつもアタシ任せ…」
ドサッ…
オペがゆっくりとナイフから手を離す。サディは目の輝きを失い、冷たい床に横たわった。
オペは床にへたり込む。
「すまない…」
「ごめん…ごめん…!帰ってきてくれサディ!!」
サディの亡骸を抱きかかえると、オペは号泣した。