04.変化
俺は今頭を悩ませている。
何かを見ている訳ではないが、一点を見つめてボーッとしている。
俺は何かしたか?
あの日のことをよく振り返って見ると、俺とジンは天造技術の時間に、全身全霊をもって測定用ダミーにまあまあな傷をつけた。
修復しにくい壊し方をしてしまったのだろうか...?
それが原因?
否だ。
なぜならジンは呼ばれていない。
厳密に言うと、ダン先生"には"呼ばれていない。
同じ件で、別々に呼ばれることはないだろう。
だとしたら...
本当に分からない...
学校で暴れたりなんかしないし、先生に舐めた態度も取っていない...と思う。
考えながら歩いていると、廊下で先生と生徒が話しているのが見えた。
どうやら先生は生徒から渡されたプリントを見ているようだ。
「うーんと、君の特性は《引火》で合ってるよね?」
「はい」
生徒は頷くと同時に答えた。
「じゃあとりあえず、この教科書を読んでくること、それと来週からは放課後に先生のところに来てください。」
「分かりました!」
教科書を受け取った生徒はそう言って去っていった。
なるほど。
要は特性持ちの生徒が呼ばれるって訳か。
まあ、特性によって力の扱いが変わるなら確かに必要か...
だけど、放課後に残るのはめんどくさいな。
「あ、いた。」
いきなり後ろから声をかけられ、びっくりして振り向くとそこにはダン先生がいた。
「うわ!」
すると、いきなり襟の後ろを掴まれ、連行された。
これって体罰だよね?うん、体罰だ...
まあ良いんだけどね?やっぱり怒られてたか...
俺、憧れの先生に嫌われちゃった...
とか考えていると、ダン先生は俺を連れていきながら、今はほぼ使われていない教室に入った。
「よし、誰もいないな...」
ダン先生は教室の外を眺めながらそう言った。
「なんで連れてきたのか説明してやろう。
それは、お前が《異常特性》持ちだからだ」
「異常特性...?」
俺は聞いた事のない単語に戸惑っていた。
するとダン先生は説明してくれた。
「異常特性って言うのは、自分の持つ天造力とは無関係の特性を持っているということだ。
お前の天造力は《雷》だが、お前の持つ特性は《磁力》ではなく《重力》だ」
待て待て。
重力ってあの重力だよな?
絶対強いよな?
俺は少し嬉しい気持ちになった。
「お前がテストで見せた、触れた敵に電磁力を持つ電気を帯電させ、電磁力を付与した石を投げる基礎技を使っただろ?」
「使いましたね」
「確かにあれからは電磁力を感じたが、あの磁力じゃあんな威力は出せない。だから、そう判断した。
それともう1つ。俺も重力特性持ちだ。」
「えっ...」
物凄い高揚感が俺を襲った。
胸が満たされていくのを感じた。
あの憧れの人と同じ天造力を使い、更に同じ特性持ち!?
嬉しいことこの上ない。
今ならなんでも出来る気がした。
今すぐにでもジンに自慢しに行きたい。
「だが、これはあまり言いふらすな」
いきなりストップをかけられてしまった。
この人心が読めるのか?
と思う時が時々ある。
これも人生経験なんだろうか。
ダン先生は続けてこう言った。
そしてそれは俺に謎を残す言葉だった。
「異常特性持ちはもう"普通"の生活は出来ない。
しかも、特性が重力となれば尚更だ。
だから俺は話したくなかったんだ...
俺自身、この特性のせいで人生が潰れたも同然だ。」
そう語るダン先生の顔は、心底人生に呆れているって感じだった。
どれだけ力があっても、人間は人間なのか。
色々聞きたいことはあったが、そういう雰囲気でも無いので、そのまま解散した。
それにしても『人生が潰れた』ってどういうことだ?
みんなに認められているし、苦しい生活をしているわけでもないのに、なぜそう思ったんだろう。
俺には疑問だけが残った。
ふと前を見ると、ジンがいた。
「あっジン!今日も一緒に帰ろう!」
「ん?レルか。
良いよ、一緒に帰ろう。」
うーん...?
この様子のジンは何か隠し事をしてる。
ジンは普段、俺が思わず目を逸らすくらい、アイコンタクトがすごいんだ。
だけど隠し事をしている時は、びっくりするくらい目が合わない。
でも、何となく察した。
ジンも今日、副校長に呼び出されていたのだが、おそらく似たような感じだ。
ジンも《異常特性》持ちなんだろう...
何となくそう思った。
その日は、いつもより少し静かな帰り道だった。
――――――
寝る準備を終えて、ベッドの中で考え事をしている。
異常特性ってのは危険なものなのか?
それも、人生を変えるほどの...
あんなに感情の溢れる表情をしたダン先生は、初めて見たから、あまりのインパクトにあの光景がずっと脳内に張り付いている。
と同時に、俺の心配を助長する。
事実を聞いた瞬間は、周りとは違うという優越感に浸れていたが、今では心配が感情のほとんどを占めている。
それに特性があるからと言って、強かったり、優秀である訳では無い。
使いこなすにはそれ相応の努力がいる。
確かに、俺は個性や自分らしさを追い求めてはいた。だが、今ではその求めた物が枷となっている。
俺はこの特性を上手く自分の物にできるのか、プレッシャーだけが重くのしかかる。
(あの時のあいつも、こんなに悩んでたのかな...
いや、それ以上か)
今まで悩み事をしたことがなかったから、クリファにあんなことが言えたんだ。
胸が苦しくなり、落ちていっているような、嫌な感じがする。
(ジンも大丈夫かな...)
1人悩み、眠れない俺をよそに、外ではカエルの鳴き声が遠くへと響いていた。