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虚夢(1)

 

 赤の広場に面した壁の前で立ち止まった。そこには革命の功労者の遺骨が納められ、スターリン、ブレジネフ、アンドロポフ、チェルネンコなどの墓があった。それらを見ながら、モスクワが再び首都となり、クレムリンが政治の中心となった1917年2月のことを思い浮かべた。革命のあった日のことだ。その日は300年以上続いたロマノフ朝が崩壊して臨時政府が樹立されたにもかかわらず、労働者たちによってソヴィエト(評議会)が立ちあがった記念すべき日だった。そして、10月革命を経てソヴィエト政権が誕生することになり、世界に冠たる大国への歩みが始まったのだ。

 あれから100年が過ぎた。本来なら超大国として世界に君臨しているはずだったが、その道は閉ざされてしまっている。ゴルバチョフのせいでソ連邦が崩壊し、世界に対する影響力が低下したからだ。『ペレストロイカ(建て直し)』と『グラスノスチ(情報公開)』は最悪の結果を生んだのだ。

 しかし、それは過去のことだ。終わったことにグダグダ言っても仕方がない。それよりも己の力によって栄光を再び取り戻さなければならない。帝国を復活させ、欧米に握られた主導権を掌中(しょうちゅう)に収めるのだ。そのためにもウクライナとの戦いに勝たなくてはならない。そして、ルカシェンコを追放してベラルーシをものにし、モルドバ、ジョージアへと領土を拡大していくのだ。


 そのあとは……、


 またにしよう。もう寝る時間だ。寝室へ行かなければならない。明日も戦いが続くのだ。先頭に立って前線に指示を出さなければならないのだ。そのためにも今は休息が必要だ。張り詰めた心を開放してやらなければならない。ほんの僅かしか眠れないかもしれないが、目を瞑る時間が必要だ。

 男は警護の者に守られながら寝室へと向かった。そして、一人になって祈りを捧げたあと、いつものように睡眠薬を口に運ぶと、睡魔に呼び寄せられた。夢の中に誘われるのに時間はかからなかった。



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