戦を終わらせた救世主
どうにも、ロナール様に僕の婚約が上手く伝わらない。
露骨に反対されたから正直、この場でどうこうより時間をかけて説得しようと思った。
今日明日で結婚するわけではないから。
そう考えてみると、僕もミセル姫への報告は纏めすぎだと思えてきた。いきなり結末だけ話しても相手にはしてくれないだろう。
もう少し、話しを聞いてもらおう。
大聖堂の鐘が鳴り始めた。日が暮れる前にミセル姫を迎えに行こう。
………………「ど、どうしたんですか?」
珍しい。あの性悪姫様が、俺を見るなり駆け寄って胸ぐらをつかんで涙目を見せてきた。
珍しい。と言うよりも初めてだな…。
「グレン!」
(どうしたんだ姫様。名前単独呼びなんて何年ぶりだろう?。)
「今後のこの国に必要なものは何?。答えなさい。」
なるほど、何時ものお題で押されて悔しがっているんだな。だから僕なんかに助けを求めたんだ。
残念でした。僕は口で打ち負かす学は持ち合わせていないんです。だから的外れな回答をしますけど、そんな奴を従者に選んだ貴女が悪いんですからね。
「剣です。」
アハハハハハ!
先のテーブルから聴こえてきたセシル姫とマール姫のかん高い笑い声。僕を笑っているのはわかるけれど、そんなに笑うような回答はしていないと思うんだけど…
「姉様と同じ回答してますわよグレンさん。」
ミセル姫も剣と答えたのか。別に笑うほどの答えじゃないけれど。ミセル姫は性悪でも剣に関しては国と同じように重んじているし、王族として信念は間違ってはいない。
間違ったのは歪んだ性格だけだ。
「魔法攻撃に剣が何をすることができて?」
「いや…普通に斬りますよ?当たり前じゃないですか。セシル様。」
セシル様はおそらく気が短い。少しわがままな姫様だなとは思っていたのだが、僕の態度が気に入らないのか、隣りの黒服の男が拒むのを権力で無理矢理ねじ伏せてしまった。
「グレン殿。すまない。」
すまないと言って魔法の炎の固まりを放たれたのは初めてだ。絶対にすまないなんて思ってはいないだろう。
(でも、さっそくロナール様に教えて頂いたことができるな。)
観察。観察…観察するまでもないな。
いくら殺傷能力が高い炎魔法だとしても、馬鹿正直に真っ直ぐ向かってくるだけなら切り捨てるのも簡単だ。
下からの切り上げ。二分された炎は勢いも魔力維持も保てなく何処かに着弾する前に力なく消えてしまった。
「何を驚いているのです。初めに斬りますよと伝えましたが…。斬るのだめでしたか?」
セシル様からの応答は何もなかった。
「マール様は何を必要と答えたのですか?」
少し僕に戸惑ってしまったのかマール様は引きつったような声で「……お金。金よ!」と答えてくれた。
「国が滅んだら、この国の金に何の意味があるのですか?」
僕の答えに対して、僕までは聴こえない声量でテーブルを見ながら呟き続けるマール様。
これ以上、何か聞いても明確な答えは期待できそうな雰囲気ではなかった。
「あらあら…。あらあらあらあら!どうしたのですセシルにマールまで。つい先程までお元気だったではありませんか。」
勝ち筋が見えたとミセル姫は、ここぞとばかりに顎下に白手袋を身につけた甲を当て二人に高笑いのお返しをしている。つい先程まで涙目だった彼女は既に気持ちの切り替えができている。
ある意味、国の政に携わる人物には必要なことかもしれないが、身内間でこんなに感情豊かに振る舞うのなら、
王女よりも、街の演劇場で民衆を楽しませる道化にでもなれば良いのに。
「貴女達は私と戦をしたら、グレンの前に敗北よ。私のグレンは、とっても強いのですから。」
私のグレン。そんな言葉なんて今まで一度も言われたことはない。何も知らない従者なら、誇らしくなるかもしれないが、この姫の性悪を体験した者だったら気分が悪くなるだろう。実際、僕の背中は寒気に襲われた所だからな。
「さぁ、グレン。次のお題は貴方が考えなさい。」
以外だった。当てられたのは初めてだ。次回のお茶会は何ヶ月後だろうか。もしかしたら僕は、姫様の元を離れて婚約者の傍にいる可能性だってあるのに。
朝話したばかりなのに、やはり僕の話しはどうでも良かったのだろう。全然、姫様には伝わっていなかった。
この醜い口論を、いきなり現れたの従者の青年が瞬く間に場を征した。そして、お題と言う苦難をなんなく引き受けた器の広さ。
まさしく救世主。
そんなふうに捉えてしまう、各姫の従者達。この人達も普段から姫様達に苦痛を味あわされているのだろうか。