[第10記]ご愁傷様
「ええってええって。あと…これ付け。」
ザヤは何かを手に握りオペの前に出す。
「軍手…?付けろってことか?」
「シズちんからあんたが不具合の呪い持ってるって聞いたけぇね。飛行機壊されちゃたまらんわ」
「確かに…」
「よし。乗りい。」
「…誰が運転するんだ?この後くるのか?」
座席に座りシートベルトをしたオペが聞く。
「…え?もういるやん」
オペを乗せた後、首をかしげ自分を指差す。
「……ん?」
「ん?運転するのうちやで?」
「…できるのか」
「出来る出来る」
ザヤは3人を載せると、飛行機を走らせ始めた。
周りの木がざわめき、滑走路が遠ざかる。
「…なんやえらい静かやなぁ。朝苦手か?」
「…サディは血圧が低いからな」
「なんで知ってるん?」
海の上を飛びながら、ザヤとオペが談話する。
「…健康診断のときに聞いた」
「一緒に聞いたってこと?ひゃ〜!仲良えなぁ!」
「ちがっ…!本人から聞いただけだ!」
「血圧低いなら朝あんなポヤポヤして飛行機乗ってきたのも頷けるけんね。可愛いかったわぁ」
「…そうなのか。」
「だいぶおねむさんやったねぇ。『オペはまだぁ?』ってあくび混じりに言っとったに」
「それは…可愛らしい」
オペがふとルームミラーを見ると、ザヤがニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
「はっwオペはん顔真っ赤っかやで?サディのこと想像して興奮しちゃったんか?」
「なっ!赤くない!」
「ほんまか〜?」
「んぅ〜…ふぁ〜…」
助手席に座っているシズが背伸びをする。
「おっシズちんが起きはったね。」
「あぁ…ザヤか。運転は順調?」
「もちろんや。途中バードストライクしかけたけど、うちのテクでバッチリ回避したで」
「バードスペアだっただけでしょ」
「いや?バードガターかもしれへん」
「あっははははは!」
「ふふふふふ!やっぱシズちん最高やわぁ」
「ずいぶん仲良くなったんだな」
「オペはんが来るまで話しててんけどなぁ。言葉使いがおもろくてなぁ」
「ボクも驚いてるよ!ここまで話が合う人に出会えるとはね」
「なぁ…ちょっと…」
「何?今ザヤと話してるんだけど」
「いや…前見てくれ」
「ん…?うわぁ!?ザヤ!前前!」
戦闘機がこちらに向かってきている。
「クソッ…しつこいなぁ政府軍…!」
ザヤが舌打ちしながら言う。
「追手がきたのか…!」
バシュー…バシューー…
政府軍の戦闘機からミサイルが飛んでくる。
「まずい…!ミサイルだ!」
シズが窓から顔を出し後ろを見る。
「おい!サディ!起きろ!」
「ん…オペ…どうした」
「ミサイルを見ろ!」
「あぁ…そうゆうことかいな…サディはん!うちに本数と軌道伝えぇ!したらうちが避けたる!」
「あ?…ああ!わかった…!」
すかさず後ろの窓から「真理」の目でミサイルを見る。サディが伝えた情報をもとにザヤは機体を巧みに操り、戦闘機からのミサイルを避けた。
「2本追加で来てる!右からと左フェイントの上!」
「あいよぉ!」
「下のミサイル3秒後爆発!」
「……………!」
ザヤはチラッと何かを確認した後、ハンドルを握りなおして右側に機体を回転させた。しかしそこには政府の戦闘機が。機体同士がぶつかり火を吹いた。
「まずい…!下の島に緊急着陸するで!掴まり!」
飛行機は急激に高度を落として島に墜落した。
「…くっ…墜落したか…」
「ザヤの運転がもう少し上手ければ…」
「いやぁあれは避けれんやろ…道連れが最善や」
「…にしてもここどこだよ」
「どうやらルネルまでの道の半分らへんにある島らしいで。仲間には連絡とったけん、迎え来てもらお」
「すぐの救助は無理だよ。拠点を作ろう」
「男女2組が無人島で遭難…ね。ハプニングかよ」
歩きながらサディがからかったような口調でいう。
「……まったく笑えへんな。」
ザヤがサディを少し見て、ため息をつく。そして深く息を吸い込むと、再び前を向いた。
「なんでだよ?ちょっと面白そうじゃん」
「これがただのドキドキサバイバル生活なら良かったんやけどな。そうゆうわけにもいかへんらしい」
「…どうしてだい?」
シズがツタをよけながら問う。
「…あ、拠点になりそうな場所があるぞ。」
オペが開けた場所を見つけたようだ。
「今海に魚がいたから俺がとってくる。」
「じゃあ火起こしとくね」
「…ふぅ…」
オペが持つ木の槍には魚が大量に刺さっている。
「おぉ〜オペはんごっつかっこええで〜」
…焚き火を囲み、魚を食べながら4人が話す。
「すっかり日も暮れたな。」
「…で、なんでただのサバイバルじゃないんだい?」
「…おかしいと思わへんか?保呪者が4人も乗ってて、あんな猛攻撃してきたのに、墜落したら死体の確認も回収もせず『はいおわり』?ありえんけんね」
「いずれすぐ援軍が来るさ。」
「…いや。墜落してから戦闘機の姿が見えへん。」
「…つまり?」
「この島にはうちら4人だけじゃないかもしれへんなってことや」
「…………」
「…………」
「…………」
「な?ホラーやろ?しかも政府には恐らく呪いに似た異能力を持っとる、位の高い奴もいる可能性が高い。じゃないとうちら取っ捕まえるのは無理やしな」
ザヤが魚の刺さっていた串を揺らしながら説明する。
「…つまりその人工保呪者が来てたら終わり…と?」
「まぁ…そんな心配せんでもええで」
「そうか…とりあえず、今夜は固まって寝よう」
食事を終え、4人は横になり眠りにつく。
「ふぁぁ〜…トイレ行かな…」
深夜、ザヤがゆっくり身体を起こし立ち上がった。
ガサッ…ガサッ…
「……………」
屈んだ姿勢のまま、ザヤはあくびをした。
「はぁ〜すっきり〜…戻ろ…」
ガサガサガサ……
「…なんや?獣か?」
「ひぃぃぃぃやぁぁぁ!」
草むらの中でなにかが緑に輝き、ザヤに殴りかかる。
ガキンッ!
「おぉ?なんかで弾かれたなぁ…オレは全能統治軍の『受能隊』だ…今から君は俺に捕獲される」
緑色の目の男がザヤの前に立つ。
「ふーん…殺すじゃなく捕獲…ねぇ。ええんか?」
「あ?どうゆう意味だ?」
スッ…
バシィッ…
ザヤが右手の人差し指を立て、男に向ける。すると男に向かって小さな鎌が飛んだ。男はそれを腕で弾く。
「…いってぇな…」
「痛かった?すまへんな」
ザヤの周りには小さな鎌が2つ。それらは長い鎖で繋がっている。
「どうしてくれんだこれ…ああ?」
男がザヤに怒鳴る。
「心配せんでもええで…すぐ終わるけぇな」
ザヤは少し笑って構えを取った。
「ふふ…先言っとくで?…ご愁傷様♪」