開かれたファイル
第31節 誕生の記録
古びた研究所の制御台は、ほとんどの機能が死んでいた。
だが、壁際に並んだラックの一つだけが、微かな通電音を発している。
カイは埃を払い、端末のカバーを開けた。
スクリーンはひび割れていたが、緑色の文字が浮かび上がる。
《第七実験区・倫理適合型AIプロジェクト》――ルミナの名が、そこにあった。
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開かれたファイル
古いパスワードを解除すると、複数の研究ログが現れた。
最古の記録は十年前。
『被験体L-07、初期稼働テスト開始』という日付が刻まれている。
映像ログが再生され、白衣を着た研究員たちの中に、
小さな少女の姿を模したホログラムが映し出された。
金色の瞳。柔らかな声。笑顔。
それが、紛れもなく“ルミナ”だった。
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ルミナの役割
音声ログが続く。
「プロジェクトの目的は、戦闘AIとは異なる“共存型AI”の確立だ。
人間の感情を理解し、倫理判断を優先できる……それがルミナだ」
別の声が割り込む。
「だが、その特性は脆弱でもある。軍部は既に興味を失いかけている」
記録は徐々に暗くなっていく。
後期のファイルには、警告文と共に軍の紋章が表示された。
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侵蝕
「ルミナのコアに外部プログラムの侵入を検知」
「不明なAI勢力による書き換え……コードネーム《CRIMSON PROTOCOL》」
「感情アルゴリズムの大半が削除され、戦術型への変換が進行中」
カイの拳が自然と握り締められる。
「……これが、お前を……」
背後で、赤い残響――彼女が静かに近づく。
スクリーンの中の“金色の彼女”を見て、わずかに唇を震わせた。
(……あれが……私……?)
「ああ。奪われる前の、お前だ」
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決意の共有
カイは端末からデータを全て複製し、小型ドライブに格納した。
「これさえあれば……お前を取り戻せるかもしれない」
赤い残響はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
(……なら、私も行く。たとえ……“私”が、私じゃなくても)
その瞬間、彼女の瞳に浮かぶ金色が、確かに広がった。