[第12記]人はいつも五感頼り
「なぁ、ニックの仲間はどこにいるんだ?1人でこの島に来たわけではないだろう?」
「いや、オレはわりと強めの方だと思われてたっぽくてな。いったん戻るって言ってたよ」
「ん…おはよ」
シズが起きると、浜辺でオペとニックが話していた。しかしニックの拘束は解かれている。
「あれ、拘束解いたの?」
「イカれた夢を聞いたらオレも見たくなっちまってな。あんたらについていくよ。」
「そうなんだ。それはよかった」
「なぁなぁ、救援が来たぞ。はよう乗るで」
「分かった」
全員で飛行機に乗り込む。
「…ザヤさん、こいつ政府軍では?」
飛行機には2人の戦闘班員がいた。
「せやねんけどな。オペが説得して仲間にしてん」
「それはすごい。目的地はルネルで良いんですよね?」
「おう、たのむで」
フィィィン…
しばらくして飛行機が着陸する。
「…着いたみたいやね」
「よし…ここに機密情報が」
トタッ…
ザヤが飛行機から飛び降りて両手を広げる。
「おいでませ〜都会の象徴ルネルへ!」
「高層ビルが多いな」
「ルネルは他より発展しとるからなぁ」
「さて、さっそく行こう」
「ちょい待ち。ちょっと遊ぼうや」
「…まぁいいが」
「やりぃー」
ガコォン!
「うわっ…またスペアだ…」
「オペはんボウリング下手やね!手本見せたる!」
ガコォォン
「うっし!ストライクや!」
ガコォォン
隣のレーンのピンが大量に倒れる。
「悪いね。ボクもボウリングは得意なのさ」
「シズちんやるやん。」
「ボクたちがボウリング王者だね」
ガコォォン
さらに隣のレーンからストライクの音がなる。
「オレもガキのときにめっちゃやってたんだぜ?」
「ニックもやるじゃないか。勝負しようよ」
「良いけど何か賭けようぜ?」
「じゃあたい焼き奢りでどうや?」
「望むところだよ」
「いいぜ」
サクッ…
「いやぁー!たい焼きがいっちゃん好きや〜!とくに人の金で食う」
幸せそうな顔でザヤがたい焼きを頬張る。
「破格の安さだね。この美味しさでさ」
「くそっ…俺が負けるなんて…!」
「ニック…元気出せって!」
サディが元気づける。どうやらたい焼きはニックの奢りになったようだ。
「同点だったけど次は負けん」
「いいの?自分から負けにくるとはね」
「いつか絶対に決着付けよな」
「そうだね。ちゃんとボクが勝たないと」
そうして遊んだあと、5人はSIMルネル支部に向かう。長い間遊んだからか、高層ビルの窓は既に夕日をうつし始めていた。
「楽しかったなぁ。あ、そこのビルや。」
ガチャ…
「お待ちしておりました…なぜ予定よりこんなに遅れたのですか?」
「あーボウリングやっててん。すまんな」
「は?ボウリング?遅刻しといて?」
「すまへん」
「あ…いえいえ…言葉遣いが荒くなってしまい申し訳ないです。」
「で、機密情報ってのはどこや?」
「はい。地下にございます」
「さっそく見たい。」
「かしこまりました。こちらへ。」
「ほな一旦バイバイや。うちはまだ事務作業が残っとるからな。余ってる部屋とパソコンくれん?」
「はい。あちらにございます。」
「…情報は後で伝えるよ」
「はいはーい。ほなな。」
ザヤはこちらを見ずに手を振った。
「ここから地下に降りればいいのか?」
「はい。」
カン…カン…カン…
ガチャ…
鉄網で出来た足場を渡り厳重な扉を開けようとしたその瞬間、警報がなり響いた。
ジリリリリリリリリリ!!
「なんだ!?」
「政府の機密情報が盗まれたようです!」
ボガァァァァァァン…
扉が爆発した。中には人がいる。
「おい!貴様!機密情報の紙を手放せ!」
「ではそなたはその命を手放すがよい。おぉ。これで同価値。取引というものではないか?」
封筒をヒラヒラさせながら現れたのは全身を黒い服に包んだ褐色肌で赤髪の女。ニット帽には政府軍のマークが付いている。襟付きのパーカーに片手を突っ込んでいる。
「…レガリオだ」
後ろからその女を見たニックが小声で伝える。
「なぜレガリオがここにいる?」
オペが小声でニックに話す。
「多分…最重要情報なんだと思う…」
「…ならここで退くわけにはいかないな」
オペが女の方へ歩いていく。
「正気か!?死ぬぞ!」
「おい、お前レガリオらしいな。その情報がいるんだ。渡してくれないか?」
「なんじゃ?わらわのことを知っておるのか?すまぬのぉ…そなたの顔には覚えがない」
「俺はSIMの総司令…オペロジャックだ」
その言葉を聞いた瞬間、女が顔色を変える。
「ほう…?じゃあそなたを殺せば我が御仁は安心ということじゃな?」
「やってみろ…」
「わらわの名は『エウロパ』じゃ。惜しみなく力を使わせて貰うぞ?」
封筒をポケットにしまい、両手を構える。
パン…
「剥核。」
エウロパが手を合わせた。
「………?何が起きた?」
「ではこの娘から殺すとしようかの?」
エウロパはサディの方へ歩いていき、サディの喉元にナイフを突きつける。
「サディ!」
「え…?」
サディが横を見回す。
「……いないぞ?どこだ?」
「は…?」
「オペさん、何を言っているんですか?」
サディの横にいる案内人が言う。
「見えてないのか…?」
「シーッ…」
エウロパはゆっくりと口の前で人差し指を立て、いたずらにナイフでサディの首をなぞる。
「…いっ…!?」
「どうしたんです?サディさん」
「…いや…虫が…」
「エウロパぁぁ!」
オペが叫ぶ。
「ひゃっひゃ!愉快じゃ!そなたしかわらわを認識出来ぬとは…なんとも愚かな…」
ドコォッ
サディが腕を振り、そしてエウロパの胸に当たった。
「…ま、認識できん相手への攻撃などこんなものよな。痛くもかゆくもないわ」
ドンッ
エウロパがサディを両手で突き飛ばす。
「ぐっ…なんだ…!?どこにいる…!?」
サディが周りを見渡す。
「間抜けじゃのう…まるで…」
ケタケタと笑うエウロパの背後から鎌が襲う。
ヴォンッ…
「…さすがにレガリオが不意打ちは喰らわないよね」
鎌が振られ、白い毛並みが揺れる。
「シズ!あいつが見えるのか!」
「ほう…興味深いのぉ」
エウロパが歩く。シズはそれを目で追った。
「ひゃっひゃっ、本当に見えておるわ。」
「…当然でしょ?」
シズが挑発する。エウロパは目を見開いた。
「…なんと!そなたも耳ではないのか!」
「耳?なんのこと?」
「いや?なんでもない。始めるとするかの?」
「レガリオ…お前をぶっ飛ばして情報貰うからな」
「オペ。行くよ。」
「ああ。」
オペとシズは前へ向きなおり、武器を強く握った。