[第13記]透き通る町
「…もしかしてそなた」
「なに?集中しなよ」
シズが鎌を鉄パイプに押しつけながら言う。
「そなたまさか、五感すべてが無事じゃな?」
エウロパ鉄パイプを鎌に押しつけながら問う。
「あはは、バレた?」
ガキィン!
両者共が後ろへ飛ぶ。
「そうだよ。キミの声は聞こえ…姿を知覚し…攻撃の感覚もある。」
「…わらわの力でそんなことはありえない…そなたは味覚か嗅覚を最も重要視している…と?」
「ボクは第六感を持ってるからね。これでもキミの魂を操れないから苦労してるほうなんだよ?」
「そんなことが…」
「俺のことも気にしたほうが身のためだぞ」
ドガァッ
「くっ…そなたも第六感持ちか…!?」
「俺は多分…触覚だな。さっきもお前を触ったのにも関わらず、まったく感覚がなかった。」
ベキャァ
「胴体、がら空きだよ?」
シズがエウロパに一撃を入れる。
「貴様らのような愚民に負けるわけには…!」
「五感のうち大事な1つを奪う能力で何も奪えないなんて…皮肉だね。」
シズが鎌の柄でエウロパの腹を突く。
「ぐはぁっ…」
シャン…キィン!
エウロパがナイフでオペに斬りかかる。しかしシズが鎌でナイフを弾き飛ばす。
ドッ…
シズが鎌で攻撃するも、エウロパは蹴りでシズを飛ばした。しかしオペも腕を掴みエウロパを投げる。
「これもあるんじゃな…!」
エウロパが銃を取り出しサディに発砲する。
ヴォン…キュイン…カカカッ…
シズがサディの前に滑り込み、すかさず鎌を振り回す。足元に真っ二つになった数発の弾丸が落ちた。
ボガッ…ガチャン…
オペが銃を持っている手を掴み壁に叩きつける。
「くっ…」
エウロパが落ちた銃を拾い、オペに向ける。
ヴォン…キィィン…
シズの鎌についた光刄が銃身を焼き切った。
「させないよ。」
「クソッ、こうなったら…」
エウロパがサディにナイフを向け走る。
「やらせない。」
オペがエウロパに飛び蹴りをした。
ドガッ
気絶して倒れたエウロパを見て、オペとシズが深く息をした。
「やったな…」
オペがシズに手のひらをむける。
「……………握手はしないよ」
「ん…そうか…」
パンッ…
「こうゆう時はハイタッチ…だろ?」
シズは手を叩き、照れくさそうに笑った。
「ははっ…そうだな!」
「…ごめんなアタシ何もできなくて…」
「…いや、視覚を奪われて戦闘とか無理でしょ。サディ様は悪くないよ。」
「じゃあ最重要情報でも見るとするか」
「そうだね」
「…あの、彼女はどうすれば…?」
案内人が尋ねる。
「厳重に拘束しておいてくれ。尋問する。」
シズが答える。
「そうだな…サディに頼めば一瞬だ」
「レガリオが回収しに来てたってことはめっちゃ重要なんだろうな。開けてみようぜ」
サディがワクワクした様子で話す。
「…あけるぞ」
ペリ…
「えっと…『鐚蟒瀲』って書いてあるな。」
シズが覗き込む。
「これは…何かの設計図っぽいね。なんかたくさん武器らしいものが書いてあるけど。」
「なぁ、これはいつ頃の設計図なんだ?」
案内人が口を開く。
「それは…ちょうど2日前のものですね」
「なるほど…」
―全能統治軍 メカニックルーム
「どうだ。進捗は…」
「ロダー様。もちろん順調でございます。」
「これが完成したら戦力はどのくらいだね」
「だいたいレガリオ6人分くらいですかね」
「ふふ…充分だよ。」
「…では作業へ戻ります」
「私も研究があるのでね。頑張ってくれよ」
「承知致しました」
―ルネル 滑走路
「うし、次の情報が入った。次行くで」
「次はどこに行くんだ?」
「マリンヴェルタや。海沿いの素敵な町やね」
「あ…その町ボク知ってる。」
「シズちん行ったことあるん?」
「あるよ。知り合いがいるんだ。」
「おぉ。会ってみたいな」
「あいつは人が好きだから喜んで会うよ」
「なぁ…」
ニックが話す。
「政府の情報だけどさ、メールとかで送ったりとか出来ないのか?」
「…………無理だな。政府の規模で調べられたら一瞬で特定される。」
「そうなのか…じゃあ設計図を本部に届けるのも一苦労だな」
「あー…そうだな」
「いや…!」
シズが何かを閃いたように顔をあげる。
「さっき言ったボクの知り合い…本部に設計図を届けるのにピッタリだ…!」
「シズの知り合いどんな奴なんだろうな」
サディが興味津々に聞く。
「多分シズみたいなやつなんだろうな」
オペが笑いながら言う。
「……どうだろうね」
「みんな今からどこに行くか分かっとる!?」
運転しながらザヤが話す。なぜかテンションが高い。
「……マリンヴェルタだろ?」
ニックが言う。
「半分正解!マリンヴェルタは何がある! 」
「…海?」
オペが答える。
「せーかい!サディはん、そこの袋開けぇ」
ガサガサ…
「どれどれ…うぉぉ!?」
「なんだ!?」
「うちがルネルでこっそり買おててん。」
「み…水着だぁー!」
「泳がな損やで!」
フィーン…
飛行機が着陸する。周りには装飾が施された家が並んでいて、坂を下った先には一面の海が広がっていた。
「うわぁ〜綺麗だな!ニックもこいよ!」
サディが海に飛びこみ笑う。
「凄いぞ…海が透き通ってる!サンゴがあるぞ!」
「ちょっと…オレ泳げねぇから…うえっしょっぱ!」
「ひひひっ…アタシの攻撃を食らったな?」
「あんたらはしゃいどるなぁ!うちも混ぜぇ!」
「シズ!何やってんだ?お前も入れよ!」
「いや。ボクはいいや。それよりそこ危ないよ」
「え?」
ザバァー!
ニックの目の前に大きな影が現れる。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
ニックが叫ぶ。
「ぴぎゃぁぁぁぁ!?」
その生物も叫び声をあげる。
「……あぅぅ…」
その生物はイルカのような見た目だった。黄銅色のチョッキと緑色のネクタイを身に着け、黄銅色の郵便帽を被っていた。チョッキと帽子にはしずくと波、郵便マークが組み合わせられた様な飾りが付いている。瞳は黄緑に輝いている。
「なんや?可愛えやんおっきいけど」
ザヤがそのイルカを撫でる
「ちょ…やめて下さいお姉さん…」
「……よっ。」
シズがイルカに近づく。
「わ!シズりん?久しぶりだね!」
「え?まさかこいつがシズの知り合い?」
ニックが震えた手で現れたイルカを指差す。
イルカはニコニコとした顔でニックに笑いかけた。