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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生三学期
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新しい席と、となり (2)

 「それでは、3月の終業式まではこの席でお願いします」


 さーて困ったぞ。


 冬休みも明けた今日からまた新学期が始まる。

 そんな今日は新学期ということで席替えが行われた。イベントらしいイベントは特に何もない今学期だけど、それでも進級までの2ヶ月はこの席の並びとなる。


 「よ、よろしくね。小鳥遊君」


 さて、そんなわけで浅見さんが隣の席になった。


 「う、うん……よろしく……」



 ……いや割とマジで困ったぞ。


 隣に座す浅見さんは、若干顔色が優れないか、困った表情をしている。

 きっと俺もしている。


 大丈夫なのかいや大丈夫な訳ないこれは。

 あれ以来一言も会話をしていない。新崎さん以上に会話をしていない。

 そんな浅見さんが隣の席になったわけだ。そりゃあ困る。

 浅見さんもきっと、俺と同じような気持ちだろう。

 お互いどうしたらいいのかわからず、交わせたのは社交辞令の1ラリーだけ。

 いっそ全く知らない人が隣になった方が会話が弾むレベルだ。


 しかし突然、そんな空気に新しい風が吹き込み、


 「紗和ちゃんいい席で良かったね〜」


 と、


 「それ〜、寝放題じゃんいいな〜」


 と、


 「あっ、隣は小鳥遊なんだ〜、ふ〜ん」


 と、


 「え、えへへ、でも、みんな近い席で良かったね」


 となった。


 ……凄いな。これがニュー浅見さんか。

 次から次へと名も知らぬ女子がやってきて、わいわいと楽しそうに話をしている。

 遠目で見て彼女の現状がこのようにガラッと様変わりしていることは知ってはいたけど、いざこうして目の当たりにすると眩しいのなんの。

 場違い感がグサグサと刺さるな。


 はぁ、アイツらはいいな。近くに固まれて。


 今回の席替え、俺の位置は前回から変わらなかった。黒板を正面に、廊下側から3列目の最後尾のまま、変わったのは自分じゃなくて周りだった。

 2連続で隣の席だった新崎さんは窓側の中腹に移っている。隣の席は名もなき男子だ。覚えてない。

 最後尾でなく隣には他人と言うと、随分過ごしにくい席に移動したように感じるがしかし、近くには笹塚も和泉さんもいて、ミアさんや石蕗もそう遠くない席にいる。それなら十分だろう。


 対して俺は陸の孤島だ。

 隣の席は浅見さんだけど、その他のメンツは話したことすら無い人だらけの魔窟。


 席替えは、学校生活における恐怖のイベント。

 人間関係を強制的にシャッフルさせる不可避のイベント。


 今年は常に知り合いや仲の良い人に囲まれていたから、油断してしまった。


 俺、大丈夫かな……



* * *



 席替えが終わり、授業が始まった。


 「〜で、〜だから、〜すなわち──」


 相変わらず、数学は意味不明だな。異国の言葉みたいだ。


 これまでは意味不明な授業も、隣の席が新崎さんだったから、彼女の独り言や奇行があったからそれなりに楽しめた。

 いや、楽しめたのは授業そのものじゃなくて授業の時間か。

 この50分がこれまではお楽しみの時間でもあったのだ。

 文化祭以降はあんまりだったが。


 対して今、新崎さんと入れ替わるように隣にやってきたのは浅見さん。

 彼女は至極真面目な態度で授業に臨んでいる。

 ちらっと見たノートは綺麗に纏められていて、視認性が非常に高そうだった。

 俺や新崎さんのように隅の方に落書きしたり、パラパラ漫画を描いたりしていない。


 新崎さんの描く1ピクセルシリーズとか好きだったんだけどな、アレももう見れないのか。


 ──あ、新崎さんの机がちょっとだけ見える。

 机の上でまた何かしてるみたいだけど……何だアレ、また藁人形か? また実母を呪おうとしてるのか?


 あ、違う。シルバニアファミリーだ。

 シルバニアファミリーに藁人形が参戦してるんだ。

 なんでだよ。


 うっわあ、もっと間近で見たいな。絶対面白いやつだろ。


 くそ、ここからじゃよく見えない。


 「たっ小鳥遊君、どうしたの?」


 と、新崎さんの奇行を見ようとして俺の首がぐわんぐわんと動いていたのが気になったのか、心配そうな顔をした浅見さんが声をかけてきた。


 視界の端でちょろちょろされると気が散るか。ごめんよ。


 「えっ、い、いや……何でもないよ」


 はぁ。誰かの迷惑になっちゃいけないよな。大人しく授業受けよう。


 「もしかして、新崎さん?」


 「えっ」


 思わず体が硬直した。

 言い当てられてドキリとした。

 別にやましいことはないのに。


 「すっ、好きなの……?」


 そう言われてまたドキリとした。

 別にそういうわけじゃないのに。


 「そっ、そんなんじゃないよ。外に綺麗な鳥がいた気がしただけで……」


 そのせいか、思わず誤魔化してしまった。


 でもそうか、思えばこの人……と言うか、状態2か。

 俺は彼女から告白されたんだよな。


 浅見さんの中における状態2が、設定なのか、本当の別人格なのか、俺は結局よくわかっていないままだ。

 もし設定であれば、あの想いは彼女自身のものと言えるわけで、それはつまり紛れもなく愛の告白を受けたわけだ。

 そんな人の前で他の女子を気にするのは失礼だよな。


 「鳥……シジュウカラかな。背中が黄緑色で綺麗なの」


 我ながら下手くそな誤魔化しだったのに、信じてくれたようだ。


 てかすご。鳥詳しいんだな。

 そういえば浅見さんは動物園に通うくらいには生き物が好きなんだっけか。


 「詳しいね。鳥好きなんだ?」


 「う、うん……すき……」


 ……何で頬を赤らめる必要が──あっ、


 「そっ、そっか」


 「うん……」


 鳥が、鳥がね。

 鳥が好きなんだよね。うん。



 ……クソ。鳥から話を広げようと思ったのに、とんだ墓穴を掘ってしまった。


 この席で春休みまでか……

 気が遠くなるな……





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