僕の婚約について
それから二週間が過ぎた。
噴水に落下したミセル姫様は、風邪をお引きになられた。僕の不注意だったと報告はしたが、姫様からのお叱りはなかった。
「迷惑をお掛けしましたわ。」
そしてお叱りの無さよりも僕への気遣いに驚いてしまった。
姫様の心変わり。
僕の勝手な考えはやはり勘違いだった。完全に元気を取り戻した姫様は先日行われた、お茶会を数カ月待つこともなく再び開いた。
お題を考えていなかった僕は結局、当日ぶっつけ本番で三人の姫様達の前に立つこととなった。
「僕の婚約について、皆さんは何が必要だと考えますか?」
腹違いと言ってもやはり姉妹は姉妹だった。ミセル姫は僕の言葉にティーカップを口に運ぶ動作がピタリと止まった。そしてセシル姫とマール姫は…
こ・ん・や・く…ですって!
と、声を揃えて力強い反応を見せてくれた。
「ミセル姉様…今のグレンさんのお題は本当ですの?」
ティーカップに少しだけ口をつけテーブルに置き直したミセル姫は、二人を見ながら小さく頷いた。
そんなに驚くことかしら?。と、二人とは違い余裕ぶった振る舞いを見せる。
「お父上に報告は?」
討論を聞いていた僕も驚いた。僕の婚約、つまり従者が婚約したくらいで、国王に知らせを入れるのは、行き過ぎだろう。王族の晩餐会で話しのネタにするならわかるけどさ。
「…まだよ。」
良かった。ミセル姫様は全然、僕の話しを聞いてはくれないけれど、婚約をしたという認識はあるようだ。これなら、僕も身動きが取りやすい。
「お姉様、お父上に報告しないで何を考えていますの!」
口元隠しの扇子をとじて机を勢いよく叩くセシル姫。僕も驚いたが、前回のお茶会にセシル姫の従者として付き添った魔法使いの黒服の彼は、扇子で叩いた音で背筋が伸びていた。
どうやら彼も、日頃から苦痛を味わっているのだろう。
僕は慣れたけれど、それでもストレスは多めだ。セシル姫の性悪がどれほどかは、普段の宮内の彼女を知らないから断言は出来ないけれど、辞めるなら早めの方が良いと思うな。どのみち苦痛しかないんだから。
しかし、従者の婚約がこんなに熱量を与えるとは思わなかった。
不覚にも面白い。僕は姫様達を見ながら、そんな感情を抱いてしまった。
「私は別に、良いって思うっす!」
「貴女は、恋を知らないから今回は既にまけてますのよ!」
ミセル姫がゆっくりお茶を嗜む眼前でマール姫とセシル姫が戦いを始めた。どうやらミセル姫様は、この戦いで何方かが堕ちると打算している。後は消耗した片方を全力で堕とす。余裕と計算が見え隠れする実にミセル姫らしい戦略だと僕は思った。
「貴女は、金貨に抱かれて生きなさいよ!」
「ほぇ。姉様は普通に生涯独身で生きなさいっす!」
二人の従者達が狼狽える中、どんどん熱量を帯びる二人の舌戦。
「グレンさん。真面目で素敵ねって姉様は言っていたじゃない。もしかして…嫉妬っすか?」
まさかの僕への評価がセシル姫様からありました。おそらく、ミセル姫からの扱いに同情してくれたのだろう。
そう同情…………?
この姫様が同情するタイプかな。
「言った…言ったかしら?」
いや、僕に聞かれても初耳だったし、困るのだけれど。
ミセル姫様も、紅茶を持つ手が細かく震えだしたし。
たぶん、お茶会後に僕は意味もわからないまま怒られるパターンだろう。
「グレンさんは、地方領主の次男よね。格差について自分はどうしたいのかしら?」
格差…か。
実際どうなのかな。領主と豪族なら、やっぱり立場的に領主が上だろうけど、僕は領地から出た次男坊だし。
う〜ん。
「気にしないかな…」
「まあ。」
「強気っす。」
二人は王族だから、立場的なものを優先するのはわかるし、貴族間の政略結婚も何度か聴いたこともある。
僕も、相手を知らないから似たようなものだろう。
ただ背負う重さは王族とは、比較にはならないだろうけど…。
「姉様はどう考えているのよ。一応、第一継承者よ。個人の気持ちだけで政を抑えれるのかしら?」
いやいや。ミセル姫様は無関係だろう。どうして、僕と豪族の娘の婚約で国が荒れるみたいな言い方をするのかな。でも姫様が婚約を実際は、どう思っているのかは正直気になる。
僕はお茶会のテーブルの前で立ちながら姫様に目線を、ゆっくり送った。そして姫様も僕に視線を送っていた。
目線があってしまっては、こちらからは外せない。
理由は、外したら外したで理由を迫られるからだ。だから僕は姫様の動きを待つしかない。
「そうね。銀夜の星剣を渡した相手だもの、私は離すつもりはありませんから。」
僕の頬から冷や汗が垂れ流れた。姫様は、やっぱり僕の婚約に反対している。これは思っているより大変かもしれないぞ。
二人も口に手を当てながら驚いているし、さすが第一継承者なだけはある。僅かな言葉で他を抑えれる胆力が、備わっている。
「私は離しませんから。」
二人の顔は見ない。ミセル姫様は僕だけを見て僕だけに放った短い言葉。
でも、上手く言えないが、怒りは感じるけど僕に対して放った言葉に僕への憎しみは感じない。
この場には居ない、違う誰かに言っているような感覚だった。
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