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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生三学期
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2月の熱

 新しい席にもだいぶ慣れてきた。

 依然として、浅見さんの周囲の人たちとはろくに関わることもないままだけど、俺としてはこのままで良いと思っている。


 だって彼女たちは休み時間に女子同士で話しながら、チラチラとこっちを見てはぼそぼそと何かを喋ったりしてるんだ。

 十中八九俺の悪口だ。

 何でかはわからないけど、きっとそうだ。



 そんなわけで俺はここ最近、休み時間の度に笹塚の席へ行くようになった。

 この辺りには笹塚の他に、新崎さんも和泉さんもミアさんも石蕗の野郎もいる。

 近くでぐちぐち言われるくらいなら、何にも気にならない遠くへいた方が気が楽だ。


 特に話題があるわけじゃないけど、その時SNSで見かけた何かしらに触れたり、ゲームの話とか、アニメの話とか、漫画の話とか、石蕗はその辺に疎いのかあまり参加してくる事はないけど、こいつは一般常識に欠けた人間だから気にする事はない。

 ぐだぐだと過ごすこの時間が、俺は結構好きだ。


 そんな緩い空気の中で交わす雑談。

 笹塚が思い出したように口を開いた。


 「そういやもうすぐバレンタインだな」


 「おぁっ、そ、そうだな!?」


 それに和泉さんが大袈裟に反応する。

 誰かに渡す予定でもあるんだろうか。


 「バレンタイン! 2月最大のイベントだネ!」


 「そうだね」


 盛り上がりを見せる女子陣。バレンタインは女性がメインのイベントって感じがまだ色濃いし、きっと楽しみなんだろう。

 そんな彼女たちとは対照的に、俺たちは割と落ち着いていた。


 「まあどうでもいいけどな」


 笹塚はそんな事を言ってスマホを弄っている。

 コイツは去年もこんなんで、結局一つも貰えていなかった。

 とどのつまり強がりだ。


 「そうだな」


 俺はそんな笹塚に同意する。

 しかしそれは強がりじゃない。

 俺も去年は0個だったけど、それでも強がりじゃないんだ。

 未だ俺と新崎さんが付き合っていると言う嘘を信じて疑わないポリグラフキラー石蕗の視線が刺さるが、しかしそう言う事である。


 去年と違い、今年は異性の友達が何人か出来た。それも、長期休みにも遊ぶような仲の友達がだ。

 内1人には告白だってしてもらえた。

 ってことは。だ。


 友チョコでも義理チョコでも何でも関係ない。

 今年は流石に貰えるだろ。

 これで貰えないは嘘だろ。


 ……なんてな。

 いやまあ、貰えないなんて事はないと思うけど、でもそれも絶対じゃない。

 おんたん以外は絶対じゃないんだ。


 もしかしたら貰えないかもしれない……いやでも今年1年間仲良かったし……でもでもだからってそれすなわち貰えると言うわけじゃないし……


 ぐるぐると抜け出せない無限ループ。

 だから俺は思い込む事にしたんだ。

 今年は貰える。と。


 「いや〜そんな事より水戸市の市外局番って029なんだぜ。納豆の町の番号が「おにく」って、皮肉効いてるよな」


 「ああ、そうだな」


 笹塚は強がりが変な方向を向いてしまっている。ここまでやると不自然になることもわからないとは、よほど壊れてしまっているように見えるな。頭を冷やすため廊下に立った方がいい。


 「笹塚、素直じゃねぇなら今年もゼロだぞ」


 そんな笹塚を和泉さんの冷めた視線が刺す。

 それを受けた笹塚。


 「……」


 無言で流れるような土下座を披露した。


 「ん、よろしい」


 笹塚の凄惨な去年を引き合いに出すか。そりゃこうなるのもむべなるかな。


 「た、小鳥遊くん」


 と、クイッと袖が引かれた。振り返ると、新崎さんがこちらを見上げていた。

 ここ数ヶ月は避けられていたから、随分久しぶりに感じる。

 まだ以前のようには振る舞えない彼女。俺の名前を呼ぶ時にも思わず噛んでしまったようだ。

 原因、いつか聞けるといいな。


 「どうしたの?」


 「えっと、小鳥遊くん、チョコすき?」


 「チョコ好きだよ。チョコクッキーも好きだよ」


 「なるほど……参考にする。ありがとう」


 「……いいえ。


 ──あっ、ちょっとトイレ……」


 俺は教室を後にした。

 そのまま真っ直ぐトイレへ行き、個室へ入り、鍵を閉める。



 ──ちょこすき?



 ──参考にする。





 キタ。


 キタキタキタキタ。


 キタ!!



 気付くと、俺はどこかの生徒会長よろしく、意味もなくシャドーボクシングをしていた。

 あの時の彼の気持ちがよくわかる。これは身体が勝手に動く。


 目の前の影が繰り出す右ストレートを掻い潜った俺は、そのままキャンバスを踏み抜くように蹴り、ガラ空きの顎へアッパーカットをお見舞いした。

 レフェリーはカウントも取らずに試合を止める。

 完全勝利だ。


 俺の腰にチョコが巻かれる。


 苦しい1年間だった。

 それがようやく報われた。


 勝利者インタビューにはそんなふうに答えた。



 ラウンドガールを務める新崎さんより、手作りのトリュフが贈呈される。


 と、俺はそんな新崎さんの髪に手を伸ばす。


 ホワイトチョコ 髪に付いてたよ


 う…わ──────


 ……ホワイトチョコはなんかあれだな。あれと言うかアレだな。小枝とかにしとくか。



 「ふぅ。戻るか」


 1個内定。しかし油断は命取り。

 なんならもっと貰えるように、カマすしかない。





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