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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生一学期
9/76

新崎さんは抑えている

 調理実習の時間になった。

 4人1組で班を作り、協力して究極のメニューを完成させる。

 今日の献立は、鰤の照り焼き、白米、味噌汁という、育ち盛りの男子高校生にはややもの足りない量のものだ。

 まあ足りない分はあとで購買にでも寄って、軽く何か買えばいいか。


 「こん中で料理出来る人~」


 笹塚のその呼びかけに、和泉さんと新崎さんが手を挙げた。

 納得のメンツだな。

 和泉さんはギャップの人だからなんとなくそんな気がしたし、新崎さんはクッキングパパとか読んで影響されてそうだし、笹塚は料理とかしないだろうし。俺は俺で色々終わってるし。

 

 「じゃあ出来る人と出来ない人で別れっか。

 俺と和泉で鰤照り作っから、小鳥遊と新崎さんで味噌汁よろしく」


 ……笹塚ってこういう時、意外とリーダーシップ発揮すんだよな。

 面倒見が良いって言うとちょっと違うけど、まとめるのが上手いって言うか。


 「じゃあ新崎さん、よろしく」


 「こちらこそ」


 「米は鍋ならわりとすぐ炊けっから、作業の目途立った方がやんぞ」


 「わかった」


 そんなこんなで役割分担が終われば、さっそく調理開始だ。


 「小鳥遊くん、野菜、切れる?」


 野菜……野菜か。


 用意された味噌汁用の野菜は2種類。

 ネギと、既に皮まで剥かれている大根。


 どちらも切ったことがないから何とも言えないけど……うん、こういう時はAMEMIYAの祖父の口癖だな。

 『何事も経験』だ。


 「大根なら、出来るかも」


 「じゃあ、1センチくらいの厚さに切って、4等分して」


 「う、うん……」


 ぐっ、指示が細かいな。

 野菜は包丁の金気を嫌うでやんすし、ここは思い切って手でがっと……


 「エンドレス深呼吸♪ 一人一人が♪」


 ……新崎さん。


 「熱い息を持っているさ♪ 何だって出来る♪」


 驚いたよ。

 クッキングパパでも、美味しんぼでもない。


 ミスター味っ子をここでチョイスするそのセンス。脱帽だ。


 「ネギ。いい香りだけど、味は少し苦手」


 そうなのか。俺は結構好きだけどな。

 焼いたらとろっとして美味しくないか?


 「ネギを用意する。出来るだけ真っ直ぐなものが好ましい」


 ああ、けんた食堂。

 あれ美味しそうだよな。早く大人になってあの人のお酒の飲み方真似したいよ。


 「ネギは斜めに切っていく。厚さは均等でもいいが、まばらな方が面白い」


 へぇ。じゃあ大根も同じ感じにしてもいいのかな。


 「鍋に昆布を戻した水をはり、鰹節を入れて一煮立ち……は出来ない。出汁パックで代用しよう」


 急に我に返ったな。

 まあ調理実習でそれはやりすぎか。


 てかそうやって得た知識、技術が無くてもちゃんと出来たりするのかな。

 料理とか、知識がかなり先行しがちなものって印象だし、そこそこ練習しないと身につかないよな。

 だから俺料理苦手なんだよな。


 新崎さんは凄いな。しっかり知識が身についてて。


 まあそれはそれとして、大根はこんなもんでいいか。ちょっと形とか厚さが変だけど、俺にしては上出来だろ。


 「新崎さん、切れたよ」


 「わ、上手。ありがとう」


 「ちょっと不揃いだけど、いいかな」


 「いい。その方がおもしろい」


 けんた食堂染み付いてるな。


 「そっか。じゃああとは鍋に入れるだけ?」


 「うん。だから、私たちでお米炊こう」


 「だね」


 米の炊き方な。

 ホワイトボードに書いてある説明を読む限り、思ったよりは簡単そうだ。

 要は、米と水を鍋に入れて火にかけるだけ。これなら俺にもギリ出来る。


 「同じ大きさ、形のお米を選別して、至高の白米を炊く」

 

 美味しんぼの「もてなしの心」か。本村さんがあの雄山を感動させた米の炊き方。

 やっぱり美味しんぼも抑えていたか。流石だ。



 ……いや、その作業何時間かかると思ってんだ。余裕で授業終わるぞ。


 「鍋に米と水入れて火点けるだけでいいんだよね?」


 「……うん、大丈夫」


 新崎さんから小さく「本村米……」と聞こえた気がした。

 まさか本気だったとは。



 その後はトンテンカンテン。特に滞りもなく調理は進み、お皿に盛り付け、無事に完成した。


 「おあがりよ」


 だな。

 お食事処ゆきひら。片松高校調理実習室店、開店だ。



 テーブルに並べ、「いただきます」と挨拶を済ませ、まずは味噌汁から。


 出汁パックのおかげか、味が深い気がする。

 具がネギと大根だけってのも、いい。


 この鰤の照り焼きも、照り焼きの味がしていい。

 白米と一緒にかきこめば……うん。美味しい。



 ……俺に食レポは無理だな。

 うめぇしか言えねぇ。


 「うめ」 「うめ」 「うめ」


 だからそれやめろって新崎さん。

 なに? 何か食べる時毎回それやってんの? 「おかわりもいいぞ!」待ちなの?

 もはやあれフラグなんだから、トラウマだから、しんどいから。これ以上続けるなら嘔吐ガス散布も辞さないから。


 「本村米……」


 まだ言ってる。

 お家でやりな。


 「涙は隠し味……か」


 ああ。人生はちゃんこ鍋だ。



 「……おいしく出来て、よかった」



 そうだな。





 「ごちそうさま」と食器を片し、洗い物を済ませ、調理実習はつつがなく終了した。


 そう、調理実習は。



 そのまま昼休み──という流れで現在。



 「あと……ひと、くち……」


 「せーちゃん、がんばって」



 「うぅ……ごちそうさま……」


 和泉さんは死にそうになりながら、新崎さんにも手伝ってもらい、そうしてなんとか、お母さんが作ってくれたというお弁当を完食した。


 その親孝行、見上げたもんだよ。




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