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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生三学期
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……おや!? あさみさんの ようすが……!


 バレンタインの翌日。

 お見舞いの次の日。


 浅見さんに呼び出された。

 これまた突然の出来事だ。


 まったく、急に何か言ってくる事多くないか? 俺の周りっつーのはなんかなあ。

 急に何か言ってくる事多くないか?


 急に何か言ってくる事多い!

 

 うるさい!


 本当だからだ! 本当の事言って何が悪いんだこの馬鹿!





 さて、

 時は放課後。

 所は第二書庫。その手前だ。

 俺は扉を開けられずにいた。


 いつだったか、俺はこの扉の向こうで、状態2から殺害予告を受けたことがある。

 それが鮮明に焼き付いていることと、あとはなんだろう。


 いつかは一緒にクッキーを食べた。

 状態2の手作りのチョコクッキーだ。

 あれは本当に美味しかった。

 機会があればまた食べたいものだ。


 思い返すと、ここには何度も訪れていた。

 状態2からの呼び出しが多かったからな。

 最近はめっきりだ。足が遠のいていた。

 呼び出しも無いし、状態2は現れないし。


 だからだろうか。

 この扉を開けて、その向こうへ入ったとして、

 なんとなく思う。


 そこにはきっと、浅見さんが居るんだろう。


 そこにはきっと、状態2は居ないんだろう。


 そして、もう二度と状態2と会う事は無いんだろう。


 俺は今、シュレディンガーのにゃんこに甘えている。

 この扉を開けるまで、事実は確定しないからだ。

 浅見さんが居るかもしれないし、居ないかもしれない。

 状態2が居るかもしれないし、居ないかもしれない。


 結果を確定させたくない。


 入ろうとして、ドアノブが捻れないまま。

 ただでさえ人が少ない図書室の奥。第一書庫。

 そこよりもさらに奥の第二書庫。


 人なんて誰も来やしない。

 図書委員が本の整理だなんだでたまに来ることはあるけど、そんなのは状態2が避けて呼び出していたからか、


 この曜日は大丈夫。


 というのが俺にもわかるようになっている。


 だからこれは、そういう緊張とはまた違う。

 


 ……もし、



 もし、あの尊大な態度で、

 難しめな漢字を多用してるだろう偉そうな口ぶりで、

 そのくせ人見知りで、

 義理堅くて、



 もし、そんなあの人に、また会えるなら。



 俺は一縷の望みを抱いて、扉を開いた。

 開いた……うん。手が勝手に動いただけだけど、開いた。



 扉の向こうには誰も居なかった。



 いや、あの人はいつもこの図書室の奥の奥にある第二書庫のさらに奥の方、隅の方に居た。

 だからまだわからない。

 結果は確定していない。


 マジで()()緊張する。

 浅見さんに、状態2に会うだけなのに。


 静かな図書室よりもさらに静かな第一書庫。

 よりも静かな第二書庫。

 静かな場所では大声での会話や物音は目立つ。雑音を立てないよう、人はみんな静かになる。

 俺も例に漏れない。


 俺は足音を殺して歩いた。

 緊張から、思わず生唾を飲み込んだ。

 足音よりこのごくりって音の方がデカい気がする。


 奥まで行って、床に散乱した本の山の端が見えた時、


 その本の向こうに立つ白衣を着た女性が腕を組んでいたのが見えた時、


 その目が、キリッと吊り上がっているのが見えた時、



 俺は、



 「……お、遅い」



 俺は、心の底から安心したんだ。



 「状態2……」


 「は、はァ? 何だ、そ、其れは」


 っと、そういえば俺は状態2の事を「浅見さん」としか呼んでないんだった。

 そりゃ伝わらないか。


 「何でもないよ。

 その、久しぶり、だね……?」


 「あ、ああ。然うだな」


 本当に久しぶりだ。

 最近の浅見さんは白衣を着ていなかった。

 トレードマークなのに。


 「元気?」


 「う、ああ。問題無い」


 「そっか。なら良かった」


 問題無いと言うだけあってか、彼女のボサボサ頭も今ではとぅるんとしている。

 眼鏡もビン底から何やらおしゃれそうな黒縁のいい感じの物になっている。

 もはやぱっと見じゃ誰かわからないレベルの変貌を遂げている。


 「そっちはどうだ? 元気か?」


 こうして目の前にいる状態2は、髪こそとぅるんとしているけど、ビン底眼鏡に白衣を着ていた。

 であれば、十分だ。


  「うん。元気──」


 十分だ。

 と、思ってしまった。


 指先が、膝が、震えていた。

 誰のって?

 勿論浅見さんのだ。


 口元はまるで、自然と下がってしまう口角を誤魔化すかのように、キュッと結ばれている。

 口調もなんか、辿々しくないか……?



 彼女はきっと、俺が気付いた事に気付いたのだろう。

 ふと、組んでいた腕を解き、白衣の裾をギュッと握った。


 そして、そのまま力無く崩れ落ちたのだった。


 浅見さんは、浅見さんだったのだ。





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